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第三章 ザンガリオスの道標 1-1



 二度に渡る〝死奸(しがまり)〟と、バッフェロウ六勇将筆頭のレリウス騎馬隊の決死の抵抗に遭い、追討軍はかなり疲弊していた。

 人的被害はそうでもないが、死を覚悟した兵との戦は精神的に疲れるものである。


「凄まじい戦いぶりですね、まったく死を恐れてない。さすがはバッフェロウ将軍の麾下だ、敵ながら天晴れな者共です」

 軍監として帯同している〝聖龍騎士団第五大隊指令デオナルド〟が、追討軍総大将のキュリアーノへ話し掛けた。


 キュリアーノ・シュバルツ=ノインシュタイン、サイレン最東端の国境地帯を守護する大領主であり、ノインシュタイン殉国騎士団を率いる国一番獰猛だと言われる武人でもある。


「最強・無敵を長年謳われた、バッフェロウが養いし兵だからな。容易い相手ではない」

 キュリアーノが応える。


「この分じゃ、本隊はもうジェニウス国境を越えたかもしれんな。そうなれば下手に手出しは出来ん、どうなさるお積りですかノインシュタイン候」

 冷静な面持ちで、レミキュスが訊く。


 今もって彼は、聖龍騎士団第七大隊副指令であり指令代理の役職にあるが、現実にはデオナルドの補佐官となっていた。


「国境を越えておれば仕方あるまい、あとは国同士の話し合いとなる。われらはトールンへ引き返すしかあるまいな」

「そうなると、オハラ将軍がまた怒り出しましょうな。悪いお方じゃないが、とにかく短気だ。あのようなお人は苦手だ」

 デオナルドが辟易とした顔になっている。


「困ったお方だ、大公の直臣だけに手柄に逸っておるのだろう。好きに言わせておけばよい」

 キュリアーノが面倒くさそうに言い捨てた。

 その時殉国騎士団探索・伝令方の甲冑を着た兵が走り来て、急報を伝えた。


「殿、ジェニウスからのご使者が参っております。いかが致しましょうか」

「なに、ジェニウスからの使者だと? 構わんからすぐに連れて参れ」

「はっ、すぐに」

 伝令は踵を返し、走り去る。


「ジェニウスが使者を送るとは、いったいどう言うことでしょうか」

 それまで黙っていたショウレーンが口を開く。

 自ら志願して追討軍に加わった、ウェッディン・サイレン家、バミュール候フェリップの家臣である。


 秘密裏に、大公アーディンからの密旨を託されていた。

「なにか、予想外の事が起こっているのかもしれませんな」

 にやりと嗤いながら、策士レミキュスが微笑を浮かべた。



 床几に腰をおろしているキュリアーノ、デオナルド、オハラの前で、ジェニウスからの使者が片膝立ちで頭を下げ、使者としての挨拶をするところだ。

 ショウレーン、レミキュスは立ったまま後ろに控えている。


「わが主、ジェニウス王太子ラキシュスからの言葉を携えやって参りました。拝謁をお許しいただき感謝いたします」

「その言葉とは一体如何ようなことか、回りくどい物言いは要らん。用件だけを言うがいい」

 キュリアーノが、愛想も見せずに言う。


「では申し上げます。さきほど貴国のザンガリオス家のお方たちが、わが領内へと侵入なされようとされましたが、それをわが国は拒否致し追い返しました」

「ほほう、追い返しただと? それはケヴィン陛下のご指図か」

 鷹揚な態度でオハラが詰問する。


「はっ、ケヴィン陛下はすでに御崩御致されました。いま国政は王太子たるラキシュス殿下が執っておられます。拠って此度のことも殿下のお指図でございます」

「な、なんと、ケヴィン王がご崩御だと! ──」

 キュリアーノが床几から立ち上がり、使者に確認する。


「はい、持病の疾患が急に悪化され、身罷られましてございます」

「その情報に嘘偽りはなかろうな」

 オハラが鋭い視線を投げる。


「ははっ、なんで偽りなどお知らせ致しましょうや。追ってトールンの星光宮へも正式な知らせが届くはずでございます」

「そうか、相分かった。残されたお后さまやお子さま方はさぞ落胆されておられよう、くれぐれも心強うおられますようにお伝えくだされ。後ほど弔意は正式にお送りいたす」


「はっ、それがお后さまを始め王子さま、王女さま方お三人も揃って殉死致されましてございます。お残りになられたのは、ランセルク公爵へ嫁がれておられる、ご長女のハニーベルさま唯お一人です」

 特段哀しむ様子もなくつらつらと言葉を発する使者へ、その場の誰もがいぶかしい表情になる。


「なにを馬鹿な」

 それを聞いたデオナルドが怒鳴る。


「王がご他界なされたからといって、后やその子らが殉死するなど古今聞いたことがない。寵臣の殉死ならばある話しだが、それはあまりにも不可解なり。なにか隠し立てをしておるのではないか、ケヴィン陛下は真に病死なのだろうな。アゴニアになにか変事が起きたのではないか」

 そのあまりな剣幕に、使者は顔色をなくし恐れ戦いているばかりであった。


「デオナルド殿、お使者に対して失礼ですぞ。この方はただ言われたことをお伝えに来られただけ、そうきつく詰問なされても致し方あるまい」

 横からレミキュスが助け船を出す。


「して使者殿、ケヴィン陛下の件は別としてなにやらが起きたのに間違いはございますまい。もしよろしければお話しになれる範囲で、われらにお聞かせ願えんだろうか」

 優し気なレミキュスの言葉につられ、使者は言わずともよいことを喋り出す。


「陛下ご崩御の隙を衝き、宰相オリケロスさま、外務卿リットバーさまが王弟のサンダー、ジルオウスさまご兄弟を抱き込み謀叛を画策されました。されど王太子殿下はじめゼネス公らの働きで、その企みは未然に防がれ、関係した者はみな斬首されました」

 気の小さな使者は、ぺらぺらと聞かれぬ事まで話し続ける。


「アゴニアに限らず謀叛に加担した者の探索はいまも続き、ジェニウス中から謀叛人どもの一族が牽き立てられております。どの道みな処刑は免れますまい」

「では、今ジェニウスは国を挙げての大混乱というわけですね」

 調子よくレミキュスが合の手を入れる。


「はい、やがて騒動が落ち着きましたれば、ケヴィン陛下の弔問の儀は各国へとお知らせされましょう。なに、二旬と掛かりますまい」

「ではラキシュス殿下の戴冠はその後の事となりますな」

「わたくしごときではそこまで分かりませんが、多分そういう流れになると思われます」

 そこまで聞き出すと、レミキュスがキュリアーノへ目配せをする。


「使者のお役目ご苦労にござった。いまは互いに混乱の極みにある時期なれば、いずれ星光宮からアゴニア王宮へ使いを出すことになりましょう。どうかお帰りの道中お気を付け下さい」

 ねぎらいの言葉を受け、使者はほっとしたように退席の礼をとりそそくさと帰って行った。



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