第二章 夢の終焉 2-5
「お前ゼームか」
戦場からただ一騎駈けて来た馬の上から、聞き覚えのある声がして大男は顔を上げた。
そこには血に染まった顔の、偉丈夫の姿があった。
「んんっ──、おう代貸しのクエンティじゃねえか。なんであんたがここに居る? もしかして俺たちと同じ獲物が狙いかい。だったら残念だったな、たったいま俺が将軍首は頂いた。残るはあと二つ、必ずこの手で縊り殺す。──? あんたも首を持ってるようだな、一体誰の首だ。まさか大将軍バッフェロウじゃねえだろうな」
ゼームの瞳が残忍そうな光を帯びた。
顔だけではなく衣服も含め夥しい血が付着していることで、相当な数の人間を斬って来たことが分かる。
大事そうに左腕に居抱き込まれている布に包まれたモノに、視線を向けながらゼームが訊いた。
「いずれ分かることだ話してやろう、この首は親分のものだ。クラークス親分は亡くなられた、いま敵の手から取り返してきたところだ。生前にお前たちになにを約束したかは俺は知らんが、その約束は先代亡きあともどこまでも引き継がれる。トールンに戻ったら俺の所へ言ってこい、相応のことはさせてもらう。いいか、これからはこの俺がメルカッツ・クラークスだ。先代のように心も大きくはなく優しくもないぞ、目に余る行為はこの俺が許さん。いいか魔獄のゼーム、あまり身勝手な真似はするな、俺はお前よりも強いぞ」
辺りに散らばっている死体には、どれもみな見覚えがあった。
しかもその死にざまはいかにも無惨で、敵に斬られたのではないことが一目瞭然であった。
「へいへい親分、残りの首二つを揃えたら、あんたの前に持って行くよ。金を準備して待ってるんだな、金額はババのやつが知ってる。いいかい、値切りはなしだ。でもよ、いつかあんたと遣り合ってみてえな、どっちが強いか決めようぜ。変に悟ったような訳知り顔が、昔から気に入らなかったんだ、いつも偉そうな目で見下しやがって。あんたも俺が嫌いだっただろ」
「ああ、反吐が出るほどにな。俺は世界を見て来た、お前くらいの化け物もなん回か相手にした。その誰もがもうこの世で息をしちゃいねえ、次はお前の番だな」
「いいねえ、あんたらしい台詞だ。その取り澄ました自信がどれほどのものか見極めてやろう、まあそれが分かったときは命は尽きてるだろうがな」
「俺もお前のその醜く薄汚れた命が是非とも欲しいな、生きていちゃいけない化け物だ」
「近いうちに楽しもうぜ──」
「必ず」
そう言い残しクエンティ、いや新しいトールンの顔役クラークスは東へ駈け去っていった。
「嫌な奴が後を継ぎやがった、金を貰ったらトールンから逃げ出すか奴を殺すか、どっちか決めなきゃいけねえな。まあその前に残りの首をどうにかしねえとな──」
生まれながらの殺人鬼ゼームの馭する馬車も、次の舞台である公都トールンを目指して走り始める。
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