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第三章 ザンガリオスの道標 3-3



 二度目の交渉の場には、それぞれ二名の随行する者を連れていた。

 キュリアーノの左右にはデオナルドとオハラ、ペーターセンの後ろにはバッフェロウとフロイが控えている。


「わが方の条件を呑む決断をされましたか、ザンガリオス候」

 まずはキュリアーノが口を開く。


「そちらの方こそ、われらとの和議をご納得頂けただろうか」

 交渉はお互いの要求を主張し合うことから始まった。


「ペーターセン殿、投降されても無下な扱いをするつもりはないのです。礼を持って迎え入れ、トールンまでの道のり決して粗略には扱いません。どうか投降を受け入れて下さい」

 若いデオナルドが、丁寧な言葉遣いで説得する。


「それは出来申さん。鉄血騎士団は結成この方百年以上、剣を携えずして行軍したためしはない。ましてや戦に敗れもせぬのに降るなど、あり得ぬ話しです。わが殿も申されたと存ずるが、トールンにて大公殿下からお裁きを受けるにはなんの文句も言わぬが、同じ臣下であるあなた方に降る気はない。わが騎士団の矜持でござる」

 バッフェロウが堂々と反論する。


「あなた方に矜持があるように、われわれにも課せられた任というものがある。われらは大公殿下の命の下、謀叛人の討伐に来ておるのです。互いに同じ立場で向かい合っている訳ではありませんぞ、あなた方は大逆という罪を犯した罪人とみなされているのをお忘れではないのですかな」

 キュリアーノが互いの立場の違いを説明する。


 筋からいえばキュリアーノの言うことがもっともであった。

 ザンガリオス側の主張は、一方的な我儘である。

武力を背景として、相手の譲歩を引き出そうとしているようにしか受け取れない。

 それでもキュリアーノは礼を尽くし説得しているのであった。


「ごちゃごちゃと五月蠅いことをほざきおって、投降したくなくばさっさと引き返し戦の準備をするがいい。力で捻り潰してやる」

 我慢ならず、オハラが口を出す。


「威勢のいいおっさんだね、なんならここで僕と剣を交えてみるかい。一小刻も掛けずに首を刎ねてみせよう」

 にこにこと笑いながら、フロイが小首をかしげる。


「小生意気な小僧め、相手になってやる」

 身体を震わせ、オハラが腰の剣に手をかける。

「いいね、先に一太刀振るわせてあげるよ。その位の優位をあげなきゃ不公平だからね。僕は強いから」

 まるで揶揄うように挑発する。


「言わせておけば調子に乗りおって、許さんぞ」

 剣を半分ほど引き抜きかけた時、キュリアーノがそれを制し叱責する。


「場をわきまえよ、ここはわたしとザンガリオス候との話し合いの席だ。勝手に剣など抜けば、法に照らして処罰を与える。控えろオハラ」

 対するペーターセンも、困ったようにフロイをたしなめる。


「お前も余計なことを申すな、せっかくこのような機会をお与え下されておるノインシュタイン候に対して無礼であろう」

「分かったよ伯父さん」

 悪びれた様子もなく、フロイが頭を下げる。


「ねえおっさん、命拾いしたね。一太刀でも斬り掛かっていたら、いまごろその首は胴を離れてたよ。誰が止めようと僕はやめなかったはずだからね」

「フロイ!」

 今度は本気で叱られ、奔放な御曹司もさすがに肩を竦めてうな垂れる。


「キュリアーノ殿、では貴殿はどうあってもザンガリオス兵に投降しろと仰られるのですか」

 再度、相手に確認する。


「申し訳ないが、こればかりは曲げられません。われらは官軍でそちらは賊軍なのです、無条件の投降、武装解除の上に徹底した恭順しかありません。和議など出来ようはずはないではありませんか」


「そうですか──」

 深く溜息を吐いたペーターセンが、誰しも予想だにしない行動を取った。


「では致し方ない」

 静かにそう言うと、腰の大剣をスラリと引き抜いた。


「なにを血迷われたか・・・」

「と、殿、なにをなさいます」


 キュリアーノもバッフェロウも、あまりの事態に行動が伴わずに棒立ちとなっている。



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