第三十一話 八月十一日 【耕助】 気になる
軽トラの荷台は子どもならみんな憧れるはずだ。
ここに乗って風を正面から受けてるだけでかっこいい・・・そんな場所。
「立ってみる?」
僕は立ち上がって、運転席の天板に手を乗せた。
「わあ・・・気持ちいいね。揺れるけど」
横にいたスズも僕の真似をして並んだ。
華奢だけど僕より背がちょっとだけ高い。
・・・いつもと違ういい匂いがする。
「ちゃんとここを持ってると大丈夫だよ」
「へー、あ・・・安定するかも」
スズの前髪が風で全部後ろにいってしまった。
知らない女の子みたい・・・。
今日はハルカのお父さんと前に約束していた来客用のソファを貰える日だ。
それで事務所に顔を出したら「今から隠れ家まで持って行こう」って、軽トラに乗せられた。
誰にも会わずに済むはずだったんだけど・・・。
『あ・・・リンちゃんだ』
『え・・・』
『なんか手振ってるから停めるね』
『はい・・・』
出発してすぐ、歩いているスズに出くわした。
助手席に乗っていた僕はすぐに見つかって・・・。
『きのうテレビで北極の動物を見たの。それでね、アザラシとかシロクマとかが載ってる動物図鑑が見たいなあって思って』
スズは僕に用があった。
『こーちゃんどうする?いいならリンちゃんも乗せてくけど・・・』
おじさんは隠れ家のことをハルカに黙っててくれてる。
スズが見たがっている動物図鑑は、この間隠れ家に持っていったばかりだった。
あとから持っていくようにするかっても考えたけど、もしこのあとスズがハルカと会ったらこのことを話してしまうかもしれない。
それならスズには隠さないで教えて、秘密にしてもらった方がいいと思った。
だから・・・。
『はい、スズなら大丈夫だろうから』
『・・・まあ、こういう日もあるよ。リンちゃん、乗って乗って』
『え・・・』
スズは戸惑っていた。
『図鑑は今から行く所にあるから』
『そうなんだ・・・じゃあ、こっちに乗りたい』
で・・・こうなってる。
「なんか楽しいね。うちには軽トラがないからこういうの憧れてたんだ」
スズがかわいい顔で笑った。
僕と違ってアウトドアなんだよね・・・。
うーん・・・どう説明するかな・・・。
もう隠れ家に着きそうだ。
僕も純粋にこの風を楽しみたかった・・・。
◆
隠れ家に着いてしまった。
「おじさん、わたしまでありがとう」
「おじさんありがとうございます。えっと・・・ここに降ろしてもらえれば僕が運びます」
「あはは、こーちゃんじゃまだ無理だよ」
おじさんはソファを一人で持ち上げて階段に向かった。
「おじさんは力持ちだねー」
「これくらいならリンちゃんのお父さんでも持てるよ」
僕でも大丈夫なんだけどな・・・。
◆
「じゃあ、もう行くね」
おじさんは戻ってきて、僕とスズの頭を撫でてくれた。
これは僕が何歳になるまでされるんだろ・・・。
「お仕事?」
「うーん・・・区長に呼ばれてるんだよ」
おじさんは別に積んでいた荷物を助手席に移動させた。
「蔵の電球が切れたみたいでさ。高い所だし、明かりもないって言うんだよな。爺さんだし、しょうがないから引き受けたんだよ」
「おじさんも暗いとわからないんじゃないの?それに修理屋さんじゃないよね?」
「まあ・・・たしかにおじさんはデザインが専門だからこういうのは違うんだけど、普通の家には無いような道具を持ってるから大丈夫なんだ。じゃあまたねー」
おじさんが行ってしまった。
・・・僕はスズを隠れ家に案内しよう。
◆
「ねえねえ、ここって前のおうちがあったとこだよね?」
「そうだよ。今はこのプレハブだけで・・・僕が隠れ家にして使ってるの」
「隠れ家・・・なんかかっこいいね」
スズはニコニコしながら階段に足を置いた。
ちゃんと秘密って伝えれば大丈夫だよね。
「たまにカムパネルラも近くまで来てるよ」
「え・・・こんなに遠くまで?」
