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第二章 夢の終焉 4-6


 

 ロッテダムと三百の兵たちは死をも恐れず奮戦したが、三十小刻(カルド)と持たなかった。

 その間に多少の距離を取ったとはいえ、まだ国境は遠い。


「将軍、今度はわたしの番です。さらに三百頂きますぞ」

 そう言い残し、サムソニオが第二陣として残った。


「また死奸だ、じっくりと取り囲みこちらの犠牲を最小限にするのだ」

 殉国騎士団の指揮官が命を下す。


「なにを怖がっている、お前ら黒い悪魔なんだろ。さっさと掛かって来いよ、それとも無敗の鉄血騎士団が恐ろしくて、小便を漏らしてるんじゃねえのか」

 すぐには掛かってこない相手を挑発する。

 混戦になった方が決着が長引き、結果として時間を稼げるのである。


「ノインシュタインの騎士はどいつもこいつも腰抜けばかりだ、やはりサイレン最強は俺たちザンガリオス鉄血騎士団のようだな」

「たかだか三百の兵に怖気づき、遠巻きに圧し潰すなんて、それでも一端の武人のやることか。家へ帰ってお母ちゃんの乳でも吸っていたほうがいいんじゃねえか」


 様々な悪口に堪え切れなくなった兵の一団が、命令も聞かずに突っ込んで行く。

 それをかわきりに、黒い甲冑の騎士団はてんでばらばらに相手に突き掛って行く。


「挑発に乗るな、混戦になってしまう。命に従え、勝手な行動をするな」

 いくら指揮官が絶叫しても、一度猛り狂った力は治まるはずもなかった。


「馬鹿め、まんまと引っ掛かりやがった」

 そうほくそ笑んだサムソニオの眉間に、一本の流れ矢が突き立った。

 物静かで哲学書を読むのが好きな、六勇将きっての剣の使い手サムソニオは、口の端を歪めたまま馬から落ち絶命した。


 第一陣よりは少しだけ時間を稼いだが、それも一刻には至らなかった。


「いよいよ順番が回って来たようですな、今度はわたしが鍛錬した騎馬隊を五百お残し下さい、それで防いでご覧に入れます。国境はもう目と鼻の先です、何がなんでも一刻は引き付けます。その間にジェニウスへお入り下さい、きっとリネルガ殿がケヴィン陛下の援軍を連れて待っておられるはずです」


 大柄な身体を揺らしながら、レリウスは騎馬隊が欲しいと願い出た。


「騎馬五百騎か──」

「はい、これは死奸ではございません、騎馬隊による戦です。わたしの得意とするのは力任せの騎馬戦です、それこそがザンガリオス鉄血騎士団の正統なる戦の形。あなたがまだ百人騎馬隊の隊長だった頃からの付き合いだ、その戦の仕方はわたしと二人で作り上げて来たと自負しております。最期の戦もやはり騎馬にて行いたい、どうか長年の誼で我儘を聞いて下さい」


 二十年来の最古参の部下の申し出をなんで断れよう、かれは静かに頷き黙って右手を差し出す。


「お別れです将軍──」

 がっちりと掌を握りながら、レリウスは片目を瞑って見せる。

「相変わらず顔に似合ぬ真似をする奴だな、まるで遠駈けにでも行くみたいじゃないか」

 バッフェロウが珍しく笑顔を見せる。


「いまでも騎馬戦はわたしのほうが強いですよ」

「そうだな、お前にはとうとう敵わないままのようだ」


「では、これにてお暇を──」

「これまで随分と世話を掛けた、さらばだ──」

 国境目指して去って行く一団が見えなくなった頃になって、後方から敵の馬が立てる土煙が近づいて来た。


「へへっ、来なすったようですね」

「お、お前は──」

 そこに姿を現したのは、陽気な顔のカルロだった。


「こんな所でなにをしている、お前が残るなどとは聞いておらんぞ」

「いいじゃねえですか、これは死奸じゃねえんでしょ。戦となりゃあ俺の出番だ、俺はけっして死にゃしませんよ。どこまでもしつこく生き残ってみせます、こんなお調子者なんざ神さまが近くに来るのを嫌がりますからね。それにどうしても俺と来たいっていう奴らが、二百ほど居りましてね。ご一緒させて頂きますよレリウスの旦那」

 ぺろりと舌を出す仕草は、なんとも憎めない。


「しょうのない奴だ、勝手に致せ」

「よっしゃあ、暴れるだけ暴れまくってやる。なにせヒューリオ高原じゃ、お偉いさん方のお守で退屈してたんだ。やっと戦らしい戦が出来る」


「よし、マシューお前は二百騎で右の陰に隠れておれ」

「はっ」

 副将の騎馬隊副官のマシューが応える。


「お前は左だカルロ、わたしは三百騎で正面から待ち構える。敵はいままで通りの死奸だと思うだろう、おっとりと取り囲み始めたら一気に両方から攻め掛かれ。敵が浮足立ったのを見てわたしが正面攻撃を掛ける。狭い街道での戦いだ、いくら相手の数が多くても一度に闘える数には限りがある。そこがつけ目だ」


「カルロ殿が来てくれたお陰で数も揃い、なんとか戦らしい形を作れますね」

 嬉しそうにマシューが笑う。


「この策は、前の二隊が正統な死奸陣を布いてくれたからこそだ。敵に油断がなければ僅か七百騎では戦には持ち込めん、ロッテダムとサムソニオに感謝せねばな」


「おう、敵さんはかなり慌てるだろうね。追撃するのも忘れて応戦してくるはずだ、うまくすりゃ一刻以上搔き回して、本隊へ引き返すことだって出来るんじゃねえかい」

 気軽にカルロが返す。


「そう易々と行くものか、やがて敵も態勢を立て直す。落ち着かれたらこちらの敗けだ、敵を斃すことは考えるな、遮二無二暴れまわりとにかく攪乱させるんだ。お前は一刻経ったら自兵を率いて将軍の所へ戻れ、死ぬんじゃないぞ」


「やだね、退くときはあんたも一緒だ」

「嬉しいことを言いおって、では共に戻るとしようか」

 高らかに声を立ててレリウスが笑った。



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