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第三章 ザンガリオスの道標 2-3



「あの者の話し、信じてもよろしいとお思いですか」

 デオナルドがキュリアーノを仰ぎ見る。


「ある程度は真実であろう、なにはともあれ相手の出方次第だ。しばらく待ってみるとしよう」


「そうですな。戦はないに越したことはないが、準備だけは怠らぬように兵の規律を再度引き締めておいたほうがいいでしょう。それとオハラ将軍からは目を離さぬようにせねば、万が一にでも手を出さんとも限りませんぞ」

 レミキュスの言葉に頷き、キュリアーノが遠巻きに控えている兵に声を掛ける。


「ジェノール、来てくれ」

「はっ、何事でございましょうか」

「いいか、オハラ将軍から一時も目を離すな。怪しい動きがあればすぐに知らせよ、勝手なことを仕出かさんとも限らん」

「承知いたしました」


 ジェノールと呼ばれた中隊長格の兵が部下を数名従え、急ぎ流星騎士団の陣へと駈け去った。


「やはりジェニウスの変事は王太子側の謀叛であったな。あのまま歳月が過ぎれば遠からずしてラキシュス殿下は廃嫡され、ケヴィン陛下の長子が王太子となるのは目に見えていた。先手を打って王権を奪ってしまったのだろう、一体なん人の人間が処刑されるのだろうか」

 遠くを見るような目で、しみじみとキュリアーノが溜息を吐いた。


「わがサイレンといい、ジェニウスといい、いつなにが起こるか分からんものですね。どの国にも火種は燻っているもののようだ。トールンでの裁きはこれからですよ。謀叛を起こしたのだから仕方がないが、わが国でも多数の者の命が失われましょう」


「サイレンの人間同士で命を奪い合うなど、馬鹿々々しい。他国との戦以上に内戦の後はなんともやるせないものだ、流れるのはサイレン人の血なのだから──」

 レミキュスの言葉を受け、デオナルドが天を見上げた。



〝ショウレーン殿、わたしの声が分かりますか。ジェニウスのジェピターです〟

 いきなりショウレーンの頭の中に声が響いた。


「ジェピター殿・・・」

〝しっ、声に出さなくても通じます。頭でお考え下さい〟

 声を立てないように注意される。


〝聞こえます、これも魔道なのですか〟

 初めて経験する遠話に、興奮気味にショウレーンが訊いて来る。


〝左様です、ほんの簡単な手妻ですから落ち着かれますように〟

〝分かりました、なにかわたしにご用でもおありなのですか〟

 訝し気にショウレーンが訊く。


〝いいえ、お話しがあるのはあなたの方ではないのですか? 先ほどなにか言いたげな表情で、わたしを見ておられた気がしたものですから〟

 しばしの沈黙の後に、意を決したようにショウレーンが話し始めた。


〝ジェピター殿、わたしもあなたと同じようにどうあっても戦を止めたい。そもそもわたしはそのために主フェリップから遣わされているのです〟

〝やはりそうでありましたか。なにか思いつめておられるようで、気に掛かっていたのです〟

 ショウレーンはさらに重大なことを告白する。


〝これは秘中の秘なのですが、大公殿下自らお記しになられた密旨を携えております。どうにかこれを秘密裏に、ペーターセンさまにお渡しする術はありませんでしょうか。どんな行き違いで取り返しのつかない事態になるやもしれません、そうなる前にどうにかしたい。ジェピター殿、わたしにお手をお貸し下さい〟


〝そのような大事、わたしなどにお話しされていいのですか。他国の人間ですよ、ましてや魔道士だ〟

〝先ほどあなたがキュリアーノ殿らに言われたことを聞き、信ずるに足るお方と確信いたしました。人の命を大切にするその心に嘘はなかった、あなたにならば命を預けられる〟

 熱き赤心を感じ取り、ジェピターは感動していた。


〝あなたがこの場にいてくれてよかった、人を慈しむ心を待った方がいてくれてよかった。武人や政治家ではなく、人間が居てくれた。それがわたしは嬉しい〟

 ジェピターも本音を語っていた。


〝いいですか、人目につかない所まで移動してください。わたしの術であなたをペーターセン殿の所へ飛ばす。時が惜しい、素早く動かれよ〟


 ショウレーンはジェピターに促されるまま、他人の目につかぬようにいたって自然に場を移動する。

 後尾の兵站が置かれた辺りまで行き、物陰に身を潜める。


〝ジェピター殿、ここなら人目につきません〟

 そう言うと、目の前に若き魔道士が姿を見せた。


「ジェピター殿」

 はっとしたようにショウレーンが呟く。


「これからあなたを飛ばします、片膝立ちになり目をお閉じ下さい。五つ数えたら目を開くように、そこにはペーターセン殿がおられる。あとはあなたにお任せする、善きように致されよ」

 余計なことはなに一つ言わず、ただ用件だけを伝えジェピターが奇妙に両手を交差させる。


 空間が異様な歪みを見せ始めた。


「さあ、跪き目を閉じて」

 ショウレーンは言われるがまま目を閉じ、頭の中で数を数え始めた。


〝一、二、三・・・〟

 目を閉じているはずなのに、頭の中が真っ白に変化して行く。


〝四、五──〟

 最後の瞬間、頭が光で満たされたような感覚に襲われた。


 急にすべてが収束して行くような、生まれて初めての感覚が身体全体に広がる。

 ゆっくりと目を開くと、そこには二人の人間の姿があった。



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