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今が『あの頃』になっても  作者: NeRix
本編 第二部
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第四十三話 八月十八日 【耕助】 勘違い

 はあ・・・気になってなんにも手につかない・・・。


 今日見た夢は、ハルカとなにか言い合いをしていた・・・。

だから嫌な予感しかしない・・・。


 ・・・でも、逆もあるか?

夏祭りの夢はいいイメージだったのにあんなことになった。

悪い夢かと思ったら、実は違うってこともあるかもしれない。


 ・・・あの女の子は何だったんだろう?

戻るのがもっと早かったらわかったと思うんだけど、僕も捕まってたからな。

はあ・・・。



 『早くハルカの所に戻らないと・・・』

あの時、僕はすぐに戻れるはずだった。


 『ねえキミ、運動会のリレーでアンカーだったよね?えっと、保阪・・・コースケだっけ?』

前から来た男の子に話しかけられた。

 僕がアンカーだったこと知ってるから学校の人かな?

背も高いし・・・顔もかっこいい。


 『えっと・・・僕?』

『そうキミ、走るの速いよね』

『別に・・・僕の前までの人が頑張ったからだよ』

『そんなこと言うなよ。かっこいいなって思ったんだ』

初対面だけど、君の方がかっこいいと思う・・・。


 『えっと、宮沢とかと一緒に転校してきたんだよね?今日は、あのカッコいい・・・えーっと神咲?とかと一緒に来たの?』

『アラタは来てないよ、今日はハルカとだね。あの・・・僕、君の名前わからないや』

『ふーん・・・』

目の前の男子は、顎に手を当ててなにか考え出した。

 ・・・黙るのやめてくれないかな。

用が無いなら早く戻りたい。


 『ごめんね・・・俺、草野って言うんだ。宮沢から何も聞いてない?』

『ハルカから?草野君・・・色別で一緒の人?』

たしかそんな名前だったはず・・・。

 『そうそう、同じ紫。他には?』

『いや別に・・・』

『ふーん・・・なんだ、そういうことなら言えばいいのに・・・』

勝手に一人で納得してるぞ・・・。

 ・・・ああ、女の子たちが言ってたのを聞いたことある。

この人が草野君か。


 『あのさコースケ、ちょっと一緒に話そうよ』

『え・・・待って・・・』

なにも言えずに腕を引かれて、奥の方に連れていかれた。

行く、行かないに僕は答えてない・・・。


 『ここはわりかし静かだね。・・・花火が始まるまでに終わらせるからさ』

『・・・なんの話?僕、ハルカを待たせてるから早く戻んないと』

『俺、今日の花火大会に宮沢のこと誘ったんだ』

『え・・・』

けっこう驚いた。

そんな話、聞いてない・・・。


 『宮沢は花火なんか行かないって言ってた。でもコースケがいたからだったんだね。・・・素直に言ってくれればいいのに』

『・・・なにが言いたいの?ハルカと僕になにかするの?』

それなら話は別、ハルカに近付かせないようにしないと。

 なんならハルカを抱えて、走って逃げようと思った。

同い年で僕より速い人はそういないだろうし。


 『大丈夫だよ。気にはなってたけど、もう宮沢のことはなんとも思ってない』

『・・・気になってたの?』

『少しね、けどしょうがないかなって。付いて来てくれる子には良くするけど、断られたからって逆恨みなんかしないし』

草野君はにっこり笑った。

 ・・・結構さっぱりしてる。

爽やかで嫌な感じは全然しない・・・モテそうだ。


 『でも・・・それを僕に話してどうしたいの?』

『あ・・・ごめん。話したいのは宮沢のことじゃないんだ。保阪・・・いや、コースケのこと』

『呼び方なんてなんでもいい。結局なに?はっきり言ってよ』

『俺さ・・・コースケに興味あるんだよ』

草野君は照れくさそうに僕の目を見つめてきた。

なに言ってるの・・・。

 『宮沢とよくいるのは知ってたけどさ、運動会で見てからずっと気になってたんだ。・・・かっこいいなって思ってた』

『かっこ・・・は?え・・・いや僕、男の子だし・・・草野君も男の子だし・・・』

『あはは、違う違う。変な意味じゃないよ。俺・・・コースケと友達になりたくてさ』

今のは普通に変な意味に聞こえたんだけど・・・。

