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今が『あの頃』になっても  作者: NeRix
本編 第三部
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第五十九話 八月十三日 【きく】 早とちり

 『キクちゃんごめんね。わたし・・・はしゃいじゃって』

『え・・・気にしてないからそんな顔しないでよ。それより、私のせいで楽しくなくなる方が嫌だからこの話は忘れること。ちゃんと楽しんできて』

夏祭りか・・・。

 私もみんなが行くなら本当は一緒に行きたい。

だけど、私はこの土地からは出られないんだよね・・・。


 『カエデは毎年行かないからいるはずだよ』

あ・・・カエデはいるんだよね?

 じゃあ、アラタはどうなんだろう?

聞きたいけど・・・「行く」って言われたらなんかやだな。


 『キクはさ・・・いい匂いがするよな。夏の香りって言うのかな・・・』

思い出すと私の感情が満たされる。

ずっと大切にしたい気持ちだ。

 ・・・そのせいなのかな?

アラタがどこかに行っちゃうと思うと寂しい。


 先読み、私もできればな・・・。

コースケには嘘をついてしまった。


 『先読みなんてするものじゃないわ。私も・・・別に使わないしね。未来は自分で見に行きなさい』

『だから私は先読みをしないんだ』

知り合ったばかりだし、できないことがあるって知られたらがっかりされると思って言ってしまった。


 本当は使えない・・・正確には「まだ」使えない。

先読みを使いこなせるのはもっともっと位が上がらないと無理だ。

コースケに渡したのはあまり役に立たない力・・・だからもう一つ渡した。


 でも・・・気になってしょうがない。

・・・そうだ、それとなくカエデに聞いてみよう。


 えーと・・・家にいるみたいね。

嫌な思いはしたくない。

それでも確認したい・・・行ってみよう。



 「ねえ・・・九月にサークルの同窓会誘われたんだけど・・・久しぶりに集まろうって・・・」

「どこで?」

「仙台・・・西口近くの居酒屋でやろうって」

カエデの家に着くと話し声が聞こえてきた。

お母さんとお父さんか・・・。


 「あんまり行きたくないんだけどね・・・」

「久しぶりなんだからいいんじゃないの?」

「む・・・男の人もいるんですけど・・・」

「なんかあるなら行かせない」

二人は車を磨いていた。

あの人たち、仲良いな・・・。

 「ふふ、そうやって心配してほしかっただけ。あと、お父さんが不安にならないようにレコーダー鞄に入れてくね」

「ていうか、送り迎えするよ。終わったら連絡して」

「え・・・いいの?カエデちゃんは?」

「一緒に行くよ。お母さん降ろしたら、ショッピングでもしてる」

なんか行きづらい・・・。

出かけてほしいんだけど・・・。


 「夜も近くで済ますよ。うーん・・・鉄板焼きがいいな、予約しとこ。こっちも楽しむから遅くなってもいいよ」

「ずるい・・・」

「え・・・」

「ずるいずるいずるいずるい!」

カエデの部屋行っちゃおうかな・・・。

 「ずるいって・・・同窓会じゃ・・・」

「そっちがいい!一緒にショッピングして、一緒に鉄板焼き食べる!」

「何言ってんだ・・・」

「三十・・・いや、ニ十分で出るから三人で予約しておいて」

二人は車に乗り込んだ。

なんか・・・いい家族なんだね・・・。


 『キクはいいお姉ちゃんだな』

『ほんとにそうだね。かわいくて仕方ないんでしょ?』

・・・うるさい。

もういいや・・・カエデの部屋に行こ・・・。



 「あ・・・きくちゃん」

「遊びに来たよ」

カエデの部屋に入った。

今日は集中してなかったみたいだ。


 「探しに行こうかなって思ってたんだけどちょうどよかったよ」

「ちょうど?私、たまたま来ただけだよ」

・・・いつも通りにしないとね。

嘘はつけないから、言い方に気をつけよう。

 「あのね、あさってなんだけど町で夏祭りがあるの」

「あ・・・うん、スズから聞いてるよ。もしかして・・・カエデも行くの?」

私はちょっとだけ素っ気なく答えた。

ああ・・・カエデから夏祭りの話をしてくるってことは・・・。


 そしたらアラタも行くよね・・・。

二人ともいないのか・・・やだな、来るんじゃなかった。


 私が夏祭りに行きたいってことを知られたら、この子が負い目を感じることになる。

スズの時と同じように「楽しんできなさい」って言ってあげないと・・・。


 「きくちゃん・・・どこか具合わるいの?」

「悪くないよ。それに私に具合なんて無い・・・知ってるでしょ」

私は少し冷たく、突き放すように「あなたたちとは違うから」って言い方をした。

 察してほしいって気持ちはある。

でもそれをさせてしまえばみんなの楽しみを奪ってしまう・・・。


 「あ、そうだった。ごめんね」

「で、夏祭りがどうしたの?誘われても・・・私は行けないよ」

「きくちゃん行きたかったの?」

「別に行きたくないよ」

・・・しまった、嘘ついちゃった。

知られちゃった・・・よね。

 「・・・そっか、うーん。そしたら・・・どうしようかなあ」

カエデは気付いてるはず・・・。

 ・・・こんなことで友達に気を遣わせてしまうのは嫌だ。

正直に謝ろう。


 「ごめん嘘ついた、本当は違う。でも、私のことは気にしないで楽しんできていいよ」

これでいい・・・友達だけど、この子たちと私は違う。

変に私に縛られることはない。


 あーあ、こういうのつらいな。

感情がなければ、こんな思いしなかったのに・・・。


 「えっと・・・きくちゃん、私は夏祭り行かないよ」

カエデが真面目な顔をした。

 ほら、ここの子たちはみんな優しい。

・・・こうなるのが嫌だった。

 「気を遣わないでいいよ。あなたたちを縛る気は無いから」

「本当に違うよ。私ね、騒がしいのとか人混みは嫌いなんだ。毎年行ってないし、今年も行かないよ。あとね、あらちゃんも行かないよ」

「え・・・」

アラタいるの?

