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68 約束

よろしくお願いします。



 3月18日


 外は春に向かって日差しも強くなり既に桜のつぼみも膨らんでいる。

 あと数日で開花すると開花予報がされていた。


 既に体の自由が利かない状態の由貴は徐々にベッドから出る頻度が減り、今では殆どベッドの中で過ごしていた。

 美成は康介の時に経験したのでこの後の事態の変化の速さを知っていた。

 もう長くは無いだろうと…



 美成は病院の外周に有るソメイヨシノの桜の木を確認しに来たが、まだ咲いてはおらず満開にはあと1~2週間掛かるとの予報に納得した。

 そして次に由貴と康介の思い出の場所の桜を確認しに行った。

 距離的に数kmしか離れていないので開花状況はほぼ同じだった。


 その後は花屋を回った、桜の花が売って無いか確認して回ったが有ったとしても当然つぼみの状態でこれでは意味が無かった。


「どこか桜が満開になっている所に心当たりは有りませんか?」

 店員に聞いても良い返事は当然無かった。


 帰りしなに何処でも良いから満開の桜が無いかと当てもなく車を走らせるが精々1,2輪咲いているだけだった。




 結局何の成果も無く病院へ戻り由貴の元へ向かった。

 するとそこには家族が集まっており美成に気づいたママちゃんが美成を病室の外へ誘導した。


「美成ちゃん、あの子頑張ってたけど、そろそろらしいってお医者さんが…」

 病院からの連絡で集まったのだろうと理解した美成はママちゃんにお願いした。

「ママちゃん、こんな時は家族水入らずが良いんだと思うんだけど、あたしもそこに混ぜて貰って良い?」

 言ってしまえば赤の他人、親友とは言え家族以上の繋がりにはなり得ないと思っていたので、お願いしたのだ。


「今まで由貴の世話もしてくれたし話し相手にもなってくれた美成ちゃんは家族も同然よ、入って話してあげて」

「ありがとうママちゃん」

 そう言って二人で病室に戻った。





「由貴、遅くなってごめんね」

「ん~ん、今起きたところだから」

 その時が迫っている筈なのだが由貴は割と軽快に答え、こんな時にまで気を使うなんてと美成は涙を堪えた。


「ねぇ、聞いて、外はねぇもう春なんだよ、桜満開なんだよ」

「本当に?満開なのね良かった…」


 そして美成は自分のスマホを由貴に見せた。

「ほら由貴、桜もうこんなに咲いてるよ、見てみて」

「本当だ、綺麗ねぇ」

「そうねぇ凄く綺麗ね、これね、あなたと康介の思い出の場所の桜なんだよ、ついさっき撮って来たばかりなの」

 それは確かに思い出の場所の桜だったがそれは康介が撮った過去の画像の1枚だった。


「あぁ、この階段覚えてる…、へぇ、満開だ…綺麗ねぇ…あの時と同じだぁ…」

「うん、凄かったよ、由貴と康介はあそこから始まったのね、なんか妬けるなぁ」

 あの場所は既に無くなっていたのだが由貴がその事を知らなかったのが幸いした形だ。


「でね、もう一つ見て欲しいものがあるの」

 そう言って予め用意していたポスターを広げた。


「ねぇ凄いでしょ、今見せたスマホの写真と同じじゃない?」

「うん、同じ場所ね…凄く綺麗…」

 何枚かあった別アングルの画像をポスターにしたのだが、何とか別物として誤魔化せたかな。


「コレ、撮ったのは康介なの、それをあたしがポスターにしたの、撮影したのはどうやら由貴と別れた翌年の春みたい」

「へぇ~、あの場所に行ったんだ…」

「康介にとってココも最高の思い出の場所だったのかも知れないよ」

「ウン、そうかも…わたしもそう…覚えてる…」

「息ピッタリじゃない、もぅ」

 美成は由貴を軽くつついたが、しかし由貴は反応を示さなかった。


「これで約束果たせたのかなぁ?」

「あの人との約束?」

「そう、最後の約束」

 それは康介からの最後の日のお願いだった。

 桜が咲く思い出の場所に佇む由貴の姿を夢に見て、それを実現して欲しいとの願いを託されたものだった。


「この桜の咲きっぷりなら全然大丈夫よ」

「そうね、良かったぁ」

「良かったね」


「……」

「……」


「あの時の野球場のスタンドに居た彼を見た時のドキドキを思い出しちゃった、ハハハ」

「なんかズルいなぁ」

「フフ、やっぱりわたしも好きだったんだなぁ」

「お互いね!」

「あんな男にどうしてだろうね、フフフ」

 二人はしばらく笑っていた。


「でもさ最後にちゃんと分かり合えたんだから思い残す事ないわ」

「そっか、嬉しそうだね?」

「うん、苦しい筈なのになんか凄く楽しかった」

「あたしも」

「ありがと」

「どういたしまして」

「……」

「……」


「コウスケ…今…」


 そう言いかけて目を閉じた由貴の息をする音が静かになり握った手には握り返す力が既に無かった。


「ゆきぃ…」

由貴の胸に顔をうずめ今まで我慢していた物が溢れ出した。

大泣きする美成を看護師が抱きかかえ由貴から引き離し、医師が死亡確認を取る。

「14時33分 ご臨終です」

「ああああぁぁぁんんん…」

美成は再び大声で泣いた


大事な人を続けざまに亡くした為か、この時ばかりは堪えきれなかったのだ。


3月18日 夏川由貴 逝去




そしてこの翌日、桜の開花宣言がなされた。


この回のセリフ部分を書き上げて一つ気が付いた事が有りました。

それは由貴の声のイメージで、どこかでその特徴を書いた事が有りましたが

ちょっと違ったかも(^^;

実際にイメージピッタリだと思ったのは【秒速5センチメートル】の中学生時のアカリでした!

皆さんのイメージとは違うかも知れませんがどうでしょう?合ってない?

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