んー、もうちょっと聞いてみよ。


 『なんで僕と?』

『俺、女の子は周りに多いけど男でこいつは友達って奴いないんだ。それにさ、なんにも才能とか無いからコースケみたいに光ってるやつのそばにいたいんだよ』

・・・なんか口説かれてるみたいで気持ちわるいな。

でも・・・友達くらいなら。


 『言っとくけど僕、図鑑とかそういうのを見るのが好きなんだけど、そんなのでもいいの?つまんないと思うよ』

『俺も好きだよ、最近は図書室で木の図鑑を見てる。あそこは女の子が付いてきてもうるさくしないから』

『梅の花と桃の花の違いって知ってる?』

『サービス問題じゃん。まず花びらだね、とがってるかどうか。あと梅は枝から直接花が咲く』

正解・・・気晴らしに図鑑を開いてるんじゃなさそう。


 『まあ・・・僕でいいなら』

『やった、ありがとコースケ。そうだ、二学期になったら俺にも走り方教えてほしい』

『あ・・・うん・・・』

『じゃあ、俺も待たせてる子がいるから』

僕もハルカを待たせてたからすぐに戻った。

 そしたら・・・ああなったんだよね・・・。

もっと早く戻れれば違ったのかな?



 「はあ・・・」

また溜め息が出てしまった。

なんか・・・色々考えちゃう。


 草野君、慣れ慣れしかったけどそんなに悪い奴じゃなかったな。

・・・むしろいい人だった。

背は・・・ハルカよりも高かった・・・。


 ハルカ・・・草野君に誘われてたって・・・。

もしかして、気になってたけど僕がいたから断った?

 『え・・・あー・・・そうだなー・・・花火ねー。あはは』

流星群の時、花火のことを言ったらちょっと様子が変だったよね。

あれは気のせいじゃなかったってこと?


 ・・・もしかして、僕はハルカにとって邪魔なの?

ナツミさんの影響もあるだろうけど「助手」って呼ぶのも、僕はそのくらいってことだったりするのかな・・・。


 『あんたに関係ない!』

・・・思い出すと苦しくなる。

話してた女の子のことだとは思うけど、かなり強く拒まれた。


 僕の知らないところで何があったんだろう?

なんで教えてくれなかったんだろう?


 『あなた、女の子みたいに背が低いわね』

・・・触れてほしくないところだった。

 屋台のお姉さんに言われたときも落ち込んだのに・・・。

知らない人に言われるのは結構くるな。


 『来年もあそこで見ようか』

あれは、ただ僕に気を使っただけ?

なんか態度も変だったよね・・・。


 このままじゃ何もできないしハルカに聞いてみようかな?

・・・うん、確かめればいい。

僕の想像と違ってたら安心できるし、この変な気持ちも消える気がする。


 ちゃんと聞こう。

僕はハルカにとって何なのか・・・。


 『こーちゃんはね、あたしにとって・・・』

そんな昔の話じゃない!

今がどうか知りたい。



 僕は急いでハルカの家に向かった。

違ってなかったら・・・どうなるんだろ・・・。


 僕の知らないハルカがいるかもしれない。

考えるとなんか辛いな・・・。



 とりあえず着いたけど、いるかな・・・。

途中から騒がしい排気音がずっと聞こえてた。


 「ふんふーん・・・おっコースケか、ハルカは出かけたよ。静かなとこ探すって言ってたな」

庭にいたギンジさんが振り返った。

 バイクをいじってて騒がしかったんだな。

鼻歌まじりで気分よさそうだし、姉さんとの夏祭りは楽しかったんだろう。


 「ありがとう」

「おう、だーいけと仲良くやれよ」

「あ・・・うん」

僕はすぐに庭を出た。

静かなところでハルカが行きそうなところ・・・日陰があって・・・お寺だ。



 僕は古寺の階段を見上げた。

・・・いつもよりも長く感じる。

でも・・・行かなきゃ・・・。



 「あれ・・・もしかしてあたしに会いに来た?」

ハルカは境内の日陰に座っていた。

 「なに?こっちおいでよ」

読んでいた本を閉じて、僕に手招きをしている。

行こう・・・。


 「お兄ちゃんがガチャガチャいじっててうるさくてさ。ここなら静かだし、日焼けもしないし」

「うん・・・涼しいし・・・」

「そうそう・・・あのさ・・・あたし、あんたに言いたいことあったんだ」

ハルカが真面目な顔になった。

 もしかして・・・やっぱりそうなのかな?

