71 残されたもの
今回で最終話となります。
そこで一つ準備して頂きたいことが有ります。
これは歌詞を文章に出来ない規約の為の苦肉の策ですが、面倒な場合はスルーして下さい。
それは、youtubeなどで「ありがとう君に」と言うタイトルの曲をスタンバイして頂き、再生してから読み始めて下さい。
では、どうぞ。
5月
GWも終った頃、由貴と康介が亡くなった事のショックなどは既に克服し美成は前向きに人生を歩んでいた。
まず康介のマンションで今後も生活をする事にしているので多少荷物を整理し、そこに自分の荷物を実家から持ち込んでいた。
もう既に自宅として馴染んでいる。
康介の遺産は結局200万円位が残り、それだけだと当然生活に困るとは思われるが、実は美成の預貯金は1000万を超えていたのでしばらくは無職でも問題は無かった。
美成は専門学校を卒業して銀座のOLになり、自宅からの割と遠距離な通勤地獄を味わいつつも10年間働いて来た結果の預貯金1000万だった。
お金の掛かる趣味も無く、友人と海外へ旅行などもせず、貢ぐ男も居なかったのでただ何となく溜まってしまったお金である。
しかし、それはこれからの為に必然的なものだったんだと美成は思った。
そして美成は散骨の翌日からギターの練習を始めた。
教則本とかコードブックが有った方が良いらしいが康介の遺品の中には何一つなかったので、初心者向けの教則本を買ってきて、コツとか動きはネットで漁る様にしていた。
しかし、Fのコードで苦戦しているのだった。
康介が使っていた楽譜が有ったので内容を見てみると、何やら昔の外人ロックバンドの楽譜ばかりで、タイトル見ても知っている曲は無かった。
思い付きで曲のタイトルをネットで検索してみると多くの動画がヒットし、一つを再生してみた。
「あ~この曲知ってる~!家のCMのヤツだぁ」
ちょっとワクワクしながら何曲か同じ様に検索してみたが他の曲は記憶にはないモノばかりで早々に飽きた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギターの練習を始めて約1か月が経ち、その間に簡単なコードで弾ける曲を1曲マスター(個人の感想です)したのでちょっと背伸びしてエレキなんだから音出したいなぁと思い立ち、教則本と康介の残した機器を手探りで繋げてみた。
ギター用のアンプは無かったが康介愛用のヘッドフォンと小型のMTRなる物が有ったので、説明書を探り探りケーブルを繋ぎ試行錯誤の後にギターの弦をストロークした。
割れる様な激しい爆音が耳を攻撃してきて慌ててヘッドフォンを投げる様に外す。
「びっくりしたぁ」
幾らやっても音が出なかった為にあれやこれやと弄っていて最後に気づいたのがギター本体のボリュームつまみだったが、見つけた瞬間にギュインっと回してしまった為の悲劇だった。
音さえ出てしまえばこっちの物!とばかりに大人しめの音量に調整して覚えたコードをかき鳴らし、なんとなく良い感じに思えて来た所だったが、実は気のせいだと言う事にはまだ気付いていない。
実は自分が思うよりも下手に聞こえるのが普通なのだ。
こうしてギターと戯れる事数時間。
一休みしながらエフェクター代わりにしていたMTRの説明書に書かれた機能に目が留まった。
それはMTRとはそもそも弾いた音を録音し保存すると言う機械だと言う事をここで知ったのだ。
音を保存する機械が有って、ギターが有って、弾く人が居たら当然録音するよね?と何かひらめきその仕組みを紐解いて行きそして、録音された音源が有る事を突き止めた。
「これだぁ、あったあったぁ、でもこの後はどうするの?」
再び説明書とにらめっこし再生ボタンを押した。
するとクリーンなトーンのアルペジオから始まるバラードが流れて来た。
「これあの人が弾いてるのかな?」半信半疑ながらもおとなしく聞き入る。
長いイントロの後に歌声が聞こえて来た、それは間違いなくあの人のモノだった。
「え~すご~い、弾き語り出来ないって言ってたのにぃ」
そこはMTRの機能、つまりギターとボーカルを別々に録って合わせるのがこの機械なのだから。
そして美成は手で口を覆った、それはサビに衝撃を受けたからだ。
美成は震える手をもう片方の手で抑えつつボーカルパートが終わりラストのギターソロを聞いて泣いていた。
MTRの液晶画面には曲のタイトル「ありがとう君に」と表示されていた。
ソロも終わり無音になった後も目をつむりサビの歌詞を思い返していた。
そして瞼を開き虚空に向かって言った。
「もぅ、バカ、それはこっちのセリフなのよ」
美成は未だに激しい鼓動をそのままに記録されたデータの日時を調べた。
そこには2021/12/03 と表示されていた。それはあの人の誕生日を祝った翌日だった。
もしかしたらあの後にサプライズで残してくれたのね、と胸に手を当てその思いを感じていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
6月初旬
色々落ち着いた美成は、あの人の好きだったスポーツタイプの車に乗り北海道へ来ていた。
最後の旅を考えた時に泣く泣く諦めた北海道行き、それを引き継ぐ形で初めての一人旅を決行したのだ。
「まだまだやらなきゃいけない事がある」と両親を説得した事を思い出し、その前にここへ来たかったのだ。
北海道とは言え6月にもなると意外と暑い、なのでTシャツ1枚で颯爽と走っている。
いつか買った「旅に出ます。探さないで下さい」と書かれたTシャツだ。
あの人の残していた写真やブログの記事を元に過去に行った場所を訪問し、そしてあの人が行きたがってた場所を追加する形で回るように予定を組んだ、その為2週間ほどのロングランになった。
「康介は予定組むのすら楽しんでたから私も楽しまなくちゃね」
そう言ってかなりの時間をかけて作った予定表をスマホとかではなく、プリントアウトしてクリアファイルに入れ、チェックしながら道東の道を走っていた。
「あれぇ?こんな所にも大文字焼きって有るのかなぁ?」
と首を傾げつつ草を刈って作った【牛】と読める小さな山を横目に北へ向かっていた。
「一人旅って意外と良いもんだねぇ」、
誰も居ない、話相手も居ない、しかし思わず語り掛けてしまったのだ。
「いや三人旅だったね」
と美成はお腹をさすった。
「ほ~ら、由貴、そんなに康介蹴っちゃダメでしょ」
と軽くお腹をポンポンしながら話しかけるその指には康介と由貴から貰った指輪が光っていた。
-完-
長い間お付き合い頂き有難う御座います。
これにて完結となりますがとても小説とは言えない様な稚拙な文章ですいませんでした。
とは言え自分が読み手の時には本格的な小説の文章が苦手なのでその反動からか
漫画調の文章になってしまいました。言い訳(^^;
また次作が書けたら読んでやって下さい。




