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第1話 幸せな夢

 幸せな夢。


 彼と出会った日はいつまでも忘れられませんわ。


 あれは、王都の外の世界に興味が出て、給仕や護衛の目を盗んで外の世界へ飛び出した日。

 まだ五歳だったワタクシは、王都近くに広がる麦畑で迷子になり、途方にくれて弱々しく泣いていた時でしたわ。

 その時、近くの農家の住人である彼の両親と彼に出会いましたわ。

 

 人通りのなかった麦畑で、ようやく人と出会えたワタクシは不安からの解放で、泣きじゃくりましたわ。

 その時、いつまでも泣き止まないワタクシに、同じ歳だった彼が頼もしく言いました。



『なあ、お前、俺は怖いか?』



 ワタクシがその質問に対して首を振ると、彼はイタズラ小僧のような笑みで、ワタクシの頭を叩きました。



『じゃあ、だいじょうぶだ。お前、知らないだろ? この麦畑で俺がいちばんキョーボーな奴なんだぜ?』



 それがとても頼もしくて、彼の手が温かくて、もうそれだけでワタクシの心は射止められてしまいましたわ。

 あの瞬間、もうこの方しかいない。

 そう思い、その想いは今でも決して薄れることのないワタクシの恋ですわ。

 でも、世界はワタクシたちがただ愛し合うだけの日々を過ごすことを許しません。

 魔族が、亜人が、戦争が、ワタクシたちを平和だけを享受させません。

 そして、この時代に力あるものとして生まれた責務として、ワタクシが友たちと戦争へ赴くときも……



『悪いな、フォルナ。魔族だ亜人だ領土争いだ……そんな戦争、俺には興味ねーし、他にやりたいことがある』



 道が違えた彼とはあの日以来会えていませんわ。

 でも、道が違えても、この心は一切色褪せてはくれませんの。



「……ああ、朝ですわね」



 いつもと変わらない天井を見て、ワタクシの意識は覚醒しましたわ。

 とても素敵で胸の温かくなる夢からの目覚めでとても爽やかな気分になりますけれども、それでも現実を直視するといささか心が切なくなりますわ。


「あれから、五年。ワタクシが人類大連合軍の一員として戦争に身を投じ、結局あれから一度も彼とは会えないまま」


 ワタクシ一人にはとても大きすぎるベッドと広すぎる部屋。

 部屋にはちょっとしたアンティークや紅茶のセット、そして本棚と執務用の机。

 カーテンを開けて日の光を一身に浴びて、窓の外に見えるのは、人類大陸最大国家である『アークライン帝国』の大王都市を一望できる風景。


 ここは、帝国城の近郊に位置する王都の中でも高層に設置された軍部関係者か最上級貴族のみが住居を許される高級地。

 そこに位置するのは、全世界の英雄や天才が集う人類大連合軍宿舎と併設されたワタクシ専用の屋敷。

 緊急の際には迅速に駆けつけられるようにとの配慮でそうなっているそうですが、確かにこれは便利なものですわ。


 さらに、夜になれば街明かりや星の光もそれは美しいもの。

 ワタクシの故郷のエルファーシア王国も裕福でのどかな国ですが、壮大さと発展を比べれば帝国は人類大陸でも比類ないもの。


 戦争での功績が認められ、十四歳には将軍、十五歳にはその上の『光の十勇者』の称号を得て、最初は悪い気分ではありませんでしたが、日々の疲れや忙しさの中で、ふと彼のことを思い出すたびに切なくなりますわ。



「ふう。今日の予定はこの間の『神族大陸』の『聖地エルシュタイン』奪還の戦勝パーティーと論功ですわね。帝国に戻った光の十勇者は全員出席。は~、憂鬱ですわね」



 この世界が人類大陸、魔族大陸、亜人大陸と三つの大陸と種族に分かれる中、唯一誰も手の付けられていない広大で、かつては神々が住んでいたとされる『神族大陸』の領土と覇権を争う戦。

 数え切れないほどの戦の歴史を繰り返し、その歴史に身を投じたワタクシも、人類と世界と故郷のためにと戦い、何年も帝国と神族大陸を往復する日々。

 故郷にはずっと帰れないまま。


「また、ドレスも選ばなければなりませんわね。彼にも見せたことのないドレス……これで、何着目かしら?」


 憂鬱な気持ちを抱えたまま部屋を出た瞬間、扉の外には左右びっしりと並ぶメイドと黒服。

 みんなワタクシ専用の世話係として宛てがわれているのですけど、まるで常に監視付きで軟禁されている気分になってしまいますわ。



「フォルナ様。おはようございます」


「「「「「おはようございます、フォルナ様」」」」


「朝食のご用意は既にできておりますので、どうぞこちらへ。そして、こちらが今日のスケジュールとなっております」



 メイド長に渡されたスケジュールには分刻みで事細かく書かれたスケジュール。

 しかも、ほとんど貴族や大臣との会談や表敬訪問ばかり。

 それに…………


「ちょっと!」

「はい?」

「こちらの、帝国公爵のご子息キモーメン氏との昼食会とは何ですの? ワタクシに送られる大量の縁談の中に、この方のお名前を拝見したことがありますが」

「ええ。こちらの予定は、先方の強い要望がありまして。また、公爵家は戦争でも多大な物資支援などを行っておりますゆえ、国王様からも是非にとの」

「…………ちなみに、こちらのご予定を許可したのは、お母様かしら?」

「ええ。エルファーシア女王に確認しましたところ、『娘の気持ちが薄れていないかどうかを確認したい』とのことです」


 なるほど。お母様はワタクシを試されているのですね。

 幼少の頃より公言していたワタクシの気持ちが、この五年で薄れていないかどうか。


「ならば、先方にお断りと、お母様にお伝えなさい! 縁談など今後一切不要! ワタクシの生涯の伴侶は十年前から決まっていますと!」


 ほんっとうに失礼ですわ! お母様だって、ワタクシがどれだけ彼を愛しているかをご存知なはず。

 薄れていないか? むしろ会えないからこそ、募り募って強く濃くなっていますわ!


「フォルナ様、どちらへ? 朝食は?」

「朝食は軍宿舎で取らせていただきますわ! せっかく帰ってきたのですから友人にもお話がありますので!」

「しかし、スケジュールでは朝食の後は……」


 あ~、もう、自由がありませんわね。

 だから、言ってやりますわ! 

 めんどくさがりだった彼が、どんな重大なことでも彼自身に乗り気がなければ言う、言葉。


「ワタクシ、興味ありませんわ!」


異世界恋愛ジャンル読者の皆さま、よろしくお願いします!

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