須田亮 第1章 第3話
皆の部活動が終了していたから、確か九月頃だったと思う。彼女から、あの映画行くよね?とラインが来た。よろしく!というメッセージしかないトーク画面に、そんな文字が表示されてしまうと、どう返事をすれば良いのか分からず、既読をつけてもしばらく返信できなかった。
彼女と俺は出席番号が近く、まだ席替えをする前の五月、席が隣だった。その頃に、当時流行っていたアニメの話がきっかけで、五分休憩や給食の時間に少しだけ話すようになった。
友達が多くて、人生をとびきり楽しんでいそうな彼女も、俺と同じように一人でアニメを見る時間があることに驚いた。そんな折、秋にその実写映画が公開されるという情報が出た。それを彼女に話すと、絶対行きたい!と目を輝かせながら言った。けど、彼女と会話できるだけで幸福だった俺は、じゃあ一緒に行こうよと言えるわけもなく、行きたいねと、曖昧な返答をした。
彼女はそれを覚えてくれていた。
もちろん俺も覚えていたが、そんなことを自分が誘うのはおこがましいと思っていた。それに、彼女には彼氏が途切れていないイメージがあった。
彼氏と行きなよと返信すると、すぐに夏休みに別れたと返信がきた。
シルバーウィークとは名ばかりの、宿題が山ほどでる三連休の最終日、僕と彼女は筑イオと呼ばれる、近場のショッピングモールに居た。あの地域の中学生が出かけるには定番の商業施設で、電車とバスを乗り継いで行ったはずだ。
私服なんてろくに持っていなかった俺は、デートが決まった翌日、バブル期にイケイケだったという話を何度も聞かされた叔母に連絡し、それ用の服を調達してもらった。青い七分丈くらいのシャツに、Leeのベージュパンツ、紺のショルダーバッグ。最後に黒のスニーカーを買ってもらい、全部を着合わせたら、自分でもそれなりにオシャレに見えた。
当日、叔母のイケてるねという一言を忘れないようにしながら、僅かな自信を持ち、駅で彼女を待った。
「ごめん、待った?」
もう、格が違った。