第七話 七月二十五日 【新】 チーム分け
集合時間はちゃんと伝えた。
なのに・・・。
「二人して初日に寝坊か?」
遅れてきたのがいた。
「コースケが迎えにくるの遅れてさ。あたし待ってたんだけど・・・」
「違うよアラタ。ハルカが起きてなかったんだよ」
「ちょっとコースケ、あんたはあたし側でしょ?」
ハルカはなんとも思ってなさそうだ。
言い訳してないで、まず遅れたことをみんなに謝ってくれないかな・・・。
「アラタ君、遅れたけどみんな集まったんだし許してあげようよ。わたしは別に怒ってないよ。ケイゴ君もそうでしょ?」
「昼くらいには、三十度まで気温が上がるんだってさ。早く終わらせようよ」
スズとケイゴもなんとも思ってないのか・・・。
ていうか、俺も怒ってるわけじゃないんだけど・・・暑いからかな?
窓を全開にして扇風機も回してる。
それでも室温は下がらない。
・・・毎年こうだな。
◆
「じゃあ・・・とりあえずみんな集まったしやってくぞ。俺たち六人は、大鳥沢の地図を作って発表・・・これを自由研究にする。でも、ただ地図を描くだけじゃ面白くないから、観光案内みたいなのを入れていくんだ。大きな看板に地図とスポットが描いてあんの見たことあるだろ?ああいうのだ」
みんなを座らせて、内容のおさらいをした。
大体イメージついてるとは思うけど・・・。
「何か所くらいにまとめるの?」
「あたしはもういくつか決めてきたけど」
「その模造紙一枚で収まるのか?」
コースケ、ハルカ、ケイゴが思ったことを言ってくれた。
ちゃんと真面目に聞いてくれてたってことだ。
「まあ、みんな色々疑問があるのはわかる。今から説明するから」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
五人の目が俺に向いた。
よし、きのうのアイディアを教えてやろう。
「この大鳥沢は、ケイゴとスズの家がある一区、俺とカエデの二区、コースケとハルカの三区がある。ちょうど二人ずついるよな。だから、自分の区をペアで進めていくんだ。最後に全員で集まってまとめようと思う。・・・しっかりやれよ」
いくつか案は考えたけど、これが一番いい。
六人でぞろぞろ行動するより動きやすいからな。
それにみんなでってなると、負担が大きくなる奴が出たりする。
・・・で、その負担が一番大きくなりそうなのが、俺だってことがわかっているからこうした。
二人ずつなら、気にするのはペアの相手だけだしな。
「ケイゴ君、頑張ろうね」
「一区のスポットか・・・」
「一緒に考えようよ」
スズはケイゴとだから嬉しそうだ。
「コースケとならあたしも気が楽だよ」
「二人か・・・」
「そうあたしと二人だよ。楽しい自由研究になりそうだよね」
「・・・」
コースケは・・・ハルカが引っ張ってくれるから大丈夫そうだな。
「あらちゃん、私がんばるから」
カエデが両手で拳を作った。
前髪で目が隠れてるけど、カエデの表情は大体わかる。
なんかやる気だし、俺たちは問題なさそうだ。
「頼りにしてるよ。思いついたらどんどん言ってくれ」
五人をまとめるより、カエデ一人を見るくらいなんてことない。
「反対の奴はいないな?」
「それでいいよ」
「さんせーい」
「僕も大丈夫・・・かな」
「あたしもオッケー」
「賛成」
よし、これで会議は終わりだ。
「じゃあ、みんなで河合商店にアイスでも買いに行こうぜ」
説明が終わったらこうするって決めていた。
初日から頑張ることないよな。
「ああ・・・だからアラタの家だったわけね。アイス・・・五分くらいだし行こっか」
ハルカが伸びをしながら立ち上がった。
河合商店は、たばこ、お菓子、飲み物、文房具、洗剤、スポンジとか雑貨を売っている店で、じいさんとばあさんの二人でやっている店だ。
俺の家からが一番近い。
「あそこ、オレたち子どもしか客がいないよな」
「そうそう、洗剤とか雑貨とかずっと動かないよね。あたしたちが買うジュースとかお菓子以外は時間が止まってる」
「わたしも不思議だった。いつも聞こうかなって思うんだけど、お菓子買うころには忘れちゃってるんだよね」
半分趣味でやってるような店で、俺たちのために開けてるようなもんだ。
「早く行こうよ」
「なに食べようかな・・・」
