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今が『あの頃』になっても  作者: NeRix
プロローグ
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第一話 七月二十四日 【鈴】 手紙

第六話まではプロローグで、六人の主人公たちの夏休み前日のお話です。

本編は第七話からとなります。

 もう梅雨明けなのかな?

今日は夏休み前日だ。

この三日間くらい蒸し暑い雨の日が続いてたけど、今日は晴れてくれた。


 「夕方は涼しいな」

しっとりとした風が吹き、Tシャツの袖から入り込んできて、脇、おなかと擦れ違っていく。


 夏は朝も好きだけど、このオレンジ色が景色を包んでいく夕方もなんとなく好き。

 田んぼの蛙たちは夜通し大声をあげている。

もうすぐ蝉たちも必死で鳴き出すんだろうな。


 「今日渡さないと・・・」

わたしは手紙を届けに行く途中だ。

たまに夕日にかざして、風に当てて、今の空気を染み込ませながら歩いている。



 Y字路を右に行くと、すぐに赤い屋根のお家が見えた。


 「けーごくーん」

わたしはケイゴくんの部屋に向けて呼びかけた。

今は何してるのかな?


 「あら、リンちゃんこんばんは」

ケイゴ君よりも先に、おばさんが物置から出てきた。

手に漬物を持ってるから、夕ご飯の準備中かな?


 「こんばんは」

「待っててね、今呼んできてあげるから」

「ありがとう」

「ケイゴー!」

おばさんは玄関を跨いだのと一緒に大声を出した。

 わたしがこの家に用があるとすればケイゴ君にしかない。

回覧板の順番もこの家の後だし、それがわかっているからおばさんはすぐに察してくれる。



 「スズ、どうしたの?」

すぐにケイゴ君が出てきてくれた。


 わたしの名前は「鈴」って書いて「リン」て読む。

でも大鳥沢の仲良しの子たちは「スズ」って呼んでくれる。

わたしはどっちで呼ばれても気にしないし、どっちも気に入っている。


 「あのね、ケイゴ君に大事なお願いがあるの」

わたしはおもいっきり笑顔で話しかけた。

 「この手紙を夏休み最後の日にわたしに届けてほしいの」

「どういうこと?誰からの手紙?」

ケイゴ君はきょとんとした顔だ。

急なお願いだし、仕方ないか・・・。


 「そうだなあ、わたしに届くまでのお楽しみ。中身は開けちゃダメだよ。約束して」

「心配しなくても開けないよ」

「ちゃんと約束して」

「わかった。約束する」

大事なことはちゃんと約束する。前みたいになるのは嫌だから・・・。

たぶん・・・ケイゴ君もそうだと思う。


 「忘れないでね。あと、必ず手渡ししてね」

条件を足すのは、約束を取り付けたあとが一番いい。

 「ポストじゃダメなの?」

「だーめ、忘れないでね。あ、明日はみんなで集まるんだから夜更かししないで寝るんだよ?約束ね」

「わかった、それも約束する」

「ありがとうケイゴ君。また明日ね」

わたしはすぐに振り返った。

・・・最終日に届くまで、手紙については忘れよう。


 用事は済んだ。

わたしも帰ってご飯を食べて、お風呂に入って早めに寝よう。



 わたしは空を見上げた。

夕日がもうすぐ山影に入ってしまう。


 夕方と夜の間は不思議な色だな・・・綺麗。

けど少し怖い感じ、走って帰ろう。


 「ふふ、さっきよりも涼しくなってる」

湿っているけど柔らかい風が吹いた。

その風が、わたしの背中を夏休みへと押してくれている。

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