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第二章 夢の終焉 2-3



「むんっ、ゼームよわたしの短剣投げを受けてみろ」

 後方へと回り込んでいたフロックスが、両手を交差させ短い金属片を複数本投げつける。


〝がきんっ〟

〝ずぐっ〟


 顔やのど元へ飛んできた小片は太い腕で覆い、ことごとく弾き返されてしまった。

 どうやら腕にも鉄鋼を巻いているらしい。


 残りの何本かは肩や胸に突き刺さったが、いずれも分厚い筋肉に潜り込むまでには至らず、掌を一閃させるとあっという間に地に落ちてしまう。


「フロックスこりゃあ一体なんだ、蚊に刺されたほどにも感じねえぞ。俺を殺りたきゃもうちっと気合を入れてくれねえかな、遊びにもなりゃしねえ」

 そう言うゼームに向かって、ラシャが不思議な動きで近づいていた。


 素早い動きには見えないのだが、実のところはいままでのゼームの身のこなし以上の速さでその身体は動いていた。


〝ざしゃーっ〟

 丸い握りのついた小さな三角状の暗器が、ゼームののど元を襲う。


 巨体をのけ反らしてそれを躱した分厚い胸を、もう一方の手に握られていた同じ形状の暗器が切り裂いた。

 上着が裂け、胸から鮮血が噴き出る。


 しかしそんなものにはお構いなく、ゼームは相手の顔を大きな手でがっちりと掴み取っていた。


〝ふんっ〟

 気合もろともただでさえ女の胴ほどもある上腕がさらに膨れ、筋肉が盛り上がり血管が小さな蛇の群れのようにはち切れんばかりに浮き上がる。


〝ぐしゃーっ〟

 巨大な手によりラシャのこめかみは頭蓋骨ごと握り潰され、血飛沫を辺りに撒き散らす。


 目玉は飛び出し、視神経でなんとか顔と繋がっている。

 そんな状態でありながら、最期の力でラシャの指がゼームの目を狙う。


 あと一寸のところでその動きは停まった、絶命したのである。

 その時にはすでにエンピレスの操る細身のナイフが、ゼームの目前にまで迫っていた。


「目を潰してやる」

 やはりラシャ同様にこの化物の弱点は目しかないと悟り、一点に攻撃を仕掛ける。


 洒落た優男がいつになく顔を歪めて、目前の大男の両目の辺りへ細身のナイフを突き立てて行く。


〝ぐへいっ〟

 ゼームは握り潰したばかりのラシャの身体をそのまま右腕一本で持ち上げ、力任せにエンピレスへぶち当てる。


 崩れかけではあるが、人間の頭部をまともに喰らったエンピレスは吹き飛ばされ、一瞬で気を失った。


「死ねい化け物っ!」

 上段に構えた剣が、ゼームの頭上へと降り降ろされる。


 間一髪で前方に転がり、マロイの渾身の一撃を凌ぐ。

 しかしマロイの猛攻は休むことなく続き、神速の突きが喉に向かって繰り出された。


〝ずぐっ〟

「!」


 マロイの剣が喉を突き破ったかに思われたが、奇跡のような反射神経でゼームは自らの左腕でそれを受け致命傷を免れた。


「残念だったな、もう一歩届かなかったよ」

 なんとも嬉しそうに、ゼームが嗤い掛ける。


 剣が刺し貫いたのは喉ではなく、太い腕であった。

「ぐぬうっ──」

 すぐさま剣を引き抜こうとするが、左腕に潜り込んだ刃物はぴくりとも動かない。


 考えられないことに剣は力を入れたその筋肉により、取り絡まれたように抜けようとはしない。


〝びきんっ〟

 更に腕に力を込めると、それは半ほどからぽっきりと折れてしまった。


〝ズヴォーッ〟

 あたりの空気を焦がすほどの勢いで、ゼームの剛腕がマロイの下顎目がけて突き上げられる。


 迫りくる拳を折れた剣の柄で上から押さえつけようと、腰を溜めて両掌に渾身の力を込めたがその腕力の差はあまりに大きかった。

 力には自信を持っていたマロイだが、ゼームの拳は剣の柄を軽々と押し上げ、その折れた刀身はそのまま下顎から顔に潜り込み脳天から外に突き出た。


「俺を殺すんじゃなかったのかい、反対に自分が死んでりゃ世話はねえなマロイよ」


 頭から剣を生やしたような死にざまを晒しているマロイへ、そう一言懸けて唾を吐く。


〝ぞふり〟

 造作もなく腕から折れた刃を引き抜くと、〝べろり〟と疵口を一舐めする。




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