私の沈んでいた気持ちが浮き上がってきた。

 そうなると、私が勝手に盛り上がってただけってことか・・・。

ふふ、なんか恥ずかしい。


 「そ、そうだったんだ・・・。は、早とちりしてただけよ。アラタも人混みはだめなの?」

落ち着いて、落ち着いて。

夏祭りに二人とも行かない、一人ぼっちじゃない・・・嬉しい。


 「あー・・・あらちゃんはね。そういうのじゃないんだけど・・・誰にも言わない?」

カエデの声が小さくなった。

 「言わないよ」

「絶対?」

「絶対」

秘密、秘密・・・こういうのはやっぱり楽しい。


 「とおるさんから聞いたんだけど、一年生の時・・・五年前だね。夏祭りで迷子になって、放送で呼ばれたみたいなの。それが恥ずかしくて、行きたくなくなっちゃったんだって。散々とおるさんからバカにされたから気にしてるみたいなの。・・・絶対秘密だよ?」

「あはは、わかった。絶対言わない」

面白いけど、実はそんな話どうでもいい。

二人は残るってことが大事。


 「だから私たちは、毎年二人で花火をしてるんだ。午前中にあらちゃんと話したんだけど、今年はきくちゃんも誘って三人でやろうってことにしたの」

「私も・・・いいの?」

「うん、だから探しに行こうと思ってたんだよ」

カエデは元気に頷いた。


 「・・・ほんとに?」

「当たり前だよ。あ・・・でもね、町の花火に比べちゃうと小さいんだ。それだと嫌かな?」

「・・・そっちがいい」

「そっちって?」

この子からいじわるな聞き方をされるとは思わなかった。

カエデは絶対わかってるから、答えるのが余計に恥ずかしくなる・・・。


 「もう・・・あんたたち二人と一緒がいいの!」

「よかった、あらちゃん張り切ってたよ。きくちゃんは花火見たことないだろうから、たくさん見せたいって」

「そ、そうなんだ・・・あさってね、覚えとく」

アラタが私に・・・楽しみだな。

たしかに私は花火を見たことがない。

でも調べないでおくことにしよう。



 「きくちゃんは、嘘ついてもわかりやすいかも」

カエデは桃の味がするジュースをくれた。

甘い・・・。


 「そんなことないよ」

「嬉しいとか悲しいとか、顔でわかるよ」

「え・・・」

いつも通りにしてたつもりだった。

私、顔に出やすいのかな?


 「よくない?」

「んーん、その方がいい。私もそんなふうになりたい。もっと感情を出していけるようにしたいんだ。この前髪もそれを隠しちゃうから、なんとかしたいんだけど・・・」

「その方がいい」か。

 うん、さっきの「感情がなければ」っていうのは無し、やっぱりあった方がいい。

早とちりしちゃったけど、本当のことが分かった時とっても幸せだった。


 「カエデなら大丈夫だよ。そうねえ・・・まずはもっと声を張りなさい。そしたら気持ちも伝えやすくなる」 

私は思っていたことを教えてあげた。

 出逢ってすぐだったら、思ってても嫌われたくなくて言えなかったんだろうな。

今はなんとなくだけど、みんなのことがわかってきたから素直に言える。


 「声を張る・・・今でも頑張ってるよ」

カエデの声が小さくなった。

自覚してないのかな?

 「まあ、会話はできるけど・・・わかってほしい時とかかな」

「うーん・・・そういうことがあったらやってみる」

「うん。カエデが急に大きな声出したら、私びっくりして固まっちゃうかも」

「そうかな・・・」

この子ならきっとできる。

 六人で一番芯がしっかりしてると思う。

自信を持てるきっかけがあればいいんだけどね。

まあ・・・カエデが声を張ったところで、私が固まるってことは無いだろうけど。



 「・・・そうだ、私が夏祭りに行きたかったなんて誰にも言っちゃダメだよ」

私はカエデのほっぺをつついた。

ちゃんと口止めしておかないとね。


 「うん、わかってるよ。みんなに気を遣わせたくないんだよね?」

「違うよ、一人ぼっちが嫌だったの。・・・教えたのはカエデだけだからね。嘘ついてもばれるから」

「きくちゃんにも嘘はつけないでしょ?」

「あ・・・うん、そうだけど・・・約束」

しっかりと指切りをした。

これで大丈夫・・・。


 「じゃあ・・・きくちゃん、三人で花火するの楽しみ?」

「とっても楽しみ」

「ふふ」

カエデは笑顔で返してくれた。


 あさってか、花火早く見たいな。

アラタはどんなのを見せてくれるんだろう。

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