第三話 七月二十四日 【楓】 半乾きの髪
夜、月明かりの中で、私は彼に悩みを打ち明けた。
私が頭を抱えていることを彼は真剣に聞いてくれている。
そして泣き出した私の肩を強く、優しく抱いてくれた。
「君が悩むなら僕も悩もう」
心強い言葉で、気持ちが楽になる。
私はこの人が好きなんだ。
◆
「・・・んー、なんか違う・・・。」
私はペンを置いて目を閉じた。
「泣き出すのはもう少しあとにしたいのに・・・もうちょっと我慢してほしいな」
今日もうまくいかない・・・。
気持ちが昂って、髪も乾かさないで机に向かったけどまたダメだった。
お風呂上がりで、さっぱりした気持ちだったからできそうな感じがしたんだけどな。
「でも・・・明日から時間はたっぷりあるもんね」
そう、たくさんある・・・。
やっと夏休みだ。それも一ヶ月・・・幸せ。
このために運動会、宿題、体育・・・嫌なことを我慢してきた。
だから好きにさせてもらうからね。
◆
「うん・・・大丈夫」
気分転換に、終わらせた宿題を確認した。
テキスト・・・割と楽だったな。
こんなもの終業式の今日、帰ってから始めて夕方前には片付けてしまった。
だからあとはみんなとの自由研究だけ・・・。
夏休みの楽しみの一つだ。
みんなと一緒にいれるのはとても楽しいから。
去年までは本当に六人だけだったからもっと良かったんだけどな・・・。
新しい学校は、つまんなくはないけど・・・やっぱり人数が多いのが問題だと思う。
大鳥沢小学校ならもっと静かに本が読めたのに・・・。
静かなところなら集中できて、たくさん本が読める。
夏休み中に一冊でも多く物語を読むのも目標だ。
◆
「えっと・・・これの期限は来週か・・・」
集中が切れたから、町の図書館で借りてきた本を眺めていた。
「返しに行く時また借りてこよ」
図書館と図書室は大好き。
騒がしくないし無料で本が読めるし借りれるいい場所だ。
「これは・・・買いたいリストに入れておこう」
お小遣いはそんなにもらえるわけじゃない。
図書館ならお金はかからないから、読んでみて手元に残しておきたい本は自分で買うようにしている。
たくさんの本を読んできて、最近は自分でも物語を作ってみたいと思うようになった。
中学校に入る前には一つ書き上げるのが目標・・・にしてはいるけど、これがなかなか難しい。
いくつか書いてみたけど、見直すと内容が薄い感じがして嫌になってくる。主人公も私に似てなんか暗い感じだし・・・。
はるちんとかすずちゃんみたいな性格がいいな。
書くならやっぱり明るくて希望のある物語がいい。
結末は、もちろんハッピーエンドだよね。
そのために私は、この夏休みに取材をしようと考えている。
自由研究をしながらできるし、実際に話を聞くことで新しいネタが見つかるかもしれない。
それに・・・私も変われる気がするから。
手始めに、一番話しやすいこーちゃんに取材をしてみようかな。
この夏休みで、少しは明るい性格になれるように過ごすんだ。
物語の主人公は大体前向きな人だからね。
◆
「あ・・・いつの間に・・・」
湿気のない爽やかな風が吹いていて、半乾きの髪を撫でて乾かしてくれたみたいだ。
そして、乾いた前髪がいつものように私の目を隠した。
「夏の風・・・」
私は窓から顔を出した。
冒険譚でも、ラブストーリーでも、SFでも、物語の始まりはこんな感じなのかな?
夏休み・・・。
なんだか今年は素敵なことが起こりそうな予感がする。