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第三章 ザンガリオスの道標 2-5



 書簡を読み終えたペーターセンの脳裏に、アーディン、ペーターと呼び合い(じゃ)れ合っていた頃の光景が甦って来る。

 どんな罵詈雑言を投げつけられようと文句は言えぬのに、大公自らが辞を低くして争いを止めるように懇願していた。


「アーディン・・・」

 小さく呟き、その手紙をバッフェロウへと手渡す。


「お前も読んでみなさい、こんなお方に刃を向けたわが身が恥かしくなる。どこまでも慈しみの心を持った方だ、わたしなど足元にも及ばん。謀叛が為らずしてよかった、負け惜しみではなく本心からそう思う」


 バッフェロウは貪るように大公からの書簡に目を通す。

 読み終わったバッフェロウが、ぱっと明るい顔となった。


「殿、これは善き知らせです。大公殿下は殿とザンガリオス家をお庇いくださるお積りだ。戦を回避できる、われらは滅亡から救われましたぞ」

 ペーターセンは喜ぶでもなく、ただ静かな表情でゆっくりと頷く。


「ひとつ問題がございます、総大将のキュリアーノ将軍を始め諸将は兵の投降を希望なさっている。武装解除の上での徹底した恭順でなければ、受け入れられぬと申されております」

「武装解除をして、投降をしろとおっしゃられるのか。わが誇り高き騎士や兵に、まるで罪人同様に牽かれてトールンへ行けと。出来ぬ、それは出来ません」

 バッフェロウはいきり立つ。


「仕方がなかろうバッフェロウ」

 そういう主の言葉も聞こえぬかのように、英雄と呼ばれた大将軍は拳を握り締める。


「殿のお言葉なれど、こればかりは聞けませんぞ。われらは戦に敗けて降るのではない、戦をせぬために退くのです。それが受け入れられぬとあらば徹底抗戦あるのみ、矜持に死すも本望でござる」


「しかし、それでは話しがまとまりません。どうかご自重くださいませ、すべてはお家の安泰のためでございます」

「せっかくのお心なれど、為らぬものはならぬ。わが鉄血騎士団は、敗けてもおらぬうちから縄目に牽かれるような軟弱者ではない。命よりも名を尊ぶ騎士団だ、誇りを命の代価にはせぬ」

 ショウレーンは頭を抱えた。


 これではさっきの、ジェピターとキュリアーノ候との遣り取りとなんら変わらなくなる。


「そこをどうかご辛抱ください、わが主フェリップから託された思いをお汲み取りくださいませぬか」

 もうバッフェロウは返事さえ返して来ない。


「バッフェロウよ、せっかくの時の氏神を困らせるでない。大公さまのお心、フェリップ殿のご厚情を無駄にするわけにはゆかん。すべてはわたしとノインシュタイン候とが直接会って決める、それでいいな」

「殿がそう仰るのならば従いましょう、されど安易な妥協はなさいませぬように」


「聞いたかショウレーン殿、すべてはわたしが直接話す。正式な使者を征討軍に対して送る故、あなたは安心して待っておられよ。大公殿下の真心けっして無為にはせん」

 その言葉を聞き、ショウレーンは安堵の表情を見せる。


〝ショウレーン殿、もう一度目を瞑り数を数えて下さい。あなたを元に戻す〟

 頭にジェピターの声が響いた。


「ではわたくしはこれにて失礼いたします」

 元のように片膝を着き、目を閉じたその姿は一瞬のうちに消え去った。


〝ジェピター殿、あなたが手をお貸し下されたのか〟

 心でそう叫ぶペーターセンの目の前の空間が、人知れず微かに揺れた。





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