第一章 草原の黄昏 1-5
「し、しばし待たれよ」
ヘムリュルスとペリオルスが部屋の隅に行き、なにごとかを話し合っている。
「大公殿下のあの喜びようからすると、献上中止をお伝えすればどれほどお気を悪くされるか知れんぞ。わたしはお伝えせんぞ、貴公がなされよ」
「なにを申される、わたし一人に責任を押し付けられるのか。それはあまりではないか・・・」
ヘムリュルスが気色ばむ。
「反対なされているのは貴公ではないか、ならばお伝えするのも自分がなさるが筋であろう。わたしは料理献上には文句はない、先ほどの面会の時の様子を見ても、心配するまでもなかったではないか」
ペリオルスは完全に逃げ腰である。
「くくう――、わたしとてそのようなことをお伝えするのは気が乗らん。わざわざご不興を煽るような役は御免だ」
「ならば再度の訪問をお認めになられればよいではござらぬか。たかが鳥を料理して出すだけだ、なにほどのこともあるまい」
「し、しかしこれまでなに者も大公さまにお近づけせなんだものを、今日になってこのような真似をしてわが主からどう思われるか。一度お伺いを立ててからフェリップさまにはお返事をするということで、引き揚げて頂くのはどうだ」
「なにを馬鹿なことを、いまは戦の真っ最中ですぞ。こんなことを帷幕にまでお知らせし判断を仰ぐなど、それこそお叱りを受けるだけだ。われらでうまく処理するしかあるまい」
もしここで叱責を覚悟で戦場の主たちへ伺いを立てていれば、一も二もなくヴィンロッドから面会をさせたこと自体を咎められただろう。ましてや調理人を大公宮へ入れるなど、処罰されるのは必定であった。
しかし安易にわが身の保身に走った彼らは、その報告をするのを渋ったのである。
「――どうすればよいのだ」
「お認めになればよいではないか、なにも怪しいところなどない。でなければあなたが殿下へ料理の献上は罷り成らぬと申されよ、わたしは御免被る。貴公は少し考え過ぎだぞ、フェリップさまはわれらのお味方ではないか。ここで断れば大公さま並びにフェリップさま両方のお気に障ることになる」
「ちっ、致し方ないそうするしかないか──」
とうとうヘムリュスが折れた。
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