第三章 ザンガリオスの道標 1-5
「さあて、相手はどう出て来るものでしょうかな」
「十中九は、間違いなく投降又は和議の申し入れだろうな。いまのザンガリオスにそれ以外の選択肢はあるまい」
デオナルドの問いに、キュリアーノが応える。
「残りの一は、家名の矜持を護るために全滅覚悟の徹底抗戦。絶対にあり得ないことではない」
眉をしかめ、レミキュスが低く声を出す。
「そうなれば厄介なことになる、こちらの被害も相当なものになろう。なんとしても戦は避けたい、ペーターセン殿が賢明な決断をしてくれればいいが──」
「公家に連なる意地などを、お考えにならぬように願いたい」
そんな会話を聞きながら、ショウレーンは胸に忍ばせている密書を服の上から確かめた。
〝なんとしてでも戦は止めねば、わたしが無理に連いてきた意味がなくなる〟
彼の脳裏には、大きく温かい大将軍バッフェロウの姿が浮かんでいた。
〝同じサイレン同士の戦いなどで、あれほどの方の命を無駄にするわけにはゆかん。わが身命に賭けて止めてみせる〟
あれこれと考えを巡らせている一行に、突然どこからともなく声が聞こえて来た。
〝あなた方も戦を避けたいとお思いなのですね、そのお考えに嘘はございませんか〟
声はすれど、姿は見えない。
一瞬空耳ではないかと、四人は互いを見合わせる。
「声をお聞きになれれましたか──」
ショウレーンが、ほかの三人に確認する。
「聞こえた、確かに聞こえたぞ。空耳ではない」
デオナルドがキョロキョロとあたりを見回す。
〝これは空耳ではありません、確かにわたしが喋っている言葉です〟
声の主が、なにもない空間に忽然と姿を現した。
「魔道士か、どこから来た」
驚愕する三人に代わって、レミキュスが思慮深い眼差しで訊いた。
「ジェニウスの商務長官を務めていた、ジェピターと申します」
まだ二十代と思われる小柄な青年が、慇懃に腰を折り優雅に挨拶の礼を取った。
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