第二章 夢の終焉 1-2
「近衛騎士団が──」
急使の報を聞くやいなや、ヴィンロッドの顔は紙のように白くなった。
「分かった、退がれ」
ただそれだけを言うと、なにごとかを思案し始める。
〝一体星光宮でなにが起こった? 昨夜ヘムリュスに百人の兵をつけて、警護を固めさせたばかりであるのに〟
驚くというよりも、なにか不思議がっている風でもある。
〝やはり他人は当てにできぬな、世の者どもは馬鹿ばかりだ。わたしの策通りに動いておれば、この戦は簡単に勝てたはずだ──〟
そこへ気配を完全に消した影が〝ふわり〟と現れた。
「ピューレンか──」
「はい」
ピューレンと呼ばれたなんの特徴もない男は、片膝を着いてヴィンロッドの背後に控えている。
「お前が直接来るほどの情報か」
「そう判断しました」
「うむ、申せ」
「バロウズ騎士団が間もなくここへ押し寄せます」
「な、なんだと──」
今度こそヴィンロッドに驚愕の表情が浮かんだ。
「お前の情報だ、間違いはなかろう──。報告はそれだけか」
その驚きも一瞬で消え、冷静な口調で受け応えをする。
「いいえ、もう一つ悪いお知らせが──」
「勿体ぶらずに早く云え」
躊躇しているような相手の口振りに、少し苛ついたように語気が荒くなる。
「明後日の昼までには、ノインシュタインの殉国騎士団もトールンへ姿を見せるようです」
「そうか──、あの黒い悪魔もやって来るのか、もうこれではどうにもならんな。ピューレンよ、もう少し早くそのこと知りたかったな」
「申し訳ございません」
「〝燕〟の情報だ疑う余地はあるまい、しかも首領のお前直々の報せだからな。もうよい、また機会があったら働いてくれ」
「ご無事に斬り抜けられますことを祈っております」
なんの気配も残さず、消えるようにその影は姿を隠した。
〝あと一刻早く敵を壊滅させておれば、すべては終わっていたのだ。トールンに入城し、大公の身柄さえ確保すれば──。バロウズの律義者だろうがノインシュタインの悪魔どもだろうが、手出しは出来なかったものを〟
ヴィンロッドの頭は、いま高速で回転していた。今後の対応をどうするか、どうすれば自分の身を安全に保てるか。
もう戦の勝敗など彼の眼中には一切なかった、わが身の保身のみにその能力は使われている。
しばしの思案の後、ヴィンロッドがにやりと口元に笑みを浮かべた。
どうやら最善の策を思いついたようである。
「おい、馬車を引いて来い、すぐに移動する。一刻を争う急がせろ」
大声で少し離れて控えている兵に命じる。
「はい、ただいま」
間を置かずに四頭立ての馬車が準備された。
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