第一章 草原の黄昏 4-3
「さあ、これであんたらにも分かっただろ。こりゃ俺とイアンとルバートの友情の話しだ、他人にゃつべこべ言わせねえ。分かったらさっさとこの大層な甲冑というやつを、俺に着せ替えしてくれねえか」
「クラークス殿、恩に着る。あなたの身柄はわたしとクルーズとで必ず守る、あなたはただ一緒に居てくれるだけでいい」
イアンの甲冑を身に纏ったクラークスが、馬上の人となった。
横に並ぶオリヴァーが耳元でそう呟く。
「頼みましたぜ将軍さま方、親分を護ってくだせえまし」
なんとも情けない顔で見上げているババルディを見ながら、クラークスは槍の柄でコツンと頭を叩く。
「おい、一端の悪党の癖になんだその顔は。泣きべそをかいた小坊主じゃねえか、心配えは要らねえ、俺はそう簡単に死んだりしねえ。俺の横にはこんな鬼のような護衛が連いていて下さるんだ、ねえクルーズの旦那」
巨大な斧を背に担いだクルーズに笑いかける。
「任せておけ、お前の親分殿には、この百鬼無双のクルーズが側におる」
「本当にお願いしますよ、親分に万が一があったら、俺は本当に代貸しに殺されちまう。あなたがどんなに強くったって、うちの代貸しの恐ろしさにゃ叶わねえ。多分あんたより強いぜ代貸しは」
「ふはは、俺より強いやくざ者か。機会があったら見てみたいものだな、なんという名だ」
「クエンティだ、覚えて置きやがれ」
勢い込んでババルディが、得意そうにその名を口にする。
「いいや、本当の名はバラード。公立學問院一の秀才と呼ばれた人だ」
ぼそりとクラークスが呟いた。
「バラード、どこかで聞いたことがある名だな──」
オリヴァーが小首を傾げる。
「まあそんなことはどうでもいい、さっさと出陣しねえと味方が戦をおっ始めちまうぜ」
「よし、聖龍騎士団総司令の出陣だ。大騎士団旗を掲げよ最後の決戦ぞ、いざ出発」
クルーズが号令をかける。
「あばよババ」
そう言うとクラークスは兜の面頬を降ろした。
「と言う訳なんです、それが親分を見た最期となりました」
涙を拭きながら、ババルディがことのあらましを説明する。
「それでどうなった、なんで親分は死んじまったんだ。そんな腕の立つ将軍や護衛がついてたってえのになんてざまだよ」
恐ろしい顔でクエンティ、いや、いまやクラークスとなった男が言う。
「そこんとこは戦場の中の出来事だ、俺には分かりません。後でそこに居合わせた方から聞いてみるしかねえ」
「いま親分のご遺体はどうなってる、それに殺りやがったのはどこのどいつだ」
「へい、殺ったのは敵の大将の一人、ヴィンロッドとかいう将軍の弟ウル―ザという者の部下だそうです。親分は首を刎ねられ、その首もウル―ザという野郎が持ってるという話しです。なんでも総司令の兜を被ったまま槍の穂先に突き刺され、晒し者にされてると聞いてます。なんたって相手はこちらの総大将イアンの旦那の首だと思ってるんだから。そのウル―ザとか言うやつが、今日の一番手柄だそうですよ」
それまで恐ろしい顔でババルディの報告を聞いていたクエンティは、ゆっくりといま自分が乗って来た馬に再度跨った。
「ウル―ザだな──、よし分かった」
「代貸し、いや親分なにをなさるんで・・・」
「首を返してもらう、ついでにそのウル―ザとやらを捻り殺す」
「ま、まさか戦場にたった一騎で」
「じきに近衛騎士団が現れる、お前らは戦場から離れトールンに帰れ。あとで親分の家で逢おう、きっと首は持ち帰る。姐さんには俺から顛末は話す、それまでは黙っていろ。気が強い振りをなさってるが、実は親分にぞっこん惚れていなさる可愛いお方だ。俺がじっくりとお耳に入れる、間違っても姐さんに気取られるなよ。自分で命を絶とうとなさるかもしれねえ」
「へい、任せておくんなさい」
ババルディの返事を後ろに聞きながら、クエンティは馬を駈けさせる。
「馬鹿野郎オーリン、命を粗末にしやがって。でもお前は男だった、最後まで男だったぜ。兄弟分のために命を張ったんだな、さすがはトールン一の侠客だ。俺が見込んだ侠だ、でも早すぎるだろ。年上の俺より先に逝っちまうなんてよ」
クエンティ改めクラークスの乗った馬は、単騎その首と仇の姿を求め戦場へと去って行った。
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