いや、その前に僕から聞きたい。


 「僕もハルカに聞きたいことがあった」

「え・・・なんだろ・・・」

「花火の時、草野君と会って話したんだけど・・・」

「・・・」

ハルカの顔色が変わった。

・・・だけど何も言わない。どうして?


 「ハルカを花火に誘ったって言ってた・・・本当?」

どっち?早く教えて・・・。

 「・・・ほんとだよ。でも断ったんだけど・・・」

「僕・・・邪魔だった?」

「は?ちょっとなに勘違いしてんのよ・・・」

勘違い?

ならどう違うのかちゃんと教えてほしい。


 「でも、僕が屋上で花火の話をした時・・・なんか変だった」

「いや、それはさ・・・」

「・・・草野君と関係あるの?」

「えっとね・・・」

ハルカの話し方が弱くなった。

やっぱりそうなの?


 「・・・本当は草野君と行きたかったんじゃないかなって。・・・僕なんかより背も高いしかっこいいよね」

「え・・・」

「それだったら言ってくれればよかったのに・・・花火の前もイライラしてた」

思ってることを全部言ってみた。

苦しい・・・。

 「あのさ・・・あんたバカじゃないの?そんなわけないでしょ」

「じゃあなんで僕に言わなかったの?話さないってことは、なにかあったってことじゃないの?」

なんか、強い言い方になってる気がする・・・。


 このままじゃ夢と一緒になっちゃうかも・・・。

でも・・・ちゃんと答えてほしい。

 

 「どうなの?」

「別にあんたに言う必要が無かっただけだよ。結局コースケと一緒に行ったじゃん」

僕が知りたいのは結果じゃない・・・。

 「あの女の子とはなに話してたの?・・・僕の話?」

「・・・」

黙った。

ほら、言えないんだ・・・。


 「それも、話せないんだね・・・。じゃあ浴衣の話は?僕が夏祭りのこと忘れてたらいいなって思って、自分から言わないようにしてたとか」

嫌な想像が、勝手に口から出てくる。

 「しつこい!そんなんじゃないって言ってんじゃん!!」

・・・なんで怒るの?

なんで教えてくれないの?


 「ほとんど答えないから聞いてるんじゃないか!」

「何なのよ・・・来てすぐ変なこと言い出して・・・」

「別に・・・ハルカが気になってる人いるなら、僕に気を遣わなくていいって・・・それだけ・・・」

「あんたに何がわかるっていうの?女々しい考え方して・・・女の子みたいなのは背だけにしてよ!」

「あ・・・」

ギリギリで保っていたものがバランスを崩し、倒れて粉々になった気がした。

 「そっか・・・うん・・・」

そこに待っていたように悲しさが覆いかぶさり、僕を塗りつぶしていく・・・。


 「僕・・・そうだよね・・・」

嫌な想像と夢は現実とぴったりと重なって、もう自分を保てそうにない。

だから・・・ここにはもういられない。


 「・・・コースケ?あの、あたし・・・今のは違くて・・・」

「・・・最近考えるんだ。僕ってハルカにどう思われてるのかなって・・・。近頃は助手なんて呼ばれるし・・・。僕はコースケじゃなくて助手なの?」

「コースケ・・・あんたが思ってるようなことはないから・・・ね?あたしの話も聞いて・・・あ、待って!」

僕は階段を駆け下りた。


 断崖、足元が壊れてきてる・・・。

安全なところに行かないと、走らないと・・・。


 ・・・わかってるよ、こういうの「逃げ出した」って言うんだ。

僕の足が速いのはこのためだったのかな?

 

 ハルカ・・・追いかけてはこないみたいだ。

最後に見えた顔、泣いてたように見えた・・・。

 読んでいただいてありがとうございます。

今までのお話で漢字の間違いがいくつかありましたので、そこだけ修正します。

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