須田亮 第1章 第1話
ずっと、このままではいけないという得体のしれない焦燥感が、体を縛っている。
【二十一世紀生まれの私達が、この国で幸福になれるわけないな】
眠気眼で見た彼女のストーリーには、部屋の窓から撮影したであろう明け方の空をバックに、そう記されていた。
タバコを吸いだしてから、腹が張ってたまに痛む。それのせいにして、二度寝に入る。彼女が、自分と似たような思いを抱いていることが嬉しい。
想像していた大学生活と違ったのは、みんな同じだ。
ノートパソコンの画面には、まだ実際に顔を合わせたことのないクラスメート達の顔が蠢いている。いや、クラスメートという言葉自体、大学生には適用されないのだろうけれど、まだ一度も通学していないのだから、自分が大学生であるという自覚もなく、彼らをどう呼んでいいのか分からない。
茶色の前髪が伸び切って目元が見えない奴。部屋の中でも軽く化粧をしてマスクを付けてる奴。本棚や酒瓶が見える画角にしてる奴。そして、寝癖を整え、部屋着の中でも一軍のものを着て写っている自分。ここにいる全員が、まだ会ったこともなく、顔と名前も一致しないものの、将来的には友人や恋人になるであろうクラスメート達を意識している。
それでも、自分を映さないことを選択できる授業では、全員が音声のみの存在になる。大学生になれば、高校までに抱いていた余計な自意識から開放されると思っていたけど、俺達の世代はみんな高校四年生のままだ。
#春から〇〇大学という文字は、例年一定数見かけるけど、今年はその量が多かったし、タイムラインに流れてくる期間も長かった。このタイミングで進学する全員が、どんな大学生活になるか分かっていたから。
内見するためにわざわざ関東に赴いて、学校付近に宿を取り、親と物件を回っていた頃は、この道で通学するんだなとか、あの店で授業終わりに友達と飯を食うのかなとか、デートしに出かけるときはあの路線だなとか、悲観的になりすぎないようにキャンパスライフの妄想をしていたけど、入学から数ヶ月が過ぎようとしている今も、妄想は一つも現実となっていない。