第五十八話 八月四日 【きく】 相性
みんなといると面白いことがたくさんある。
学校なんか無くなって、毎日夏休みになればいいのに・・・。
昔よりも、今の子たちは苦労が多いんだろうな。
私は・・・毎日楽しいけど。
◆
なんとなく会いたくて、アラタの家に来てみた。
本当に・・・なんとなく。
「あれ・・・」
でも、アラタは部屋にいなかった。
場所は間違ってないんだけど・・・。
「んー・・・あ!」
空から辺りを見回すと、近くにある田んぼの前にアラタを見つけた。
・・・木の柵に座って遠くを見てる。
なんだあそこか。
◆
「またここにいた。なにしてるの?」
私はアラタの隣に座った。
二日前と同じ場所、アラタはここにいて退屈じゃないのかな?
もしくは退屈だからここにいる?
「なにもしてないよ。俺、ここにいるの好きだから」
「え・・・何もしないで?」
「そう、落ち着くんだよね」
風がアラタの髪の毛を揺らした。
・・・そうかな?
誰かと遊んだり、お喋りしてた方が楽しいのに。
アラタって、実は静かな方が好きだったりするのかな?
たくさんお話ししたいけど嫌われたくはない。
・・・聞いてみよう。
「今日はここにずっといるの?私がいたらうるさいかな?」
「え・・・そういうわけじゃないよ。キクが来てくれて嬉しいし・・・じゃあお菓子でも買いに行くか。誰かいたら誘ってみんなで遊ぼうぜ」
「本当?来てよかった、早く行こうよ」
心配しすぎだったみたいだ。
それに、私が「来てくれて嬉しい」か・・・今日はいい日になりそう。
◆
「今日もいい天気だよね」
「今年は雨少ないからな」
お店まで、なんとなくだけど私も歩いて行くことにした。
「ていうか、普通に歩く時もあるんだな」
アラタは私が隣に並ぶと嬉しそうに笑ってくれた。
この方がいいってことだよね?
「当たり前でしょ。今日はそういう気分なの」
間違ってはいない、一緒に歩いて話がしたいと思っただけ・・・。
「ねえねえ、アラタはカエデと自由研究っていうのやらないの?他の子のは一緒に行ったりしたよ」
「もう予定は決まってるよ。五日後・・・かな、キクは参加自由だから忘れてなかったら来てくれ」
「なるべく覚えとくね」
絶対忘れないけどね・・・。
アラタとカエデはどこに行くんだろうな。
◆
お店にはすぐに着いてしまった。
近すぎる・・・ほんの少ししか話せてない・・・。
「あ、アラタ君、キクちゃんと一緒だったんだね」
「二人ともちょっと来て、みんなで見ようよ」
店の前には、スズとハルカがいて、二人で本を見ていた。
距離の近さを恨みたくなったけど、今日の遊び仲間が増えたからいいか・・・。
「二人で何見てたんだ?」
アラタがスズの本を覗き込んだ。
「これはね、星座の相性占いの本。きのうお父さんと出かけて、本屋さんで気になって見てたら買ってくれたんだよ。それでこれからみんなのを見ていくところだったの」
スズは本の表紙を楽しそうに見せてくれた。
星座か・・・生まれた日で当てはめるやつだよね。
相性がそんなもので決まるはずなさそうだけど面白いのかな?
「今の子たちの間ではそういうのが流行ってるの?」
私は三人の顔を順番に見た。
「うーん・・・流行ってるわけじゃないかな。女子は好きらしいけど、俺はそういうのあんまり信じてない」
まあ、アラタは男の子だしそうだよね。
「あたしも全部信じてるわけじゃないけど、なんか見ちゃうんだよね。気になるっていうのはあるかな」
ハルカって星は好きだけど、星座占いはそこまでじゃないのか。
「わたしは良かったら信じるよ」
スズは割といい考え方だ。
結果が良ければ前向きになれるし、悪ければ忘れればいい。
『お・・・今日はいい日になるな』
『どうして?』
『お天道様がそう言ってる』
『じゃあキクもいい日になるね』
楽しいんだからやめてよ・・・。
まったく・・・。
◆
「じゃあまずはわたしとハルカちゃんね」
スズがテーブルの真ん中に本を広げた。
まあ、聞かせてもらおう。
「えっと・・・わたしが乙女座でハルカちゃんは牡羊座・・・どっちも女の子だから・・・。ええと・・・二人は時間をかけずに友達になれるかも、そしてお互いが助け合うことで仲が強まります・・・だって」
「なんとも言えないわね。もう仲良しだし・・・そしたらあたしとカエデは?」
「カエデちゃんは蠍座だから・・・。わあ、運命の二人だ。二人は一生の友達になれるかも、ピンチの時には必ずそばにいるでしょう」
さっきは面白いのか疑問だったけど、こういうの好きかもしれない。
なにか変わるわけじゃないけど、もし書いてあることが起きたら信じたくなるんだろうな。
「じゃあハルカとコースケは?」
アラタがにやけた。
私も気になるな・・・。
「まあ・・・コースケとはずっと一緒だったし、あたしと相性いいんじゃないかな」
「ええと・・・コースケ君はハルカちゃんと一緒で・・・男の子だから・・・。んー・・・お互い仲良くなるには努力が必要、相手のことをよく考えて、正直に接していきましょう・・・だって」
「はあ?アラタ、あんたから見てあたしとコースケは仲良く見えてるよね?」
ハルカの声が大きくなった。
こうなるってことは、自分でも思うところがあるんじゃないかな?
