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第二章 夢の終焉 3-5



「将軍、このままでは行軍がままなりません。街道へ出てはいかがでしょうか」

 指揮官の一人、ヘムン騎馬隊長がバッフェロウへ進言する。


「それはならん、街道筋はわれらを追って来る軍勢がやがて追いついて来る。そこで待ち構えて一戦を為すは容易かれど、われらの目的はそうではない。無傷でジェニウス領へ逃れることにある、戦闘は極力避けたい」


「されどこんな道もないような所を、これ以上どうやって進むというのです。このままでは脱落者や逃亡する兵が後を絶ちません、お考え直し下さい」

 ヘムンは自説を曲げようとしないバッフェロウへ食い下がる。


 すでにヒューリオ高原を後にして半旬が過ぎていた。


「耐えてくれ、お前たち指揮官が兵たちを先導せねばならぬのだぞ。どう時間が掛かってもあと一旬もかからずに国境まで行けるのだ。そうすれば今後の展望も開ける、なんとしてもわたしを信じて我慢して欲しい」


 これがバッフェロウ以外の人間の言うことであれば、たとえそれが主君たるペーターセンであっても将兵たちは従わなかったであろう。

 されどサイレンの英雄・常勝将軍の彼の命だから従っているのだ。


 斥候によれば、やはり街道沿いは追撃の軍勢が追撃して来ていることが知らされた。しかもその追撃軍の主力はノインシュタイン殉国騎士団であることも分かった。


 こんな疲弊しきった状況で殉国騎士団に戦いを挑んでも、ザンガリオス鉄血騎士団に勝ち目はなかった。

 ただこのまま道なき道を進み、どうにかして国境を超える。

 もうそれ以外に取り得る手立てはなくなっていた。


 さらに半旬後、逃亡する者が続出し兵の数は三分の二にまで減少していた。

 やがて本格的な湿地帯に入り、湿気と不衛生な水のせいで疫病を発症するものが相次ぐ。


 薬もなく休ませるための建物もない状態では、歩けなくなったものは見捨てるしかなく、断腸の思いで僅かな食料を持たせて、病人はその場に置き去りにされた。


 その肝心の食料も底をつき始め、乗っていた馬まで潰して喰らうあり様となった。

 そして最悪の事態が起こった。

 とうとうペーターセンが、疫病に斃れてしまったのだ。


 国境線はもう目前にまで迫っていたが、このままではザンガリオス家の当主の命が危ない状況となったため、バッフェロウは最後の最後になって街道に出る決意をする。


 街道に出れば自由開拓民たちが拓いた集落があり、そこには簡易ながらも病人を臥たえ、薬を出すくらいの施設はあるに違いなかったからだ。

 しかし追撃軍に発見されるのは火を見るより明らかなことだ、どうしても戦闘は避けられない。


 バッフェロウは小隊をジェニウスへ先遣隊として送り出し、この状況を説明させ国境線ぎりぎりの所まで援軍を待機させて貰えるようにとの書状を持たせた。


 その役を引き受けたのはペーターセンの側近中の側近である、若き家老のリネルガであった。


「必ずやケヴィンⅢ世陛下とフォレーニアさまにお逢いし、援軍をお連れする。出来得れば紛争になるを覚悟の上で兵を出してくださるのであれば、サイレン領にまでもやって参る」


 若いながらも弁舌爽やかな名門の御曹司であるリネルガは、ケヴィン王とも面識があり使者としては最適に思われた。


「頼みますぞ、ジェニウスの兵だけが頼りです。なんとしてもケヴィン陛下におすがりください、うまく行かぬ時は左将軍ラコルジェス殿に相談してみて欲しい、きっと力になって下さるはずです。わたしは一度街道に出て、開拓民の集落で殿を休ませ再度国境を目指します」


「承知いたしました、必ず殿を国境までお連れください──」

 最後の頼みの綱として、リネルガ率いるヘムン斥候隊二十名は国境方向へと駈けて行った。



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