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今が『あの頃』になっても  作者: NeRix
本編 第一部
8/71

第七話 七月二十五日 【新】 チーム分け

 集合時間はちゃんと伝えた。

なのに・・・。


 「二人して初日に寝坊か?」

遅れてきたのがいた。

 「コースケが迎えにくるの遅れてさ。あたし待ってたんだけど・・・」

「違うよアラタ。ハルカが起きてなかったんだよ」

「ちょっとコースケ、あんたはあたし側でしょ?」

ハルカはなんとも思ってなさそうだ。

言い訳してないで、まず遅れたことをみんなに謝ってくれないかな・・・。


 「アラタ君、遅れたけどみんな集まったんだし許してあげようよ。わたしは別に怒ってないよ。ケイゴ君もそうでしょ?」

「昼くらいには、三十度まで気温が上がるんだってさ。早く終わらせようよ」

スズとケイゴもなんとも思ってないのか・・・。

ていうか、俺も怒ってるわけじゃないんだけど・・・暑いからかな?


 窓を全開にして扇風機も回してる。

それでも室温は下がらない。

・・・毎年こうだな。


 

 「じゃあ・・・とりあえずみんな集まったしやってくぞ。俺たち六人は、大鳥沢の地図を作って発表・・・これを自由研究にする。でも、ただ地図を描くだけじゃ面白くないから、観光案内みたいなのを入れていくんだ。大きな看板に地図とスポットが描いてあんの見たことあるだろ?ああいうのだ」

みんなを座らせて、内容のおさらいをした。

大体イメージついてるとは思うけど・・・。


 「何か所くらいにまとめるの?」

「あたしはもういくつか決めてきたけど」

「その模造紙一枚で収まるのか?」

コースケ、ハルカ、ケイゴが思ったことを言ってくれた。

ちゃんと真面目に聞いてくれてたってことだ。


 「まあ、みんな色々疑問があるのはわかる。今から説明するから」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

五人の目が俺に向いた。

よし、きのうのアイディアを教えてやろう。


 「この大鳥沢は、ケイゴとスズの家がある一区、俺とカエデの二区、コースケとハルカの三区がある。ちょうど二人ずついるよな。だから、自分の区をペアで進めていくんだ。最後に全員で集まってまとめようと思う。・・・しっかりやれよ」

