動画 13分:21秒〜
「────では、計画の全容を語る前に、今日本が抱えている問題について話しましょうか。まずは、そうですね。少子高齢化から。先ほども言ったように、この問題というのは何も日本だけが抱えているわけではなく、世界中の先進国で問題視されていることです。人口も、労働人口も減る。問題点に関しては、今更私が話さなくたって理解されている方が多いことでしょう。では、なぜ多くの国でこの問題が発生するのか。その原因について考えていきましょう。大抵の国で、二千年以前に複数回のベビーブームが起こり、その時に産まれた方たちが産む子供の数が少ないことで発生しているわけですが、なぜ彼らは子を産まなかったのか。二十世紀と二十一世紀の違いと言えば、インターネットの普及、侵略戦争の停止、価値観の多様化などが挙げられます。要するに、裕福になり、命の危機を感じることが減り、それぞれが自分のしたいことをするようになって、子供が減った。私はこう考えています。今の言い方は聞こえが悪いかもしれませんね。それぞれが自分の人生のことを国や、会社や、血筋よりも重要視するようになった、と言えばいいでしょうか。これは悪いことではありませんよね。私もその一人です。子供が産まれると、どうしたって自分の仕事や趣味に使える時間もお金も減ってしまいます。晩婚化という言葉も、こういった背景から生まれているのでしょう。でもそれらのことは、本当に悪いことなのでしょうか。もちろん国にとっては由々しき事態です。労働をリタイアした世代が増え、労働世代が減るのですから。年金システムも、現行のままでは立ち行かなくなる日が来ることでしょう。ですが、個人としては子供を産まない選択肢を取ることは悪でしょうか。そんなはずがありませんよね。私は少子高齢化というものは悪いことと捉えていません。何なら、人間の寿命が延びている証明でもあるわけですから、むしろ喜ぶべきことでしょう。問題は、少子高齢化が進んでいるにも関わらず、全くそれに対応していない社会システムそのものです。先ほど述べた年金は良い例ですが、他にも、若い世代が全員投票しても勝ち目のない選挙システムや、年々増している社会保険料のシステム。もっと言えば、戦後になって大きな変化のない義務教育もその一つかもしれませんね。こんな状況で子供を産む選択肢が取れる人が少ないのは当然のことです。しかし、これらが変わるのは、冒頭で述べたような非常事態になってからでなければありえないでしょう。コロナ渦になって、以前から技術的には可能だったはずのリモートワークが普及したように、必要に迫られなければ、社会は、人は、変わることができないのです。すみません、また話が逸れだしましたね。私の悪い癖です。私が言いたいのは、子供を増やして、少子高齢化を解決するという不可能に立ち向かうのを辞めましょうということです。この世界中の国家が頭を悩ませても希望の見えない、人類が初めて直面している難題を、国が解決してくれるのを望むのは、あまりに酷な話です。国が変わる前に、我々の価値観を変え、子供を産まずとも負い目を感じる瞬間が一秒たりともない社会にしなくてはならないのです。ただ、そんな国に対しても出生数に関して見過ごせない点が一つ。この国は毎年十五万件ほどの中絶手術を行っています。もし、その全ての命が誕生していれば、出生数は百万人ほどにまで増えることになります。中絶の事情というのは人それぞれですから、その選択を取ったことに関して何か言うつもりはありません。しかし、もし国が好景気で、金銭的な余裕があるならば、この数はもっと少なかったことでしょう。そして、我々の価値観も原因の一つです。この国は未だに、婚姻前に妊娠することが是とされません。もちろん私にもその意識は強くあるので、とやかく言うつもりもないのですが、その意識は果たして本当に必要なのかと考えることは多いです。もしも、この国にもう少し金銭的な余裕があり、もしも、婚姻前の妊娠を是とは言わずとも、非と捉えていなかったのなら、違う現在になっていたのではないでしょうか。話を若者特区に戻しましょう。私の自治区では、中絶することを禁止します。代わりに、出産の費用はすべて負担。子供一名につき一人十万円の育児手当を十八歳まで支給。学費は高校まで無料で、世帯収入の審査を実施して、奨学金の代替えとなる給付金を設けます。そんな予算どこから出るのかという問いはごもっともですが問題ありません。プラダの会員費が毎月十億円以上発生しますので、それを区の予算に盛り込みます。そして、今話したものは計画の一部分に過ぎません────」