「え・・・俺?いや、仲悪くは・・・無いよな。なあスズ?」
「え、わたし?わたしから見たら・・・仲良く見えるかな。あはは」
「そうだよね、じゃあその結果は間違いってことか」
アラタとスズはとばっちりだったな。
たしかに仲悪くは無い。けどコースケは「助手」って呼ばれるの嫌みたいだし、相手の気持ちを考えてあげるのはしてあげた方がいいかも。
◆
「ねえ、キクちゃんの星座は何?誕生日ってわかる?」
スズが最初のページを開いた。
え・・・。
「誕生日・・・」
いつだっけ・・・よくわかんないな。
「今と月の呼び方とか違うんじゃないか?」
「うーん・・・そうかも。生まれたのは雨の日って話だし、梅雨の頃・・・なのかな。でも私の時はみんなお正月に一つ歳を取るから、誕生日って今みたいに気にしないのよね」
「梅雨の時期・・・なら双子座か蟹座なのかな?でも雨って梅雨以外でも降るよね」
昔は誕生日を祝うなんて無かった。
だから憶えてないけど・・・。
あ・・・でも人間としてのキクはもう死んでるから、水神として生まれた日なのかな?
それだったらちょうど三百年で沼から出られたあの日だ。
「誕生日って言うのかはわからないけど・・・。神として祀られて、今の私が生まれたのはみんなと沼で会った前の日だよ」
「てことは終業式の日だから・・・そしたら獅子座だね。スズ、あたしとキクを見てよ」
「うん、えーと・・・あ・・・ごめんねキクちゃん、気にしないでね」
スズの顔が曇った。
良くないってことなのかな?
「平気だよ、早く教えて」
「・・・二人が仲良くなるには偶然に頼るしかないでしょう。性格が合わないので、無理に近付くことはない・・・って」
たしかに聞きたくなかったかも・・・。
「じゃあそれも当たってないね。あたしキクと合わないって思ってないし」
あ・・・たしかにそうだ。私もハルカと合わないとは思わない。
でも私が水神にならなければ出逢えなかったわけだし、最初の方の「偶然で仲良くなれた」っていうのは本当じゃないかな?
あれ・・・私も信じてるわけじゃないのに考えちゃってる。
なにか夢中にさせる力があるみたい・・・。
「ちなみにハルカちゃんは、ケイゴ君とも相性良くないね」
「へー、そういうスズとケイゴはどうなのかな?さっきからあたしのばっかりだし教えてよ」
「え・・・いや・・・わたしのはもう見たからいいよ。ハルカちゃんが見て」
スズはかわいくはにかんだ。
こういう態度だと余計気になる。
「ええと・・・山羊座と乙女座・・・」
ハルカが二人の相性の所を開いた。
どうなんだろ・・・。
「おーーー!!最高の相性じゃん。お互い惹かれ合っています。出逢いから将来は約束されているでしょう、だって。スズ、どう思う?」
「え・・・えっと・・・どうって・・・もう、早く他の子も見ようよ」
スズが赤い顔でハルカから本を取り上げた。
恥ずかしいのと嬉しいのが一緒って感じだ。
「じゃあ俺と相性がいいのは誰?」
アラタも興味が出てきたみたいだ。
「しらべてみよー」
「早く知りたい」
ふふ、楽しそう。
◆
「アラタ君は・・・コースケ君とばっちりだね」
「はあ?なんでアラタなの?なんかむかつく・・・」
ハルカが口を尖らせた。
さっき「あんまり信じてない」って言ってたけど、コースケとのことは気になってるんだ・・・。
「あ、見てハルカちゃん。わたしもコースケ君とはそんなに相性良くないよ」
「・・・でもスズはコースケと一緒の清掃委員だよね」
「ハルカちゃん・・・あれはくじ引きでしょ?偶然だよ」
「いや、そうだけど・・・」
・・・ちょっと変な空気。
ハルカが不機嫌になったのは、コースケが関係してるみたいね。
「でもさ、コースケは委員が決まった時にハルカと一緒の図書委員が良かったって言ってたぜ」
アラタ明るい声を出した。
「え、そうなの?あたしと一緒の・・・そうなんだ。あははごめんスズ、なんかムキになっちゃってさ。占いは遊びみたいなもんだよね」
ハルカはすぐに落ち着いた。
・・・なんで?
