第一章 草原の黄昏 4-4
「ペーターセン殿、ジョージイーの姿が見えんが──」
ヒューガンがザンガリオス家の当主へ耳打ちする。
「そういえば先ほどから見かけませんな、一体どこへ行かれたのやら。敵将のイアンを討ち取りいくら勝ちが決まったも同然とはいえ、勝手に帷幕を出て歩き回るなどどうかしておりますな。まあその程度のお方ゆえ、この先大公職をどこまで務めることが出来るのか心配じゃ」
「アーディンと言いジョージイーと言い、なんともうつけ者揃いだなサイレン家と申すのは。同じ一族として情けない、やはりわがカーラム家が、ザンガリオスとワルキュリアの力を借りて国を動かすしかないようだ」
実質的盟主の言葉に頷きながら、ペーターセンは執拗な光を浮かべた目を細める。
「ただジョージイーの弟のバミュール候には注意が必要です、噂の半分でも話しが本当ならば油断できません。此度の戦にも一切関わっておらぬ、なにか企んでいるのかもしれませんぞ」
「フェリップか、確かにあ奴は兄ほど愚か者ではなさそうだ。逃げ去った地方貴族ども同様に、早めに潰さねばならんな、厄介ごとを起こす前に──」
「さようさよう、先手を取ることが肝要です。東の国の暗殺者でも雇い、心の臓の発作でも起こして頂くのがよいでしょう。あなたが大公位をお継ぎになるまでは、なにごとも穏やかに進めませんとな。目立つことはすべてジョージイーさまに被ってもらわねばなりません、それまではわれらはなるべく表に出ないようにせねば。民の不満はすべて新大公殿下に負ってもらわねばなりませんからな」
ワルキュリア家のフライデイが、狡そうに二人に目配せをする。
「あ奴も哀れなものだな、せっかく大公になっても一年も経たずにその座を追われ、民の恨みを一身に受けて、首をアルアナス広場に晒すことになっていようなどと思ってもおるまいに」
「ヒューガン殿、ほかの者に聞かれたらまずうございますぞ。お口にはお気を付け下さいませ」
唇を歪めながらフライデイが笑いかける。
「た、大変です。ジョージイーさまがなに者かに殺されておられます!」
その時雑兵が大慌てで帷幕前で警護している諸将へ、とんでもない報告をする声が聞こえた。
「間違いではないのか──」
ワルキュリアの風神キンデル将軍が、鋭い声を上げる。
「は、はい・・・、それが首がないものですから、はっきりとジョージイーさまだとは言い切れませんが、お身に着けていらっしゃる服装からしてほぼ間違いはないかと思われます」
「首? 首を落とされていらっしゃるのか──」
「いいえ、それが──。まるで凄い力で捩じ切られているようなのです。あんな死体はいままで見たことがありません」
「馬鹿な、首を捩じ切るだと」
疾風のコランが眉をひそめる。
「如何した、なにを騒々しくしておる」
仕切り役であるロンゲルが不在ということもあり、弟のキリウスが騎士たちに話しかける。
「はっ、まだ未確認ではございますが、ジョージイーさまらしい死体が見つかったとの知らせでございます。すぐに遺体をここへ運ばせますのでお待ちください」
キンデルが緊張した表情で報告する。
〝ズザザザァーッ〟
帷幕の分厚い布が奇妙な音を立てて引き裂かれた。
それと同時に警護に当たっていた歩哨が、バタバタと倒れて行く。
倒れた兵はみな一応に喉元に、極小さな小刀が突き刺さっている。
「なにごとだ、みな慌てるな状況を把握しろ」
ザンガリオス六勇将の一人、カルロが大声で指示を出す。
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