表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/73

第二章 夢の終焉 1-3



「ん? 見掛けぬ馭者だな、いつものローヌはどうした」

「へい、こんな危なっかしい時ですのでオラが替わりました。腕っぷしには自信があります、いざという時は命を懸けてお守りいたします」


 そう言って馭台に坐っている男は、フードを目深に被っているために表情は分からぬが、その言葉通りにまるで羆のような大きな身体をしており、いかにも頼りがいがあるように見える。


「そうか、無事に行き先まで付いたならば褒美を与える。しっかりと務めよ」

「へへーっ、お任せくださいませ将軍さま。オラが必ず目的地までお送りいたします」

 ヴィンロッドが馬車に乗り込もうとした時、数騎の馬が駈け寄って来た。


「兄者、お待ちください。どこへ行かれるのです、未だ戦は終わっておりませんぞ」

 下馬するなり近づいて来たのは、弟のウル―ザであった。

 横にはオルキュラスが付き従っている。


 ほかに三騎の武者も一緒で、その中の一騎が手にしている槍には兜首が突き刺さっている。


「なんだその首は」

「ああ、これは敵将イアンの大将首ですよ。これで今日の一番手柄はこのウル―ザで決まりです」

 自慢げにウル―ザが、兄へこれ見よがしに首を見せつける。


「そうか、イアンの首を取ったのはお前だったのか──。ふん、いまさらそのようなものになんの価値がある。逆に敵方の恨みを買うだけだ馬鹿者が、わたしはお前にそのようなことは命じてはおらんぞ。余計なことをしおって、やはりシュベルタ―の申す通りに、お前とは縁を切るほうがいいようだな」

 冷ややかにそう告げる兄に対して、ウル―ザは眉間に皺をよせいい返す。


「シュベルタ―がそのようなことを言いおったのですか、しかしもうあ奴はなにも語ることは出来ませんぞ。なにせ死んでしまいましたからな、口ほどにもなく敵副将のオリヴァーの槍に突き刺されてね」


「シ、シュベルタ―が死んだだと──」

 滅多に感情を表に見せないヴィンロッドが、大きく目を見開き口を開けたまま呆然となった。


「おやおや、兄者ともあろうお方がそんなに驚いてどうされました。たかが家臣、しかも郷士風情が死んだだけではありませんか、腕自慢の武人ならいくらでも代わりが居りましょう」


「黙れ痴れ者め、シュベルタ―の代わりなどどこにもおらん。天と地が逆さまになろうとも、わたしと奴の関係は切れるものではない。お前ごときが減らず口を叩くな」


「それが実の弟に対するお言葉か、いままでは兄者に何からなにまで従ってきたが、今日からは違いますぞ。この首があればわたしも侯爵くらいにはなれましょう、なにせ一番手柄ですからな。もう兄者の陰でいるのは真っ平だ、わたしとて出世したい。わたしは兄者に敗けぬほどの頭も度胸もある、戦場に立とうともせぬ腰抜けのあなたとは違う」

 口に泡を浮かべてウル―ザが喰って掛かる。


「ご舎弟さま、お口が過ぎますぞ。あなたと兄上さまではまったく器が違う、なにを思い上がっておられるのですか。お謝りなさい、手をついて謝るのです」

 横からオルキュラスが口を挟む。


「なにを申すか家臣の分際で、このわたしに意見をするというのか。強いものにへつらう風見鶏の癖に、分をわきまえよ」

 目を剝きだして怒鳴るウル―ザに対し、臆する素振りも見せずオルキュラスが返す。


「分を知らぬのはあなたの方ではありませんか。わたしが言うこと聞いているのは、あなたがヴィンロッドさまの弟だからだ。そうでなければ〝スネーク〟などと陰口を叩かれている人間に従うはずはなかろう。ご自分をもっとお知りになることだ」

「くううぬっ、言わせておけば──」


「どちらも黙れ、ここでお前らごときの口汚い諍いなどに係わっておる暇はない。わたしにはやらねばならんことがある、邪魔をするな」

 なんとも冷たい言葉であった。


「おお、そうだ兄者一体戦線を離れどこへ行かれるおつもりだ。兄者のことだなにか策がおありなのであろう、わたしもお連れ下さい」

「連れて行けだと、いまお前は兄には従わぬ、自分の力でやって行くと申したばかりではないか。自らの器量で好きにすればよかろう、お前のことなどもう弟でもなんでもない、自分で生きて行け」


 そういうと、ヴィンロッドは一人馬車に乗り込み、馭者に馬を走らせるように命ずる。



読んで下さった方皆様に感謝致します。

ありがとうございます。

応援、ブックマークよろしくお願いします。

ご意見・ご感想・批判お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