第三章 ザンガリオスの道標 3-5
一行はひた走りに公都トールンを目指す。
途中ザンガリオス側のたっての望みで、リューベルス太陽の開拓団の集落で小休止を取った。
村長を始めとした主だった者と再会し、過日の温かいもてなしの礼を伝えた。
ペーターセンの死を知った彼らは、心から哀悼の意を表してくれた。
その際に村長は、ペーターセンから預かっていた宝剣の返還を申し出たが、バッフェロウは頑なにそれを受けはしなかった。
尽きぬ礼をなんども繰り返し、一行は村落を去った。
開拓地最大の街テネセルスで物資の補給を兼ねた休息が取られた後は、ただひたすらにトールンへの道を急いだ。
「キュリアーノ殿、トールン入城の際の彼らの扱いはどうされるのです。まさか沓を並べて共に入られるのですか」
デオナルドが馬を並べ、この先のことを訊く。
「そうするしかあるまいよ、なにせ彼らは虜囚でもなければ敗残兵でもない。われら追討軍と対等な和議を結んだ者たちなのだから」
キュリアーノは、当り前だと言わんばかりに応える。
「果たして、それで星光宮のみなが納得するでしょうか。大公殿下に対して、謀叛を起こした者共なのですよ。形だけでも取り繕わねば、追討軍としての恰好がつかないのではありませんか」
「デオナルド殿、それ以上の進言はおよしなされ。キュリアーノ殿はすべて分かっていながら、この和議を受け入れられているのです。それなりのお覚悟があるはず、お任せ致そうではありませんか」
横からレミキュスが、デオナルドに意見する。
自分の肚の中まで分かっているようなレミキュスを、キュリアーノは満足そうに無言で見ている。
「それに彼らとて、自分たちの立場は充分に分かっているはず。彼らの立ち居振る舞いは彼らに任せればよい。英雄とまで謳われたバッフェロウ将軍だ、それなりの分別はお考えであろう。すべては大公殿下の御前にてはっきりする。あなたが気を揉むことはありません」
レミキュスに諭され、デオナルドはそれ以上なにも言わなかった。
そこへショウレーンが提案する。
「もしよろしければ、わたしが先行して星光宮へ戻り事の次第を説明いたしましょう。すべての人々が納得することなどが土台無理な話し、大公殿下と主だったお方にご理解して頂ければ、それでいいのではありませんか」
「ショウレーン殿、あなたは初めからザンガリオスの人々を救うために、この陣に加わられたのではないのか」
急進派のオハラが、遠慮もなく訊いて来る。
ペーターセンの自決以来彼の言動は一気に静かになり、いまも特に声を荒げている訳でもない。
根っからの武人である彼は、ペーターセンの潔い死に思う所があったのかもしれない。
「ことがこう落ち着きましたからには、すべてを申し上げましょう。その通りです、わたしは此度のザンガリオス追討を穏便に解決するために遣わされました。わたし自身が随行を希望したのも間違いありませんが。これはわが主フェリップだけの意思ではありません、大公殿下もそれをお望みでした。殿下はペーターセン殿とザンガリオス家をお救けしたいとお考えです、これは間違いありません。意に反してペーターセン殿はお亡くなりになられたが、まだ跡を継がれたケネット殿もおられる。これ以上の犠牲はお望みになられますまい」
「やはりそうでしたか、殿下の意を汲んでいらっしゃったんですな。なんともお優しいお方だ、わが大公さまは」
しみじみとした口調で、キュリアーノが呟く。
「ショウレーン殿、すぐにトールンへ急いでください。この和議の責めは幾らでもこのキュリアーノが受ける、されどザンガリオスの兵の矜持は保証して頂きたい。ペーターセン殿との約束ゆえな。トールン入城の際に間違いが起きぬよう、手はずを整えて下され。われらはもう敵味方ではない、同じく殿下の臣民なのだから。それとジェニウスで起きた真実も、殿下にお伝えしてくれ。サイレンの大乱があったればこそ引き起こしてしまったことだ。その後の国同士の駈け引きは星光宮に委ねるしかないが、事の理非だけはお耳に入れておきたい」
キュリアーノが頭を下げる。
「お手をお上げください、貴方さまのご決断がなければ今頃双方に多大な死傷者が出ていたでしょう。わたしこそ頭を下げます、よくぞご英断くだされました。並の人間に出来ることではございません」
ショウレーンがキュリアーノの手を取り、深々と首を垂れた。
「ではわたしも同行いたしましょう、聖龍騎士団並びに元帥府への説得のために役に立つでしょう。彼らがこの和議を納得すれば、ほかの者も従わざるを得ない。なにせわたしを含む彼らこそ、全滅の危機に陥った当事者なのですから」
レミキュスがトールン行きを申し出る。
こうしてショウレーンとレミキュスは数騎の護衛と共に、トールン星光宮目指して先発して行った。
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