第一章 草原の黄昏 3-2
自陣後方の高台にある上洛軍の堂々たる帷幕の中も、イアン戦死の報が入るや当然のことながら安堵と歓喜に包まれた。
「イアンを仕留めたのはヴィンロッドの弟と言うではないか、今日の戦は何からなにまでワルキュリア鉄血騎士団の手柄ばかりだな。ペーターセン殿、これではさしもの英雄バッフェロウも形無しですなあ」
満足そうにフライデイが、自分の騎士団を自画自賛する。
「・・・・・」
最後にイアンを討ち取るのは、バッフェロウ率いるザンガリオス鉄血騎士団だと確信していたペーターセンが悔し気に俯く。
「ペーターセン殿、そんなに気を落とすことはあるまい。まだ元帥府総帥カーベリオスという最後の大物が控えておる。それにノインシュタインの殉国騎士団、バロウズ騎士団、今日逃げ去ったシャザーンの神狼傭兵騎士団もエバール騎士団とオルベイラという厄介者も残っている。まだまだ戦はこれからだ。いくらでも手柄を立てる機会は巡って来る、たまたま今日はワルキュリアにツキがあっただけの話しだ」
慰めるようにヒューガンが語り掛ける。
ヒューガン個人としても、ヴィンロッドよりはバッフェロウを好んでいるらしく、彼には珍しくペーターセンに掛ける言葉には真実の温かみが感じられた。
「しかし総大将を討たれたと言うのに、敵の士気が一向に衰える気配が見えません。あ奴ら本当に最後の一兵になるまで戦うつもりなのではございませんか」
執事のロンゲルの言葉に、ヒューガンの顔が強張る。
「そうなるとまだまだ決着はつかんな、星光宮へ入るのは夜半になってしまうではないか。これではゆっくりと食事を楽しむ暇もなくなるぞ」
戦勝気分で上機嫌だった主が急に不機嫌となったのを受けて、ロンゲルが提案する。
「では残った将兵どもに、正式に降伏の勧告をなさってはいかがです。総大将を失った兵たちの中には、これ以上の抵抗を断念したい者もいるはずです」
「ううむ、しかしな──、わたしに逆らった者どもをただ許すのも業腹なことだ」
「では降伏に条件をお付けになればよい、命乞いをするのだから当然のことでしょう。残った将兵たちの手で、隊の責任者及び副官の首を持って来るように申し付ければよろしかろう。さすればヒューガン殿の気も少しは紛れましょう」
ペーターセンが進言する。
「ほほう、それは面白い提案だ。しかし言うことを聞くかな、あれで聖龍騎士団と申すのはなかなか忠義者が揃っておるというぞ」
「それが狙いです。われらに従うものと、あくまで歯向かおうとするものを選別すればよい。きゃつらを二分して、一方にもう一方を討たせるのですよ。さすれば意に添わぬものの殲滅のための時間も短縮できますし、わが方の兵の損傷も減らすことが出来ます」
ペーターセンの口から出た言葉がよほど気に入ったらしく、再びヒューガンの顔は上機嫌となる。
「ようし、その降伏勧告にはロンゲルお前が行け。どうだやってくれるか」
「殿のお言い付けで、どうしてもとおっしゃるのならば致し方ございません。わたしが提案した話しゆえ、最後の決着は自分で付けると致しましょう」
やや不満気だが彼は承諾した。
「では、わが家老リネルガを同道させましょう。傍らにはバッフェロウを控えさせますからご安心ください」
「ペーターセン殿がそうおっしゃるのなら、わたしもホワイティンをお付けいたします。わが外戚の者で、信に足る男です。そうだ、イアンを討ち取ったウル―ザもご一緒させましょう。今日最大の手柄を立てたものだ、相手に対する睨みにもなる」
フライデイが得意げに笑う。
「──わたしもアルファーをと言いたい所なのですが、みなもご存じの通りあの馬鹿者は腹を壊しておりまして、なんとも様にならぬことです」
直に大公になるという身でありながら、おどおどと遠慮がちにジョージイーが発言する。
「お気になさるな、アルファーが居ろうがおるまいが大した変わりはない。食中りなぞで体調の優れぬ者をあてにするほど、わたしは軟弱ではござらん」
ロンゲルがそう言い放つ。
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