「珍しいよね。校庭でもよく見るかな・・・まあ入ってよ」
僕は鍵を開けてスズを中に入れた。
暑い・・・早く窓を開けて風を入れよう。
◆
「わあ、本がいっぱいある。・・・タンスもある。なんかここで暮らせそうだね」
スズは隠れ家に入るとはしゃぎだした。
初めてだから楽しいんだろうな。
「住もうと思えばできると思うよ。そのタンスには、タオルとかうちの家族の簡単な着替えが入ってるんだ」
はじめはタンスと折り畳みテーブルくらいしかなかった。
「じゃあ、あとは冷蔵庫とカセットコンロとかがあればいいね」
「そうだね。でも、あんまり電気使っちゃダメって言われてるから」
だからここにいるのは夕方までだ。
でもここが気に入ったから本棚を組み立てて、クッションを持ってきて、少しずつ過ごしやすくなるようにしてきた。
まあ、一応ランタンも置いてるけど・・・。
「いいスズ、ここは隠れ家。だから秘密にしてほしいんだよね」
「了解、秘密は守ります。えっと・・・わたし以外は誰も知らないの?」
「・・・ハルカ以外は知ってる」
「え・・・それって秘密?」
「なんていうのかな・・・。ここは静かじゃないとダメなんだ」
僕はスズの目を見ながら言った。
お喋りしたりとか、遊んだりする場所にするつもりは無い。
「わかった・・・でもねコースケ君、ハルカちゃんだけ知らないのかわいそうじゃない?ちゃんと話せば困らせたりはしないと思うよ」
「・・・そりゃ、そう思うけど・・・ハルカにはやっぱり秘密にしておきたいんだ」
スズに言われなくてもわかってる。
ハルカにここが知られたとしても、同じように話せば僕が嫌がるようなことはしない。
でも、なんでだろう・・・。
なんかここは知られたくないって思ってしまう。
「とりあえず安心してね。わたし約束破ったりしないから。ケイゴ君もカエデちゃんもアラタ君も、ここのことをわたしに話さなかった。コースケ君の気持ちはみんなわかってるんだよ。そして・・・ハルカちゃんもそうだと思う、覚えておいてね」
「・・・うん」
この夏だけで三人に見つかったし、たぶんハルカにもそのうち気付かれる。
スズの言うように自分から話した方がいいのかな・・・。
「・・・で、コースケ君。図鑑はどこにあるの?」
考えていると、スズが僕の顔を覗き込んできた。
あ・・・そういえば図鑑を貸さないといけないんだ・・・。
「ちょっと待ってね」
北極の動物・・・ピンポイントで載ってる図鑑は無かった。
海の動物と普通の動物が載ってるものがいいかな。
◆
「これならスズが見たいのが載ってると思う。まあ、ちょっと古めだけど・・・」
僕はスズに図鑑を渡した。
これ以上は無い。
「ちょっと見るね。えーと・・・アゴヒゲアザラシ、ホッキョクグマ、セイウチ・・・写真付きだしいいかも」
「食べ物とか寝る場所なんかも色々載ってるよ」
「じゃあ、これにする」
スズは図鑑をショルダーバッグにしまった。
「で・・・はい、これレンタル料金ね」
僕の手に風船ガムが置かれた。
「ありがと・・・あれ・・・」
スズが近付いた時、またふわっといい匂いがした。
嗅いだことがあるような、無いような・・・聞けばいいか。
「車に乗ってる時から思ってたけど、なんかいい匂いするね。香水?」
「あ、そうだよ。お姉ちゃんがね、試しにってつけてくれたの」
ああ・・・あの人の香りか。
「・・・変かな?」
「そんなことないよ。甘いけどしつこくないし、僕は好きだな」
「そうだよね、よかった」
図鑑が帰ってくる頃には、少し香水の匂いが付いてるんだろうな。
カエデに本を貸した時は蚊取り線香の匂いだった。
どんな場所でどんなふうに見たのか、その本の旅・・・こういうの好きだな。
「じゃあ、しっかり見たら返しにくるね」
「うん、他にも見たいのがあったらいつでも言ってね」
「あ・・・うーん・・・実はちょっと見たいのがあるんだ」
スズは急にモジモジし出した。
恥ずかしいのかな?