コースケとカエデは先に出て行った。
俺は・・・見てから決めるか・・・。
◆
俺たちは外に出て歩き始めた。
こうやって歩きながらみんなで色んな話をするのが楽しい。
仲のいい六人だから、一緒にいるとけっこう盛り上がる。
「やっぱり、大鳥沢小学校のほうが楽しかったよな」
ケイゴが話題を出してくれた。
全員が共感できるやつだ。
「僕は今の体育好きじゃないな。前は体を動かせばいいからって自由にできたけど・・・」
一番最初にコースケが乗った。
体育ね・・・。
「あんたとカエデはいっつも二人で柔軟運動して、たまに走ってって感じだったよね」
「先生がそれでいいって言ってたし・・・」
「私も前の体育の方が好き・・・」
コースケとカエデは、体育はあんまり好きじゃない。
だからこっちの小学校の時は、ずっと二人で体を伸ばしたりしていた。
「わたしもこっちでの体育の方が好きかな。休み時間みたいで楽しかったし」
「六人だからチームも組めないしな。先生も自由に遊べって感じだったから楽だったよ」
俺、ケイゴ、スズ、ハルカはサッカーとかバスケをしていた。
コースケたちもたまに誘ってたけど、ほとんど四人だったな・・・。
「でもこーちゃんは、運動が全部ダメな私と違って走るのは速いからね」
カエデがコースケの背中を軽く叩いた。
これも盛り上がる話題だ。
「そうそう、コースケ君は今の学校で一番速いよね。だーれも勝てない」
「・・・そのうち一番じゃなくなるよ。運動会の色別リレーのアンカーだって、目立つのやだからやりたくなかったのに・・・。あのあとお母さんが、寮にいる姉さんに電話までしてて恥ずかしかったよ」
コースケは本当に足が速い。
姉さんのハツミさんが陸上部で、一年生くらいから教えてもらってたからだ。
「一ヶ月くらいは人気者だったよな」
俺もコースケの背中を叩いた。
「・・・それも恥ずかしかった。慣れてないし」
「今一番なのは変わらないんだからさ」
俺はコースケが注目されるのが嬉しかった。
だから、もっと自信持ってほしい。
◆
河合商店に着いた。
一人の時より早く感じるのは、みんなで話しながらだったからかな。
「いらっしゃい。こんな暑いのに、あんたたちは外で遊んで元気だね」
ばあさんがニコニコしながら出てきた。
なんかこっちも愛想笑いしないといけない気分になる。
「暑いからアイス買いに来たんだよ」
「持って帰ると溶けちゃうからね。そこで食べていったら?」
「そうする。バスも来ないし」
「そうだね、そこのベンチもあんたたち専用だよ」
河合商店の前はバス停になっていて、ベンチもおいてある。
俺たちのためでは無いんだろうけど、古い木のテーブルと椅子もあって、六人で来ても問題ない。
「昔はみんなバスで町に働きに行ってたんだけどね・・・」
奥からじいさんも出てきた。
バスは二時間に一本しか来ない。
転校した町の学校に通うのに使ってるけど、俺たち以外でここから乗るのを見たことないんだよな。
あとは・・・カエデが図書館に行くのに使うくらいか。
◆
アイスを買って六人で座った。
場所は決まってるわけじゃないけど、日陰になるとこは女の子に譲ってる。
「ねえねえ午後にさ、みんなで水神様の所行ってみようよ。あそこって謎だけどスポットだよね」
スズが楽しそうに話し出した。
何するか決めてなかったけど・・・いいかも。
「いいね、僕は賛成。あそこは三区間のちょうど真ん中にあるし、スタートにはぴったりだよ」
「水神か・・・。特にすごい所でもないよね。綺麗な沼だけどさ」
たしかにすごい所でもない。
ハルカの言う通り、ただ綺麗な沼があるだけだ。
「あの水神って彫ってある墓石みたいなのも、小さくて気付きにくいよな」
「寂しい場所だけど、静かで不思議で・・・私は好きだよ」
「ていうか、水神てなんなんだ?詳しい人っているのか?」
「僕もわかんない。でも大人たちがよく草刈りしてるから、けっこう大事なんじゃないかな」
よく知ってる場所なのに、誰も詳しいことがわからない場所・・・。
もっと小さい頃から行ってたけど、改めて考えると不思議な気分だ。
「とりあえず行ってみるか。昼食べたら二時までに沼に集合な」
午後からの予定が決まった。
そうだ、家からカメラ持ってって記念撮影もしよう。
夏休み初日・・・きっといい思い出になる。