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第一章 草原の黄昏 3-4



 その光景を見ていた二つの影は、ぞっとしたように息を呑んでその場に立ち竦んでいる。


「なに見てやがる、おめえらもほかの獲物を仕留めやがれ。そのためにこんな危ねえところまで来てるんだろ。俺は次の標的〝ヒューガン〟を狙う、その隙にお前らは他の誰でもいいから殺っちまえ」

 三人ともカーラム家の雑兵の甲冑を身に着けている。


「あ、相変わらずお前の殺りかたは凄まじいなゼーム。こりゃもう暗殺じゃねえ、ただの殺人だ」

 ゼームと呼ばれた大男が、ぎろりと凶悪そうな瞳を二人に向ける。


「おい、ビゲ、サラローム。俺はお前たちのような柔な暗殺者なんかじゃねえ、人を殺すのがただ好きなだけだ。それで金がもらえりゃこんなに良い仕事はねえからこの商売をしている。言っとくがな、俺は生まれながらの人殺しだ、覚えちゃいないが初めて人を殺したのは俺がまだ三つの頃だそうだ。お前らとは年季が違うんだよ」


「そ、その話しなら聞いたことがある。本当だったのか──」

 怯えたような顔でサラロームが笑う。


「だがな、今度の仕事は金のためにやってるんじゃねえよ。勿論義理や正義なんて屁の臭いほども思っちゃいねえ。大層な身分の人間をこうやって大っぴらに殺せるんだ、それがただ愉しいだけだ。サイレンと名のつく奴と二人の大将軍はすべて俺が縊り殺す、他の雑魚はお前らが好きにしろ。いいか俺の邪魔をしやがると仲間だろうが誰だろうがぶち殺す、よおく覚えておきな」


 引っこ抜いた首の髪の毛を掴み、ニタニタしながら脅しともなんともつかぬことを言う姿は、見る者すべてを恐怖へと誘う。


「こうしてみると、こいつがたったの金貨二千枚だなんて安すぎねえか。もしかすりゃサイレンの大公になるかもしれねえ人間なんだぞ。一万枚、いや十万枚だって高かねえ。でもそんな金どうでもいい、そんな奴を俺がぶち殺したんだ、嬉しくてしょうがねえよ」


 自分で言った〝生まれながらの殺人狂〟それは比喩でもなんでもなく、まさにその通りのものであったのだ。

「さあ、次はヒューガンとかいうやつだな──」

 その希代の殺人鬼がぞろりと、標的が集まる帷幕の方へ視線を送った。



 白い旗を立てた一団が、戦場に姿を現した。

「おい、あれは一体なんだ? まさか勝ってる方が降伏などするはずはないよな」

 それを見たトールン軍の兵たちから、不思議そうな声が上がる。


「馬鹿、降伏しに来た使者じゃなくて、どう考えたって俺たちに降伏を促す使者だろ」

「なに、俺たちが叛逆者どもに降伏? 冗談じゃねえ、誰がそんなことするか。俺は死ぬまで戦うぞ、イアン将軍の仇を討たなきゃトールン武人の名折れだ」


「へへ、よく言ったぜ。俺だって降伏なんか御免だ、オリヴァーさまだってきっとそうだろうよ」

 兵たちは口々に、自分たちの気持ちを口にする。


 誰一人として降伏を悦ぶものはなく、みな戦い続けることを望んでいるようであった。

〝最後の一兵まで〟これが聖龍騎士団の将兵の総意であろう。


「わたしはサイレン公家連合軍ヒューガン・フォン=サイレンが家臣のロンゲルと申す。トールン軍の責任者にお話しがある」

 ヒューガンの謀臣ロンゲルが、脇に大将軍バッフェロウを従え進み出る。


 後ろにはイアンを討ち取ったウル―ザを始めとした、敵諸侯の家臣たちが揃って顔を並べていた。


「聖龍騎士団副将オリヴァー・ツゥーヴ=クライシェンだ、なんの話しか知らんがわたしが承ろう」

 雅な出で立ちのオリヴァーが、厳ついなりのクルーズを従えて現れた。

 両名とも度重なる戦闘で手傷や返り血を浴び、甲冑は汚れ切っている。



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