「大抵の図鑑はあるはずだけど、どんなの?」
「えーっとねー・・・そのー・・・体のことがわかる本」
「体・・・心臓とか肺とか胃腸?」
「んー・・・まあ・・・」
スズは余計恥ずかしそうになった。
顔も赤くなってきてる・・・。
「その・・・女の人の・・・体のことが載ってるのが・・・」
「女の人・・・」
ああ、たしかあった。
「待ってて」
人間・・・男女の体のこと、成長のこと、絵もあって詳しくわかるのがあった。
僕は恥ずかしくてそのページだけは見れなかったな・・・。
◆
「はい、これに載ってるよ」
「ありがとう・・・ちょっと見せてね」
スズは僕に背中を向けてページを開き出した。
一人で見たい感じだし、黙ってよ。
「二次性徴・・・平均・・・十歳・・・十二歳には・・・」
なんかぶつぶつ言ってるな・・・。
◆
「はあ・・・」
スズが図鑑を閉じて、こっちを向いた。
がっかりしてる・・・。
「えっと見たいのだった?一緒に持っていってもいいけど」
「あー・・・うん、これは大丈夫・・・」
「そう・・・」
「・・・」
スズは黙ってしまった。
え・・・なに?
何を調べてたんだろ?
女の人の体・・・聞いちゃいけないような気もするし・・・。
◆
「コースケー、キクちゃんが来たよー」
隠れ家が気まずい空気で満たされそうな時、それを一気に入れ替えるような明るい声が窓から入ってきた。
・・・助かったかも。
「おキクさん、どうしたの?」
「遊びにきたんだよ、二人いるのわかったから。私もまーぜて」
おキクさんの作り出した雰囲気に救われた。
今の流れを知らないからこその笑顔だ。
「こんにちはキクちゃん・・・」
「あれ・・・どうしたのスズ?今日は元気ないね」
おキクさんもスズの様子に気が付いた。
任せよ・・・。
「え・・・別に平気だよ」
「あっそ、まあ言いたくないならいいけど。・・・でも私はそんなスズ見たくないなー、話したら力になれるかもしれないのになー」
たしかに相談するならいい相手かもしれない。
一緒にいると忘れてしまうけど神様だ。
色んなこと知ってそうだから力になってくれるはず。
「・・・キクちゃんは大人?」
スズが小さい声を出した。
話す気になったのかな?
「大人・・・私は人間じゃないから、スズたちの枠とはちょっと違うんだよね。神で言ったら子ども・・・なのかな」
位が低いって意味か。
前に言ってたけど、三百年ていうのはどの神様も一緒なのかな?
だとしたら、一番古い神はどのくらいなんだろう・・・。
「子ども・・・そっかあ・・・」
「む、なによ。私は水から死者の記憶を探れる。たしかに死んだのはあんたたちくらいの頃だけど、同じに考えてもらっちゃ困るわね」
おキクさんは胸を張った。
落胆されて火がついたっぽい。
「というわけで・・・さあ、なんでも言ってみなさい」
「いいの・・・かな・・・」
「大丈夫だよ、友達・・・でしょ?」
おキクさんは落ち着いた顔になってスズに近付いた。
そこまで熱くなってはなかったのか。
「うん・・・」
スズは少しだけ口元を緩めて目を閉じた。
「・・・最近思うようになったんだけどね。カエデちゃんとハルカちゃんの二人と比べて、わたし・・・胸が無いよね?二人は去年くらいから膨らんできたって言ってたんだ。・・・わたしって変なのかな?」
胸・・・僕聞いていいのかな・・・。
「変ではないと思うよ」
「でも・・・」
「人によって違うのは当たり前だよ」
おキクさんは真剣に聞いてあげてる。
スズも僕に構わず話すってことは、それだけ深刻な悩みなんだろう。
・・・うーん、もしくは僕なんかに聞かれてもなんとも思わないか・・・いや、前向きに考えよう。
信用されてるから・・・だよね。
「お姉ちゃんにも相談したんだ・・・。大丈夫っては言ってくれたけど、それでもちょっと不安だったの・・・」
深刻なのは間違いなさそうだ。
でも、専門家でも女の子でもない僕が励ましてもそんなに響かないだろうな・・・。
まあ・・・言われてみるとハルカとカエデは見ればわかるくらい膨らんでる。
ハルカのは下着だけの時見てるから間違いない。
おキクさんも・・・十二歳での姿なら普通くらいなのかな?
