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08 円満退社

よろしくお願いします。




 7月が終わると半年毎のフリーランスの契約が終了し、そのまま退社して療養生活に入る事にした。

 それは放射線治療の為でもあった。


 手術を拒否したので今後は放射線治療と抗がん剤で出来るだけ進行を遅らせ、あとは緩和ケアを含め穏やかに人生を終えるようにゆとりある生活をする事にしたのだ。


 そう8月からは平日は毎日放射線治療の為に病院通いが始まる。


 そして仕事の最終日に仲のいい同僚二人が送別会をやろうと言ってくれた。

 そこそこ大きな会社なら送別会などは部や課を上げてやるものだろうが、フリーランスではそうでもないかもしれない。


 フリーランスと言うのは派遣される形態が多く、その派遣先に同じ会社の人間が居ない事も有る。

 そんな中でも派遣先は違えど交流のあるフリーランス仲間も居るのだ。



 場所は自分の派遣先の横浜だった。


 2人は都心からなのでちょっと遅い時間になったが無国籍料理の店に20時で予約していた。

 3人揃ったところで運河のほとりに立つビルに入り、仕切り役のSが『取りあえずビール』と言って注文。

 まずは乾杯した。


 2人には病気の事は話していない。

 フリーランスを辞める事は知ってるが恐らくちゃんと起業するものだとか勝手に思っているに違いない、やたら嬉しそうに乾杯が続く。


 2人とは本社で開催される月一の報告会なる集まりの中でつるむ様になった。

 30人程の集まりだが、自分が参加しだした時には既にグループが出来上がった状態なので、その中に入る勇気は無かった。

 そこで見つけたのが最近入ったと思われる、あぶれた男達が何となくアイコンタクトして集まったのが始まりだ。


 それでも会社以外で会うのは初めてになる。

 初めてで恐らく最後だ。



 酒が入ると全員愚痴だらけになるが、それは致し方ない。


 派遣先と言うのは肩身が狭くて大手を振って歩けるような場所では無かった。

 例えば仕事に使うPCが共用PCのみで派遣社員で奪い合いになったり、社内システムへのアクセス権が与えられず、必要書類を一々社員にプリントをお願いする事も有る。

 酷い所ではmyデスクが無いとかロッカーが無いとかホントにココで仕事するの?って場所も有った。

 仕事以外の部分で言えば社員食堂の料金格差、これは仕方ないがなんか悲しくなる。


 こんな感じで愚痴が出るのは当たり前の事だった。



 以前、ある派遣先に居る時、後輩が入って来たがある日ミスをしてしまった。

 これが結構大事になり営業が謝りに来ていたが、当の本人は自分は悪くないの一点張りだった。


 派遣先としては反省が有れば不問とする考えで纏めていたが、しかしそれは教育担当だった派遣先の社員の教育内容に漏れが有った為に起こった事だと後輩は説明していた。

 後輩としては営業への事情説明をしたのだから何らかの対応をしてくれるものと思っていた様だが、事態は変わらなかった。


 営業は俺に最後の説得を押し付けて来たので、実際に大事に至る事をしてしまったのは後輩なので不本意でも謝る様にと促したが説得は出来ず、彼は翌日居なくなっていた。


 結局、営業に不満を訴えてもそ不満が改善される様な事も無く、営業はただ憂さ晴らしの役目をこなしているだけの存在だった。



 そんな派遣と言う状況なので、酒が入ると先ず派遣先の悪口から始まるのは仕方ない。

 と言うかほぼほぼ悪口で終始した。

 続いて担当営業の悪口だ。

 仕切り役のSが呟く。

「俺の担当、コロコロ変わってやりにくいんだよなぁ」

 俺ともう一人は内心そうだろうなと心の中で頷いていた。

 彼は言いたい事を歯に衣着せずにズバズバ言うタイプで、そこに輪を掛けて結構高圧的に追及する言い方をするのだ。

 その性格のせいで報告会で揉めまくった事も有り、こちらが折れてやっと結論が纏まった事も有った。



 愚痴と悪口で2時間を過ごし、Sが代表で会計し即座に徴収され店を出た。


 そして今後の活躍をお互いに祈ってお開きとなった。


 そう、これで終わりだ。



 高々月1回の集まりで仲良く話す程度の仲。

 趣味が同じとか出身が同じとか共通点と思える事も特になく、週末に出かけたり仕事帰りに飲んだり、それこそ相手に要件無しで電話するような間柄では無いので、報告会での話し相手以上の関係では無いのだ。

 変に纏わり付かれるよりよっぽどいい、俺は猫派なのだ。


 これで後腐れなく円満退社だ。




不定期投稿で基本的に1週間に1話以上を考えてます。

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