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61 そして…

よろしくお願いします。



 2月12日


 昨夜、美成の必死の願いを受け入れ婚姻届けにサインし、それを美成が直ぐに提出しに行った。

 そしてそれから数時間後の真夜中、俺は今までに無い状態に陥っていた。

 痛みは無いが体が思う様に動かなかったのだ。


 何をしようと言う分けでも無いが体を起こそうとしても、まず手がちゃんと体を支えられず体を起こす事が出来ない。

「あれ?これヤバいのかなぁ」

 ボソッと呟いてナースコールをすると看護師が慌ててやって来てあれやこれやと対処する。

 しかし特に急を要する状況では無いとの判断が下されたらしいが、時間的に担当医は居らず当直の外科でも内科でも無い医師しか居なかった為、本格的な対処は翌朝となったらしい。

 当然美成への連絡もして居なかった様だ。

 そして俺は夢を見た、それは美成と由貴のそれぞれの夢だった。




 翌朝、美成がやって来て俺の状態を見て看護師に詰め寄っていた。

 俺の体は色々なコードや管が付けられていて、ベッドから動けない状態になっていたのだ、そもそも体の自由が効かないのだから俺としては異論は無いのだが、美成は俺の状態の急変を連絡してこなかった事にご立腹の様だった。


「美成、そう騒ぎ立てるなって、みんなちゃんとやってくれてるんだからさ」

「だって、でも…うん、分かった」

 一応声はまだ出るが、この事態は予想よりも早く死期が切迫していると自覚せずには居られなかった。


 医師や看護師は病室を出て行き美成も落ち着きを取り戻し俺の手を握っている。

「大丈夫よ、少し寝たらまたこんな管、直ぐ外してもらおうね」

 薬の影響で瞼が重くなっているのを見て取り、寝る様に促していたので素直に眠る事にした。


 この後、美成は由貴へ報告し2人で俺のベッドの横で見守っていた様だ。




 夕方になり、俺は目を覚ました。

 ベッドの左には美成が、そして右には由貴が居て2人共俺の手を握って目を覚ました俺に言った。

「おはよう」


 俺はてっきり丸一日過ぎたのかと思ったが美成が今朝からの状況を説明してくれた。

 美成は看護師に俺が目を覚ましたら連絡する様に言われていたのかナースコールをした。


 パタパタと看護師がやって来てバイタルを取り、後からやって来た医師に報告していた。


 どうやら俺は既に自分で起きる事も出来ない位に体の機能の低下が進んだらしい。

 そして俺は悟った、そうかこの辺りが限界か…と。



 俺は美成にお願いをした。

「美成、聞いて欲しい事が有るんだ」

「なに?」

「多分、そろそろあっち側へ行く頃なんだと思う」

「え?」

「だから美成、後の事は任せたよ」

「うん、でも、まだまだ大丈夫だよ、頑張って」

 ちょっと潤んだ目で訴える美成、ギリギリの所で泣かずに堪えている様だった。

 それは美成自身が泣いてしまうとそのまま逝ってしまいそうだからと敢えてそんな事ないよと言わんばかりに踏ん張っていたのだ。


「それとさ、散骨する時に俺のギター、白い方のやつを一緒に投げ入れてくれないか?、もう一本はお前が持っていてくれ」

「うん、分かった、向こうでも弾きたいんだね、たまにはあたしにも聞かせてね」

「ああ、でもお前が弾いている夢を見たんだ、だからお前も俺に聞かせてくれよな」

「うん、でも上手く弾けなくても怒んないでよ?」



 そして俺は由貴にもお願いをした。

「由貴、お前にも一つお願いが有るんだ」

「なに?」

「どんなに辛くても桜を見るまでは生きてくれないか?」

「そんな事、私にはどうにも出来ない……」

「俺がお前と初めて待ち合わせしたあの場所に咲いてた桜の花とお前の姿を夢で見たんだ」

「うん……」

「だからきっと大丈夫だから」

「分かった、頑張る」



 意識がもうろうとしてくる中、彼女と元カノからバレンタインのチョコをもらう。

 それは二人からと言って小粒のチョコの詰め合わせを見せてくれた、恐らく手作りなんだろう、ちょっと形が歪んでるのもあったから。

 二人はチョコを看護師に見せて無言のまま食べさせる許可を貰った。


「一日早いけど、これ私たちからのバレンタインだよ、受け取って?」

 と言って美成が一粒、四角っぽいチョコを口に入れてくれた。

「うん、あま~い、味わって食べないと罰が当たるな」

 と、言いつつ実はあまり舌が上手く動かせず解けるチョコを何とかのどに送り込むのがやっとだった。


「ゆっくりで良いから味わってね、型は由貴が作ってくれてあたしはチョコを流し込んだだけなんだけどネ、由貴、ヘヘヘ」

「型って言っても凝ったものは作れなかったけどね、美成、フフ」


 数分掛けて口の中から甘さが消えた頃に今度は由貴にチョコをねだった。

「由貴、もう一つチョコくれないか」

「うん、どれが良いかな、これにしよっ」

 由貴が選んだのは丸っこいチョコだった、それを俺の口に入れ軽く押し込んだ、舌が上手く使えなかったのが分かったのだろう。


「どうかな?これ!日本酒を混ぜて有るのよ、味分かるかな?」

「わたしも味見したけどお酒苦手なのに、コレは凄く美味しかったのよ」


 美成が説明して由貴が感想を言って二人は軽く微笑みながら舌でチョコを転がす姿を見守っていた。


「うん、美味しい、じゃあもう一つ」

 そう言ってチョコをねだると二人は顔を見合わせてハート形の様なチョコを選んでくれた。


 一度俺に見せてから「じゃあ、これをどうぞ」と言って美成が取り上げそれを由貴に渡す、それを由貴が摘まんで口に入れた。


「これは何かわかる?」

 由貴の問いかけに「ハート?」と応えたがどうやら違った様だ。


「コレはねぇ、コウスケが良く使ってたピックの形だよ?ティアドロップの形ね」

「出来上がったらちょっと窪んでてハートにも見えるのよね」

 そうか美成の失敗のせいでハートになったのか。


しばらく溶けるのを待ってから言った。

「凄く美味しかった、ありがとう」

 まだチョコは溶け切っていなかったが二人に感謝をして目を閉じ言った。


「じゃあ、次は…」


 目を閉じ僅かにほほ笑んで次のチョコをねだったが、舌で数回転がしたチョコは残ったまま動きは止まる。

 静まり返る病室に「ピー」と言う無機質な音が暫く鳴り響いた。


 由貴は一言。

「受け取ってくれてありがと」

 美成は。

「約束は必ず果たすからね」

 そう振り絞るように呟いた。


2月13日 山城康介 逝去


かなり書き直しや入れ替えをしたので辻褄が合わない様な箇所が有ったりしたらゴメンナサイ(><)

気づいたら修正します!

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