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56 思い出

よろしくお願いします。



 今日もルーチンである診察と検査を終え病室へ戻ると、美成がベッド脇でウトウトしていた。


「よっ、ただいま」

「あ、おかえり、検査終わったの?」

「今日はコレで終わりだって」

「そう、お疲れ様ぁ」


 言い終えて直ぐに冷蔵庫からリンゴを取り出し剥き始めた。

 由貴ももうじき戻るだろうと読んでの行動だった。


「ただいまぁ」

 由貴が戻って来たが本来は隣が由貴の病室なのだが、どうやら直にこっちの部屋に来た様だった。

「「おつかれ~」」


 俺は椅子に座り二人はベッドに並んで腰かけ、リンゴを爪楊枝で刺してそれぞれが一口かじる。


「ねぇ、美成、コウスケとは何時から付き合ってるんだっけ?」

「え?え~っと、最近だよ、10月の初めころ」

「へぇ~、じゃぁデートでどこか行った?」

「う~ん、まぁ、ちょこちょこと、ね」

「なんか勿体ぶってるぅ~教えてよぉ」

 由貴はデートの内容に興味津々だ。


 美成は由貴の興味を満足させる様に今まで二人で行った所の土産話にスマホの写真を合わせて聞かせた。

 由貴はそれをニンマリしながらちょっと冷やかし気味に茶化しながら聞いていた。


「美成良いなぁ~結構遠い所行ってるんだねぇ」

「この人が行きたいって言ってた場所がそこだっただけなんだけどね」

「わたしはそんなに遠くには連れて行って貰ってないから羨ましぃ~」

 由貴と付き合ってたのは就職したばかりの歳だったので正直言って遠出する程の余裕がなかったのだ。


 と、ここで美成の反撃が始まる。

「由貴だって色々行ったんでしょ?」

「え~、殆ど地元デートばかりで遠出はそんなに無いよぉ」

「例えば?」

 そう聞かれて由貴は俺の方を見て言った。

「横浜とか上野とか…あとは大体車で伊豆方面だったね」

「あぁ、そんな感じだったな、車買ってからは伊豆ばかり行ってた気がする」

 初めの内は電車で都心部へ向かう事が多かったのだが、ゴミゴミした都内よりもゆったりした自然を満喫する様になって行った感じだ。


「ねぇ由貴、何か面白い事なかった?」

「面白い事ぉ?あ、そう言えば、新宿行ってコインゲームやろうって話になって新宿に付いてみたらコウスケが突然、あっ財布忘れたってなって仕方ないからその日は全部私が払ったのよ」

「あ~あれかぁ、定期入れは持ってたけど財布忘れたからATMで下ろす事も出来なくてねぇ、へへ」

 まぁ、そんな事も良くある事でしょ?そうでもない?


「あ、あと、横浜に行った時にイベントが有る事を二人とも知らなくて、中華街でお昼食べようとしたら、もっっのすごい人だかりで目星を付けてたお店も凄い行列で、結局お昼はマリンタワーの所のカフェでケーキ食べただけだったなぁ」

