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須田亮 第1章 第2話

「それではこれで授業を終わります。二十日までに、配信している動画を見ておいて下さい」


 教授がそう言うと、画面から次々と顔が消えていく。次のコマ空いてる?とか、週末のサークルどうする?とか、バイトめんどくせえなとか、そんな声は一切聞こえず、それぞれが画面を閉じて、また独りであることを認識させる部屋へと戻っていく。


 リモートでの授業スタイルが確立されてから、その殆どは配信される動画を期限内に見ておくものに落ち着いていった。教授たちも毎回スライドを用意して説明するより、一回作り上げたものを垂れ流しておくほうが楽だと気づいたのだろう。ZOOMを使って出席を取る授業は多くても月に二、三程。今受けた経済の授業も、次にZOOMを使うのは三週間後だ。また、それまで誰とも顔を合わさない日々が続いていく。


 まだぼんやりと頭痛のする中、ノートパソコンを閉じてキッチンに行き、換気扇のスイッチを付ける。学校、駅までそれぞれ徒歩五分。一K六・五畳で風呂トイレ別。狭いけれどバルコニーもあって、たまたま角部屋に入居できた。これで、家賃四万二千円というのは安いのか高いのかよく分からないけど、親が猛烈に勧めてきたのを考えると安い方なのだろう。


 近所に商店街もあり、学生向けの格安スーパーと年齢確認のされないコンビニも見つけた。バイトができないから、親には多めに仕送りを貰っているし、生活には困っていない。でもそれ以外、この街にどんな店があるのか、どんな人がいるのか、何も知らないままだ。


 換気扇がきちんと吸い込むように煙を吐きながら、スマホをスクロールして、目的のアカウントにたどり着く。


 最近日課になってしまって自分のフォロー欄のどの辺りにあるのか、もう指が覚えてしまっている。何度も見返した投稿たちに、また一通り目を通して、更新されたばかりのストーリーを開くと、次の授業まで五分を切ったことを知らせる通知が鳴った。


 大学になると授業間の移動が大変だよと数少ない先輩に教わっていたけど、気が抜けているせいか、部屋の中のほうが、案外十分の休憩時間は短いかもしれない。どうせ次の授業は音声のみだから、スマホでZOOMを開いて、そのまま換気扇の下で受けることにした。


 狭いスマホの画面が、さらに十六分割され、一人一人の認識が困難になる。けれど彼女の名前だけはすぐに見つけることができた。


 下村菜月。


 最初に見つけた時は同姓同名かと疑ったが、さっきまで開いていたアカウントのプロフィールに、俺と同じ大学の名前が書いてあるから間違いない。


 彼女とは中学三年で一度だけ同じクラスだった。飛び抜けて可愛くて、学年でも中心的な存在で、憧れていた男子も多かったと思う。そして、俺が人生で初めてデートをした相手だ。教授が真っ暗な画面に向かって点呼を始める。淡白な返事が繰り返されていきそれに自分も続く。すぐ後の彼女の声を聴き洩らさないため、さらに淡白にしながら。


「はい」


「下村菜月さん」


「はい」


 彼女の声だけが肉声のようにイヤホンから耳に入り込んできた。

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