「不安ね・・・じゃあ、私が視てあげるよ」
おキクさんは真剣な顔をやめた。
え・・・そんな軽いの?
「生き死にの話かと思ったよ」
「え・・・そこまでじゃないけど・・・調べてくれるの?」
「うん、スズはいつもおいしいものくれるからね。・・・じゃあ視るからちょっとだけじっとしてて」
どんな感じで調べるんだろ・・・。
「私の手を当てていくからね。でも、なんでそこまで気にするの?あ・・・そろそろ子ども作りたいってこと?」
「・・・こども?」
「おっぱいってそういうことじゃないの?」
「いや・・・そういうんじゃなくて、なんだろ・・・みんなと一緒がいいんだ」
「ふーん・・・」
おキクさんの手が、スズの体を触れるか触れないかくらいで這っていく。
ああすればわかる?
聞きたいけど、終わるまで待ってよう。
◆
「はい、楽にしていいよ。スズはたしかに成長が遅いみたいだけど大丈夫」
おキクさんの診察が終わった。
「で、おっぱいは早ければ今年の冬くらいからだね。遅くても次の春くらいにはって感じだよ」
「本当?わたし変じゃない?」
「嘘ついてもしょうがないでしょ」
「うん・・・ふふ、ありがとうキクちゃん」
スズからさっきまでの暗い感じが消えていた。
隠れ家の空気も緩くなった気がする。
「おキクさん、今ってスズの何を見てたの?」
僕は二人に近付いた。
この感じなら聞ける。
「あ・・・コースケ君・・・」
スズは恥ずかしそうに顔を伏せた。
僕がいることを忘れてたってのか・・・。
「なになに、コースケはスズの体のこと知りたいの?」
「え・・・いや、そういう意味じゃなくて・・・」
「・・・」
スズはほっぺを手で覆った。
なんか僕まで恥ずかしくなってきたな・・・。
「コースケ君・・・あの・・・誰にも言わないでね?」
「うん・・・大丈夫だよ、誰にも言わない。それに僕が知りたいのは、おキクさんが何をしたかってことで・・・」
誰にも言うつもりはない。
隠れ家も黙っててもらうしね。
「別に恥ずかしがることじゃないよ。子どもを作るなら必要なことなんだから」
おキクさんがスズの胸をつついた。
「・・・そういうものなの?」
「そういうものなの。それと私が視たのは、スズの体の中と流れてる水・・・かな。よどみとか濁り、あとは流れ方を見たの」
「流れ・・・」
「うん、おかしなところはなかったから安心しなさい」
水か・・・人間は半分以上が水だって聞いたことがある。
「・・・じゃあ次はコースケも視てあげる」
おキクさんが僕に手を伸ばしてきた。
「え・・・僕は別にいいよ。恥ずかしいし・・・」
「その恥ずかしいのをスズはやったのよ。それに、私が視たいの。はい、じっとしててね」
「あ・・・」
なんか緊張するな・・・。
◆
「はいコースケもおしまーい」
おキクさんの手が離れた。
触られはしなかったけど、やっぱり恥ずかしい・・・。
「ねえキクちゃん、コースケ君はどうだった?」
スズはすっかり元気になっていた。
ああ・・・ちょっといじわるな顔だ。
「コースケも別に変なところはないわね」
「そうなんだ・・・」
「あと、もうすぐ子どもが作れるようになる・・・スズもね」
「へー・・・」
よかった、おかしなところはないんだ・・・。
「あ・・・ねえキクちゃん、子どもってどうやって作るの?お父さんに聞いたことあるけど、教えてくれなかったんだよね」
スズはにっこり笑った。
あ、それなら・・・。
「僕も気になる。教えてよ」
「え?そうねえ・・・教えてあげない」
「なんで?」
「なんかやだ・・・もしその時が来たら、あんたたちの動物の本能が教えてくれる・・・はい、この話はおしまい。これ以上は聞かれても答えませーん」
おキクさんは強引に話を終わらせた。
何年か前にお母さんに聞いた時と同じような反応だったな。
どういう理屈なんだろう?