私はアラタの方を向いて、目で「どういうこと?」って合図してみた。
「言ってたことはそのまんまだけど、半分は静かに図鑑とか見れるからだと思う」
アラタは耳元で教えてくれた。
みんな慣れてるのかな?
私はどうしていいかわからなかったけど、スズも「いつものこと」みたいな顔だったし・・・。
「じゃあ気を取り直して、みんなのを全部見ていこうぜ」
「そうだね。ハルカちゃん、コースケ君のはもういい?」
「だ、大丈夫だよ」
たぶん、みんながそれぞれの扱い方はなんとなくわかってるんだろうな。
私も早くそれくらい仲良くなりたい。
◆
「・・・俺とスズは、カエデと相性悪いみたいだな。カエデの方が俺たちを苦手に思ってるかもって・・・こんなの見たら自由研究一緒にやり辛くなる」
「わたし、カエデちゃんにそう思われてるのかな・・・」
アラタとスズが暗い声を出した。
信じたり、疑ったり忙しい子たちね。
カエデ本人を見ればそうじゃないってわかるでしょ・・・。
・・・ああ、こういう一喜一憂が楽しいんだ。
私にとっては、結果よりもそれを聞いたみんなの反応が占いの面白さって感じかな。
「おっ、アラタはもう一人相性最高がいる。なるほどなるほど・・・愛だね」
「誰?早く教えてくれよ」
「ちょっと待ってよ」
ハルカは本を独り占めして妖しい笑顔を浮かべた。
誰だろ・・・。
「どうしよっかなあ・・・ふふ、じゃあキクに見せてあげる。・・・ここだよ」
「え・・・」
私の手に本が乗った。
なに・・・ニヤニヤして・・・。
「キクちゃん、読んでみて」
「えーと、牡牛座と・・・獅子座・・・私?」
「そういうこと、さらになんて書いてあるのかなー?声に出して読んでみよー」
そんな急かさなくても・・・。
「えっと・・・作られた境界が無くなれば最高のパートナーになれます。二人の間にある壁は案外もろいかも・・・時間は二人にとって愛の架け橋となるでしょう・・・」
読んでて恥ずかしくなってきた。
愛・・・。
「・・・なんかロマンチックだね。ねーアラタ君?」
「なんだよ、俺は別に・・・」
「なに赤くなってんのよー。あ、もしかしてキクのこと気になりだしちゃった?」
アラタと・・・なんだろ・・・私なんか変だな・・・。
「キクちゃんも・・・なんか顔赤い気がする」
「そ、そんなことないよ。・・・それに書いてあるでしょ?境界が無くなればって・・・私は水神、アラタは人間。無くならないよ」
・・・そうだよ、これは人間同士の話。
境界という壁はもろいどころか、壊れる可能性なんかないくらい硬いものでできている。
境界、壁、愛・・・なんか急に冷めちゃったな。
◆
「ね、ねえ・・・そろそろ他の遊びしようよ」
スズが本を閉じた。
気遣ってくれたのかな?
暗い顔をしてたかも・・・。
『ただ、我々と人間の境界を壊さぬように考えることだな』
大丈夫、わかってるよ。
私は今のままでいい・・・全然平気だ。
「あはは、みんなそんなに真剣な顔しておかしい。さあて、アラタは私にどんなお菓子をくれるのかな」
「そうだったな・・・じゃあ今日は風船ガムの膨らませ方を教えてやる」
・・・これでいい。
人間ではない私と遊んでくれる友達がいるだけで幸せなこと・・・。
でもほんの少し、胸のあたりが苦しい・・・。
ハルカとスズがたまに言っていた占いのお話です。
このお話があったのでキク編を分けるか迷いました。




