2.天下一舞踏会、開!会!
一ヶ月ほど後──
大陸ナンバーワンの令嬢(ただし悪役令嬢か下剋上ヒロインに限る)を決める「天下一舞踏会」が開催された。
久々の龍帝主催の舞踏会とあって、「無憂宮」の中心部にある大ホール「籐響ドゥオーモ」に、各国から招待客が陸続とやってくる。
ホールの中心部は、奥行きが120m、天井までの高さ60mという扇形のフロア。
それを囲む観客席は幾層もあり、最大5万人超を収容する大陸最大のホールだ。
転移陣でやってきた招待客は、大陸各国の王族、皇族、貴族達。
従僕達が次々と客を案内し、着席した者達に酒や肴が供される。
ドゥオーモの扇の弧の部分の中心には巨大な舞台が設えられていた。
舞台の上には「おーろら☆びじょん」という、縦10m、幅60mの超巨大魔導スクリーンも設置されており、宴の開始を待つ人々に向けて、各国の観光名所の紹介動画やら、大商会の宣伝動画が流れる。
やがて、動画がふっと途切れると、オーケストラの曲が明るい行進曲に変わった。
ギネヴィアとジュスティーヌが大陸中の独身貴族から厳選した「恋愛小説のヒロインの相手役っぽい」貴公子達が入場してくる。
その数、1000人あまり。
皆、テールコートのボタン穴に赤い薔薇を挿して、手を振っている。
その様子は、主だった貴公子の紹介も兼ねて、「おーろら☆びじょん」に映し出された。
顔立ちは整っているがいかにも冷たそうな「氷の貴公子」系がかなり目立つが(彼らは要はコミュ障なので、結婚から縁遠い傾向がある)、「酸いも甘いも噛み分けたおっさん辺境伯」とか「オネェ系貴公子」「沼の貴公子」「岩の貴公子」等個性派も揃っている。
フロアの周辺には、実験参加の選に漏れたたくさんの「普通の令嬢」そして「普通の貴族子息」がひしめいていて、美形貴公子が魔導カメラに抜かれる度に、令嬢達から歓声が上がった。
投票イベントが終わったら、そのまま大舞踏会という段取りになっているのだ。
貴公子の入場が終わったところで、ホールは薄暗くなる。
高らかにファンファーレが鳴り響き、舞台の上に転移魔法陣が開かれた。
金色のドレスをまとったギネヴィアが現れ、進み出ると片手を挙げて歓呼に応える。
続いて、令嬢達らしい人影も10人、左右に分かれてギネヴィアの背後に並んだが、まだシルエットしか見せないようだ。
「本日はお忙しい中、『天下一舞踏会』にお集まりいただき以下略!
結局、殿方に愛されるのは、『悪役令嬢』なのか『下剋上ヒロイン』なのか!?
今宵こそ決着をつけたいと思います。
ということで、サクサク進行してまいりますわよ!」
ギネヴィアがみずから開始を宣言する。
そのまま、ギネヴィアがインタビューするかたちで、「美しい上位貴族の令嬢で、婚約破棄または解消した経験がある者」という条件で集めた「悪役令嬢」達の紹介を始めた。
まず、ことの発端となったジュスティーヌにスポットライトが当たった。
その美しさに、おお、と嘆声が漏れる。
淑やかにカーテシーをキメたジュスティーヌは、問われるままに婚約破棄の経緯を述べる。
気の毒にと貴公子達も観客席も同情した。
貴公子達の真ん中に紛れ込んでいるアルフォンスは、めちゃくちゃ居心地が悪そうだ。
2人目のウィラ、3人目のエミーリアと紹介が続き、4人目の令嬢にスポットライトが当たった途端、どよめきが起こった。
「お胸」が尋常でなく豊かなのだ。
カーテシーをしようと上体を折ると、ぷるんとこぼれ落ちんばかりにお胸が揺れ、身を起こすとそれはそれでたゆんたゆんに揺れる。
なんなら、息をするだけでもう揺れている。
ファビュラスの極みと言わざるをえない。
「えええと……
エントリーナンバー4、ゲルトルート・ジンメル侯爵令嬢。
侯爵家の長男と婚約していたのに、解消となったとのことですけれど、どういう経緯でそうなりましたの?」
さすがのギネヴィアもゲルトルートのお胸に視線を吸われつつ、訊ねた。
「それがわからないのです。
婚約当初は仲良くしてくださっていたのですが、だんだん眼も合わせてくださらなくなって。
もう無理だと思い、わたくしから婚約解消を申し入れたのです。
わたくし、こういう身体つきですから、殿方に厭なことを言われたり、勝手な噂を立てられることもありましたから、そのあたりで妻にふさわしくないと判断されたのでしょうか」
赤毛にぱっきりした顔立ちのゲルトルートは、困り顔で答える。
確かに、ここまで目立つと、トラブルに巻き込まれやすそうだ。
令嬢達は、お胸の大小に関わらず、皆、気の毒げな顔をした。
「なんてこと……
せっかくですから、今日、素敵な出会いがあるとよいわね」
千年も生きているくせに、巧くとりなす言葉が出なかったギネヴィアは雑に逃げ、ついでのように趣味やらなにやら訊ねた。
次いで5人目のアントーニアも紹介する。
いずれも、タイプは違えどいかにも上位貴族の令嬢らしい洗練された美女ばかり。
ドレスも宝飾品も豪奢で壇上がまばゆい。
ただし、ジュスティーヌも含めて、どうもお高いというか、圧が強めな雰囲気があるのは否めなかった。
続いて、下剋上ヒロインチームの紹介である。
こちらは、「髪がピンク系であること、天衣無縫なタイプであること、かわいい系であること」を条件に選ばれた伯爵以下の貴族、またはそれに準ずる立場の娘達だ。
まず野生の男爵令嬢ジュリエット。
パン屋の娘だが、治癒魔法が使えることがわかって聖女候補となったエレン。
歌で瘴気を払うという伯爵家の養女ヒルデガルト。
などなど、こちらは個性豊かで親しみやすい。
5人とも表情豊かで、がんがん斜め上にボケてくるので、会場は笑いに包まれた。
不敬だと眉を顰める者もいたが、ギネヴィアが笑っているうちはセーフというのが無憂宮の掟だ。