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54 ハッピーエンドにしよう

よろしくお願いします。



 午後になると美成がやって来た。

 そして俺の耳に顔を寄せて来て一言。

「イチャイチャ出来た?」

「出来るかぁ~」

 流石に院内なので大っぴらにはそんな事は出来る筈も無い。

 それでも、美成には心の中で感謝した。


 昼食を終えて再び俺のベッド脇へ由貴も来ていて来客用の椅子に腰かけてひざ掛けをしている、これから暇を持て余した同級生3人での雑談タイムだ。



 夕方になり少し話のネタが尽きた頃、由貴が切り出した。


「あのね、わたしの病気の事、気になるでしょ?」

「まぁ、な」「うん…」


「これから話す事にしたから、聞いて欲しいの」

「わかった」「うん」


 そう言って由貴は一旦深呼吸してから俯き何から話そうか考えていた様だった。


「わたしね…あの…わたしもね、癌なの…乳癌」

 2人共言葉を失った、まさか?と言うのとやっぱりと言うのが半々で、どう反応して良いか分からなかった。


「でね、実はわたしも…ダメみたいなの…」

 そこまで言ってから大粒の涙を零し、脚に掛けていたひざ掛けをクシャっと握った。



「で、でもさ、最近じゃ乳癌って結構治るもんなんだろ?」

 気休めでしかなかった。

 乳癌はそんなに甘くない、発見が遅れれば気づいてから一ヶ月で他界する事も普通に有る、それは幼馴染の母親に起こった事であった。


「うぅん、コレ再発なの、一昨年の検診で乳癌だってわかって手術したの…」

 目に涙を溜めながら振り絞る様に説明を続ける由貴。

 俺の時と似ていると思ったが、黙って続きを聞く事にした。


「その時ね、左の胸、無くなっちゃったの… それが有ったからコウスケが会いたがっているのを知っても避ける様にしちゃったの…ごめん、なさい…」

「そか、分かった、でも謝るのは俺かもな、事情を知らないとは言えお前を追い詰めてたかもしれない、ごめん」

「由貴…ごめんね、あたし何も気づいてあげられなくて…もう、どうして良いか…」

 正直言って一泊の入院と言っていたのが長引いている事だけでも今の事態を予想させられていた。

 俺は居なくなる側だからまだ良い、しかし美成は恋人と親友を亡くす事になると考えるだけで心が締め付けられている様だった。


「あと、どれくらいなんだ?」

「半年は厳しいだろうって…」

 俺よりは長く生きてくれそうで内心ほっとする気持ちも有った。

 ただそれはより辛い思いを彼女達にさせる事なのかもしれない、人を見送る事がどれだけ辛いかと言う事は経験した者にしか分からないだろうから。


 しばらくの沈黙の後、俺は切り出した。

「よし、これは神様がくれた最後のチャンスなんだ、俺はそう思う事にするよ」

「チャンスって?」

 美成がキョトンとする。


「残りの人生を謳歌しようって事だよ」

 2人共俺の言葉を待って居る様だった。


「そもそも同窓会行って美成に合わなければ俺は間違いなく一人でここに居たはずだ、それなのに人生の終わりに俺の大好きな女性が二人も目の前に居る、これってハッピーエンドだろ?」

「あなたからすればそうかも知れないけど、あたしは…、あたしは…」

 美成には辛い事しか無いだろう、だから本当に感謝しかない、残りの人生は彼女にあげたのだから。


「わたしも、ハッピーエンドって思ってもいいのかなぁ?」

 由貴が涙を拭いてからベッドに身を乗り出して続けて言った。

「美成とはよく電話するし今でも仲良いけど、コウスケとも話したかったし会いたかった、でもこっちから断っちゃったし合わせる顔が無いと思ってた」

「だろ?みんな話したいし、会いたいし、一緒に居たいんだ! これがハッピーじゃない訳無いだろ?期間限定かも知れないけど俺はそれを全うして最後には自分の人生最高だぁって言ってやる」

「うん、わたしもそうする」

 由貴が同調するのを見て美成も笑顔になった。

「仕方ないなぁ、それじゃあたしがちゃんと見届けるからね、二人ともしっかり生き切ってね」

「生き切ってやるさ」「美成、ありがとう」


 どうやらハッピーエンドで纏まりそうだ。


「ひとつ聞いていいかな?俺が癌になった時に真っ先に思ったのが由貴に会いたいって事だったんだけど、由貴の場合は違ったのか?」

「そりゃあ思ったけど、病気の事は知られたくなかったし…」

「でも会う位なら病気の事はバレないじゃん」

「え~、だって、もし二人で会ったらコウスケ、絶対触って来るもん」

「何を?」

「オッパイ」

「「え?」」

 俺と美成は絶句した。


「コウスケいつも左ばかり触るし、そしたら胸無くなってるの気づかれちゃうじゃん」

「んん~、否定出来ない俺が居る」

「あなたがスケベなのはあたし達良く知ってるから、ハハハ」

 美成がようやく笑い声をあげ、重い空気は無くなっていた。


「ちょっとだけ良いか?」

 と俺は言って由貴の返事を待たずに由貴の左胸にすこし湾曲した形で手を当てた。

「ちょっ…」

 美成は慌てたが、由貴は避けずにそのまま受け入れ目を瞑った。


「俺にはしっかり感触が有るよ」

「うん、わたしも何か触れられた気がする、なんかあったかい、ただね、もうちょっと大きいのよ」

「あ、そうか10年前のサイズ感か」

「もう、二人だけの世界に入るなぁ~」


 どうやらこれで少しは前向きな残りの人生を送れそうだ。


不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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