第四話 七月二十四日 【新】 たくさんの選択肢
明日から夏休み・・・。
自由研究・・・なんとなくみんなを誘ったけど、そんなに深く考えてたわけじゃないんだよね・・・。
大鳥沢の地図を作る。
まあ、みんなを誘ったのは俺だからしっかり準備はしておかないとな。
◆
「お母さん、模造紙とマジックペン買ってきてくれた?」
終業式から戻って、一番最初に確認した。
「はいはい、これでよかった?ちゃんと画材屋さんで買ってきたのよ」
「うーん・・・」
疑っているわけじゃないけど一応広げてみた。
学校で先生が使っていたのと同じようなサイズ、薄くマス目の線もあって使いやすそうだ。
・・・予備なのか五枚もある。
「うん、イメージ通り。ありがとう」
模造紙を丸め直した。
しわとか折り目つかないようにして部屋に置いておこう。
あとは・・・ギターでも弾くかな。
大学生のトオル兄ちゃんが買ったけど、飽きたからって俺がもらったもの。
「アラタ、それ以外にも宿題出てるよね?」
「出てる・・・今度誰かと一緒にやるよ」
「頑張ってね」
・・・弾いてると、色んなこと忘れられて楽しい。
◆
部屋に戻ってきた。
もちろん宿題はやってない。
「へえ、上手くなったな」
後ろから耳障りな声が聞こえた。
・・・兄ちゃんか。
「ロクに弾けないのにわかんの?」
ちょっと煽る感じで言ってみた。
「突っかかんなよ。お前ら自由研究みんなでやるんだって?」
兄ちゃんもからかう感じで話してきた。
そりゃ俺たちの自由研究なんて、大学生からしたらレベルの低い話かもしれないけど・・・。
「そうだよ、車でも出してくれんの?」
・・・鬱陶しい、早く部屋に帰ってくんないかな。
「車は出せない。まあ、別に邪魔とかする気も無い」
「あっそ。で・・・なに?」
「ふっふっふ・・・実は兄ちゃんも、明日から大鳥沢の調査をすることになったんだよ」
ニヤニヤしてて気持ち悪いな・・・。
「だから?」
「アルバイトなんだけど、大学院の先輩の助手なんだよ。すっごい綺麗な人なんだぜ。いいだろ?」
兄ちゃんはいやらしい顔で笑った。
・・・いつもこうだな。
こっちに興味があってもなくても反応を気にしないで話を続けてくる。
俺が「面倒だな」って顔してるのは気付いてんのか?
「そういうわけで、もしかしたらお前らと出くわすこともあるかもな」
「ふーん・・・」
「先輩の前で失礼なことするなよ?あ・・・あと俺のことは兄ちゃんじゃなくて、兄さんと呼べ。俺はアラタ君って呼んでやるからさ」
「わかったわかった」
「じゃあなー」
兄ちゃんは満足したのか出て行った。
あれを助手にするとか変な奴なんだろうな。
まあ、俺たちには関係ない。
◆
邪魔者もがいなくなったからノートを開いた。
思いついたフレーズのタブ譜とかコード進行を書いていったものだ。
もうすぐ一曲できる・・・。
夏の歌がいいな、熱い奴を作ろう。
・・・できたら誰に聞かせるかな?
こういう趣味からミュージシャンなんて道もあるわけで、考えてると楽しい。
他にもやってみたいことはたくさんある。
宇宙飛行士、ジェット戦闘機のパイロット、秘境や遺跡を探す冒険家・・・。
そういうセンスが自分にあるかはわからない。
でも今はなんだってできそうな気がする。
「そうだ、まだ決めないといけないことがあった・・・」
俺はギターをスタンドに立てかけて、別のノートを開いた。
明日の会議の内容を考えないといけない。
あいつらは誰かがまとめてやらないと自分勝手にやっちゃうからな。
どう調べていくかをしっかり決めないと。
◆
考えているうちに夕方になってしまった。
梅雨特有の湿気った空気はまだ少し残ってるけど、もう雨は降らないみたいだ。
反対側の空は、もう黒く塗りつぶされて夜になろうとしている。
「・・・大体決まってきたな」
会議で話すこともまとまった。
「まあ・・・二人ずつでいいよな」
最初は六人で行動しようと思っていたけど、自分の労力を考えるとけっこう大変そうだ。
だから住んでいる区ごとに分けることにした。
大鳥沢は、一区から三区まである。
ちょうど一つの区に二人ずついるからな。
「一区はケイゴとスズ、二区は俺とカエデ、三区はコースケとハルカ、どうするかは任せて、いい地図を作れって言えばいいな」
遅くなる前に色々決めることができた、今日はよく眠れそうだ。
でも・・・まだ早いよな。
さーて、いい風は吹いてるかな?
俺は窓の外に手を出した。
網戸越しより直接触れればわかる。
柔らかい感触、夏の風・・・。
そうだ、また柵に座ってようかな。
この空気を全身で感じたい。
遅くなっても問題無いし、今日は外にいよう。