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第二章 夢の終焉 2-4



「おっと、お前もきっちりとあの世に送ってやろう。みんな仲良く地獄で泣き言でも言ってな」

 気を失っているエンピレスに腰をかがめてそういうと、簡単に首を〝ぐりっ〟と回転させた。


 俯せの躰に対して、彼の顔は上を向いている。

 頸の骨を折られたエンピレスは、目を見開いたまま息絶えていた。


「洒落者のお前が目を開けたまま死んでたんじゃ格好つかねえな、こうしてやろう」


〝ぐずっ〟

 ゼームの野太い人差し指と中指が、エンピレスの両目に突き刺さる。


〝ずぞぞうっ〟

 鍵状に折り曲げられた二本の指が、目玉ごと引き抜かれた。


〝ぶちっ〟

 視神経を引き千切り、抉り出した目玉をゼームは自分の口へ持って行く。


〝がりっ〟

 エンピレスの目玉は、ゼームに喰われてしまった。


「やっぱり目玉は人間のが一番だな」

 ガリゴリと音を立てながら口中で噛み砕くと、〝ごくり〟と嚥下する。


 いつの間にかフロックスの姿は消えていた。

 とても敵わないことを悟り、逃げてしまったのだろう。


 一連の遣り取りを馬車の窓から首を出して見ていたヴィンロッドは、あまりの凄まじい馭者の圧倒的な殺戮を目の当たりにして、身体中に奇妙な汗をかいていた。


〝なんという化け物だ、わたしは大きな過ちを犯したのではないか。こんな怪物と二人っきりで逃げるとは、自らわが命を悪魔に差し出したようなものではないか──〟

 いまさらながらに、自分が下した選択を悔いていた。


〝こうなれば致し方あるまい、なんとかこやつを味方につけるしかない。わたしはこんな所では死ねん、生き延びてこの国を変える。力ある者、能力のある者が動かす新しい形の国を造るまでなんとしても生き延びるんだ〟

 瞬時にヴィンロッドは肚を決めた。


〝怖気づいていても仕方がない、こちらからこの化け物に近づいてやる〟

 彼は馬車を降りて、大男へと歩み寄って行く。


「あっぱれだ、言葉通りに腕が立つな。褒美はなにがいい、なんでも申してみよ」

 満面に笑みを浮かべ、そう語りかける。

 恐れ一つ見せない完全な演技である。


「ぐふぇへっ、殿さまあんたの言葉通りに奴らは殺してやったぜ」

「だから望みを言えと申しておる、金かそれとも地位か。わたしに出来る範囲であればなんでも叶えてやろう、お前さえその気ならばわたしの家臣にしてやる。騎士団の将軍にでもサイレン軍の元帥にでも、将来的には貴族にでもなれる。今日がお前の出世の始まりの時だ」

 彼の気を引こうと、ヴィンロッドは出来る限りの甘言を並べ立てる。


「いいんや、俺はそんなものは要らねえ。俺が欲しいのはたった一つだけだ」

「遠慮せずに申せ、聞いてやろう」


「ぐひひ」

 口の周りに泡を吹かんばかりの笑いをへばり付かせ、大男が身体をぐっと近づける。


「殿さま、あんたのその首ただ一つでごぜえます」

「なっ・・・」


 大男は嗤いながらヴィンロッドの頭を掴み、なに気ない風に大きな掌で首を回転させる。


〝ぐぐーっ〟

〝ごりぐううっ〟

〝ばぐういいっ〟

〝ごぎっ〟


 ヴィンロッドの首は一回転し、そのまま力任せに胴から引き千切られた。

 彼の思考は、胴から首が離れる寸前まで機能していた。


 下剋上を夢見た、早すぎた男が最期の瞬間に目に浮かべたのは、幼い頃からの親友シュベルタ―の夕日に映えた笑顔だった。


〝シュベ、君が居てくれたら──〟


 片田舎の貧乏貴族の小倅ながら、その才と運とで魔術師とまで呼ばれるようになった天才軍略家、ヴィンロッド・ラック=バランディの生涯はここで終わった。



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