いくつか案は考えたけど、これが一番いい。

六人でぞろぞろ行動するより動きやすいからな。


 それにみんなでってなると、負担が大きくなる奴が出たりする。

・・・で、その負担が一番大きくなりそうなのが、俺だってことがわかっているからこうした。

二人ずつなら、気にするのはペアの相手だけだしな。


 「ケイゴ君、頑張ろうね」

「一区のスポットか・・・」

「一緒に考えようよ」

スズはケイゴとだから嬉しそうだ。


 「コースケとならあたしも気が楽だよ」

「二人か・・・」

「そうあたしと二人だよ。楽しい自由研究になりそうだよね」

「・・・」

コースケは・・・ハルカが引っ張ってくれるから大丈夫そうだな。


 「あらちゃん、私がんばるから」

カエデが両手で拳を作った。

 前髪で目が隠れてるけど、カエデの表情は大体わかる。

なんかやる気だし、俺たちは問題なさそうだ。

 「頼りにしてるよ。思いついたらどんどん言ってくれ」

五人をまとめるより、カエデ一人を見るくらいなんてことない。


 「反対の奴はいないな?」

「それでいいよ」

「さんせーい」

「僕も大丈夫・・・かな」

「あたしもオッケー」

「賛成」

よし、これで会議は終わりだ。


 「じゃあ、みんなで河合商店にアイスでも買いに行こうぜ」

説明が終わったらこうするって決めていた。

初日から頑張ることないよな。


 「ああ・・・だからアラタの家だったわけね。アイス・・・五分くらいだし行こっか」

ハルカが伸びをしながら立ち上がった。


 河合商店は、たばこ、お菓子、飲み物、文房具、洗剤、スポンジとか雑貨を売っている店で、じいさんとばあさんの二人でやっている店だ。

俺の家からが一番近い。


 「あそこ、オレたち子どもしか客がいないよな」

「そうそう、洗剤とか雑貨とかずっと動かないよね。あたしたちが買うジュースとかお菓子以外は時間が止まってる」

「わたしも不思議だった。いつも聞こうかなって思うんだけど、お菓子買うころには忘れちゃってるんだよね」

半分趣味でやってるような店で、俺たちのために開けてるようなもんだ。


 「早く行こうよ」

「なに食べようかな・・・」

コースケとカエデは先に出て行った。

俺は・・・見てから決めるか・・・。



 俺たちは外に出て歩き始めた。


 こうやって歩きながらみんなで色んな話をするのが楽しい。

仲のいい六人だから、一緒にいるとけっこう盛り上がる。


 「やっぱり、大鳥沢小学校のほうが楽しかったよな」

ケイゴが話題を出してくれた。

全員が共感できるやつだ。


 「僕は今の体育好きじゃないな。前は体を動かせばいいからって自由にできたけど・・・」

一番最初にコースケが乗った。

体育ね・・・。

 「あんたとカエデはいっつも二人で柔軟運動して、たまに走ってって感じだったよね」

「先生がそれでいいって言ってたし・・・」

「私も前の体育の方が好き・・・」

コースケとカエデは、体育はあんまり好きじゃない。

だからこっちの小学校の時は、ずっと二人で体を伸ばしたりしていた。


 「わたしもこっちでの体育の方が好きかな。休み時間みたいで楽しかったし」

「六人だからチームも組めないしな。先生も自由に遊べって感じだったから楽だったよ」

俺、ケイゴ、スズ、ハルカはサッカーとかバスケをしていた。

コースケたちもたまに誘ってたけど、ほとんど四人だったな・・・。


 「でもこーちゃんは、運動が全部ダメな私と違って走るのは速いからね」

カエデがコースケの背中を軽く叩いた。

これも盛り上がる話題だ。

 「そうそう、コースケ君は今の学校で一番速いよね。だーれも勝てない」

「・・・そのうち一番じゃなくなるよ。運動会の色別リレーのアンカーだって、目立つのやだからやりたくなかったのに・・・。あのあとお母さんが、寮にいる姉さんに電話までしてて恥ずかしかったよ」

コースケは本当に足が速い。

姉さんのハツミさんが陸上部で、一年生くらいから教えてもらってたからだ。


 「一ヶ月くらいは人気者だったよな」

俺もコースケの背中を叩いた。

 「・・・それも恥ずかしかった。慣れてないし」

「今一番なのは変わらないんだからさ」

俺はコースケが注目されるのが嬉しかった。

だから、もっと自信持ってほしい。



 河合商店に着いた。

一人の時より早く感じるのは、みんなで話しながらだったからかな。


 「いらっしゃい。こんな暑いのに、あんたたちは外で遊んで元気だね」

ばあさんがニコニコしながら出てきた。

なんかこっちも愛想笑いしないといけない気分になる。


 「暑いからアイス買いに来たんだよ」

「持って帰ると溶けちゃうからね。そこで食べていったら?」

「そうする。バスも来ないし」

「そうだね、そこのベンチもあんたたち専用だよ」

河合商店の前はバス停になっていて、ベンチもおいてある。

俺たちのためでは無いんだろうけど、古い木のテーブルと椅子もあって、六人で来ても問題ない。


 「昔はみんなバスで町に働きに行ってたんだけどね・・・」

奥からじいさんも出てきた。

 バスは二時間に一本しか来ない。

転校した町の学校に通うのに使ってるけど、俺たち以外でここから乗るのを見たことないんだよな。

あとは・・・カエデが図書館に行くのに使うくらいか。



 アイスを買って六人で座った。

場所は決まってるわけじゃないけど、日陰になるとこは女の子に譲ってる。


 「ねえねえ午後にさ、みんなで水神様の所行ってみようよ。あそこって謎だけどスポットだよね」

スズが楽しそうに話し出した。

何するか決めてなかったけど・・・いいかも。


 「いいね、僕は賛成。あそこは三区間のちょうど真ん中にあるし、スタートにはぴったりだよ」

「水神か・・・。特にすごい所でもないよね。綺麗な沼だけどさ」

たしかにすごい所でもない。

ハルカの言う通り、ただ綺麗な沼があるだけだ。


 「あの水神って彫ってある墓石みたいなのも、小さくて気付きにくいよな」

「寂しい場所だけど、静かで不思議で・・・私は好きだよ」

「ていうか、水神てなんなんだ?詳しい人っているのか?」

「僕もわかんない。でも大人たちがよく草刈りしてるから、けっこう大事なんじゃないかな」

よく知ってる場所なのに、誰も詳しいことがわからない場所・・・。

もっと小さい頃から行ってたけど、改めて考えると不思議な気分だ。


 「とりあえず行ってみるか。昼食べたら二時までに沼に集合な」

午後からの予定が決まった。


 そうだ、家からカメラ持ってって記念撮影もしよう。

夏休み初日・・・きっといい思い出になる。

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