「いつ行ったの?」

「GW、みなと祭りだったのよ、パレードも有ったし凄い人だったわねぇ」

「あれはしくじったよなぁ、予定が全く消化出来なくて改めてもう一度行ったもんな」

 旅行等でリサーチを欠かさない様になったのは、この経験が有ったからだと思う。


「ねぇ、なんかもっと初々しいの無いのぉ?」

 美成が無茶振りしてきた。


「えぇ?初々しいって何だろ?」

「初めて○○したとか無いの?」

 由貴はまた俺の方を見ながら「う~ん、じゃぁ、上野動物園かビリヤード?」と俺の顔を伺った。


「初めて○○って事なら上野動物園かな」と俺は返した。


「なになに?何したの?」

 何やらにやけながら美成が身を乗り出してきた。


「多分コレ、当時美成に話したと思うけど、この時にね初めて手を繋いだの」

「ん~、ん?、聞いたかなぁ?ま、いいや、それで?」

「それでって、それだけなんだけどぉ、あっ、そう言えば真夏で暑かったのよ、それでコウスケが暑いからしばらく手を離そうかって言って来て離したのね」

「うんうん、それで」

「その後、わたし躓いちゃって慌ててコウスケの手を掴んだのね」

「それで」

「そしたら、今度は手を離してくれなくて滅茶苦茶暑かったって話」

「え~~落ちてな~い」

 落ちを要求されたら何も話せなくなるって美成さんよぉ。


「あ~あの時はねぇ、俺も暑かったんだけど離して直ぐにまた掴まれたから、これはもっと繋いでいたいと言うサインなのかな?とか思って暑いの我慢してたんだけど、違った?」

「う~ん、実はねぇ内心、しまった~って思ってたの」

「あっ、わかった~!汗いっぱいかいたからホテル行って汗流したって落ち?」

「「ないない」」

 美成は何時から落ちに厳しい先輩芸人の様になったのだろう…



「じゃあ、もう一つは何だっけ?ビリヤード?」

「えぇ~まだ言うのぉ?」

 そう言ってまたまたこちらの顔色を伺う由貴に向け、手首から先を縦に振り任せるよと合図した。


 意を決して由貴が切り出した。

「えっとね~わたしがビリヤードに興味が有るって言ったらコウスケがなんか凄いお店の会員になって誘ってくれたの」

「おお~」

「なんか凄くてVIPルームみたいになってて、台が1台の周りにソファーが2組有って滅茶苦茶広くて1台分のエリアが多分20畳分くらいは有るんじゃないかな?」

「裏の世界に近づいてない?大丈夫?」

「うん、大丈夫だった、で、わたしは未経験だったからコウスケに教えて貰ったんだけどそこからが面白くてククク…」

 え?何?この先が面白いってどういう事?


「その頃はまだ手も繋いでいなかった時期なんだけど、それこそ手取り足取り教えてくれたんだよね」

 そう言ってこちらの反応を見ている、何か嫌な予感。


「それで、どうなったの?」

 美成も何か感づいたのか前のめりだ。


「あまりにも密着して来るもんだから、彼の体に異変が生じて来たのがわたしにも分かったんだけど、わたしもドキドキしながらもこの後どうなるのかなぁって思ってたら、ちょっと休もうって言って一人でソファーに座っちゃうのよ」

「あぁ~それは大変な事になってたのね、まだ経験無い時でしょ?」

 と、俺を見るので「ああ、如何にも童貞でした!満足ですか!」と返した。


 二人は手を口にあてニヤニヤしているが由貴は話を続けた。


「でね、ソファーで勝手にクーリングしてるからわたし、台の方に行ってちょっと煽ってみたの」

「なんて?」

「コウスケに向かって甘える感じで、教えてくれないのぉ~?って、ククク…」

「あ…あれワザとか!?」

 この時初めて弄られていた事に気づいた。


「それで、頑張ってまた密着して教えてくれたのよねぇ~コ・ウ・ス・ケ!」

 うぐぅ、嵌められたのかぁ。

 美成は爆笑を通り越して声を殺して笑うのを耐えていた。


「その後、何かアクション有るのかと思って覚悟してたんだけど、そのままバイバイしてちょっと残念だったなぁ」


 まさかの展開に動揺してしまったがこの屈辱は晴らさずには居られない、そう思って椅子から立ち上がり彼女らが腰かけるベッドの後ろへ回り込んだところで二人まとめて抱え込むようにしてそれぞれの胸を鷲掴みにしてやった。


「「きゃ~~」」

 危機感のない半ば笑いが混じる悲鳴が上がった。


「その度胸があの時に有ったら良かったのにねぇ~コ・ウ・ス・ケ!」


不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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