身近なことでも謎がいっぱいある。
謎・・・そうだ、今度ナツミさんにも聞いてみよう。
民俗学の時も色々話してくれたし、教えるの好きそうだから話してくれそうだ。
「ちょっと教えてくれてもいいのに・・・」
「私は教えない。あのお姉さんに聞いたら?」
「・・・お姉ちゃんもまだ早いって教えてくれなかった。なんで大人は隠すんだろ・・・」
・・・もう聞いてたのか。
スズに話さないなら僕にも教えてくれなさそうだな。
・・・さっきの図鑑をあとで見てみよ。
◆
「ありがとうキクちゃん。これお礼のガムね」
「ふっふっふ、おいしいものくれるならまた視てあげるね」
「うん、じゃあまたねー」
スズは動物図鑑の入ったバッグを大事そうに抱えて帰っていった。
この隠れ家のことは、あの感じなら秘密にしてくれるはずだ。
◆
「うーん・・・言うべきだったかな・・・」
スズの姿が見えなくなると、おキクさんが難しい顔になった。
「なにが?」
「・・・スズの体、ちょっとだけ気になったんだよね。なにか引っかかってる感じ・・・でもそんなに深刻じゃなさそうだから教えなかったの。前向きになれば大丈夫そうだから」
「引っかかり・・・」
僕も引っかかった。
軽く言うけど、口に出すくらい重要なことなんじゃないのかな?
「スズは大丈夫なんだよね?引っかかってるってどういうことなの?」
「そうねえ・・・心か記憶か、何かが引っかかってる。あの感じは・・・ああ、あれはたぶんケイゴね。・・・あー、あのことかな?」
僕と話してほしい・・・。
「おキクさん、一人で納得してないで教えてよ」
「あ・・・ケイゴからちょっとだけ聞いたんだ。えっとね、去年スズを泣かせたことがあるって。詳しくは聞いてないけど、ケイゴが引きずってるならもしかしたらスズもそうかもしれないなって」
「嘘・・・ケイゴがスズを泣かせるなんてありえないよ」
そんなこと想像できない。
ケイゴがスズにひどいことするはずないよね。
「本人から聞いたんだから間違いないよ。コースケたちに話してないのは、二人だけで解決したいからじゃない?」
なるほど、もしそうなら僕たちに話す必要はないか。
・・・逆に口を出すことでもなさそうだ。
「もしそのことだとしたらだけど、ケイゴは何とかしたいって思ってる。だから大丈夫なんじゃないかな。それにスズは、いざとなったら乗り越える勇気を持ってる。体が心を追い越すことはよくある・・・はず」
おキクさんはポッケにガムをしまった。
・・・最後だけちょっと自信無さそうだったな。
でも、今まで僕らにも黙ってきたことをおキクさんには話したのか・・・。
「僕たちには話さなかったケイゴが、おキクさんには少し話したんだよね?それって、ケイゴが一人じゃどうにもならなくなってきてるってことじゃない?」
「そうかもね、今さらあんたたちに相談できないって気持ちもあるんでしょ。・・・しょうがないな、スズに大丈夫って言っちゃたし、とりあえず夏休みが終わるまでにケイゴが困ってそうだったら助けてあげることにする」
「そうしてあげて。あの二人は・・・なんか仲良くないとダメな気がする」
「そうだね、コースケとハルカみたいに。あはは」
急に話を変えられた。
なんでハルカ・・・仲・・・悪くは無いけど・・・。
まあ・・・おキクさんが二人を見守ってくれるなら心配なさそうだな。
「スズも胸が無いなんて変な悩みね。・・・そうだ、コースケごめんね。今日はみんなのところ回って体を視せてもらうことにする。じゃあまたねー」
手を振って飛び上がった水神は、新しい遊びを思いついた子どもみたいに幼く見えた。
僕は・・・図鑑見るか。