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53 靄

よろしくお願いします。(何とか間に合ったかw)



 病院内での奇跡的な遭遇劇から一週間。

 由貴は結局1泊で退院する事なく、そのまま入院を続けていた。

 その事については由貴からはちょっと待ってと言われている、やはり何か重い病気なのだろうか。

 気になるのは俺だけでは無い、美成もその辺りを気にはするが追及する訳にもいかず、ただ由貴の気持ちの整理を待つしか無かった。


 この一週間は至って楽しい入院生活と言えた日々が続いていた。

 俺は特に激しい痛みは無く、と言っても軽い痛みは日に2度ほど有るが、その都度痛み止めを飲むだけで和らぐのでこれと言って辛い事は無かった。

 そして隣の病室は女性患者専用なので俺は入る事すら出来ないが、その逆は何の問題も無いので割と朝から由貴はこちらの部屋に来て過ごす事が多かった。



「今日は美成は午後から来るってさ」

「いつも朝から来てるのに珍しいね」

 そう、これは俺の為に美成が気を利かせてくれたんだ。


「なぁ、由貴、一つ聞いていいかな?」

「なぁに?」

「電車の中で遭遇した時って、お前は気が付いてたのか?」

「あ~、うん、分かってた」

 やっぱり気づいてたんだな、そうじゃなきゃあの時の行動はおかしい所だらけだったから。


「それってどの辺りから?」

「なんか後ろの人がモゾモゾするから、次の駅の乗り降りの流れでちょっと離れた時にガラスに思い切り反射してて分かったよ」

「あぁ、やっぱり痴漢と思われてたのかぁ」

「チョットだけね」

 もう、満員電車には乗らない様にしよう。


「俺だって気づいたからずっと座らなかったのか?」

「まぁ、なんかタイミング外しちゃったみたいで、でも別に大した事ないし」

「出来れば座って欲しくてさ、何度か寝たふりとかしてたんだけど、ちょっと顔を上げると結局同じ場所に居て、頼むから座るなり移動するなりしてくれ~って思ってた」

「え~なんでぇ?それならそっちが移動すれば良いじゃん」

「まぁそうなんだけど、俺的にはそこから離れたくなかったんだよ、多分」

「なぁんだ、同じか」

「そうなのか?」

「まぁね、久しぶりに顔見れたしちょっと嬉しかったかな」

 今までウジウジ考え込んでたのがアホらしく思えて来た。

 結局お互い気になりその場を離れられず、かと言って面と向かって話す勇気も無いと言う、まだまだ青かったんだな。


「駅で降りた時に、お前、俺を追い抜いて先に階段降りただろ?あの時チラッとこっち見た?」

「見た見た、だって完全スルーするんだもん、最後にちょっとアピールしてみようかなって、エヘヘ」

 普通に見ればそう理解出来るんだけどな、なんか負のフィルター掛かって考えてしまっていたらしい。

 その時に声掛けてれば、復縁も有ったのかもしれないな、つくづくチャンスを活かせない男なんだな俺って。



 そして気になるもう一つの遭遇、2度のすれ違いをした日の出来事だ。

「昨年の夏の遭遇は当然気づいてたんだよな?」

「うん、結構遠くからでも気が付いたのに、そっちは気づかないし気づいてもスルーするし」

「いや、アレ睨んでたよね、って言うか遠くから見えたのか?かなりの近眼なのに」

 彼女は今も眼鏡はしていないしコンタクトをはめたりする様子も無いのだが…


「睨んでないよぉ、それにわたし、今視力0.8は有るからそこそこは見えるのよ」

「コンタクト?って今してないよね?」

「うん、ちょっと前にレーシックで見える様になったの」

 以前の彼女の視力は今の一桁下くらいだったから0.8でもさぞかし良く見えてる気がするんだろうな。


「俺てっきりストーカー扱いされたかと思って、帰りは別の道行ったらまた居るし」

「そう、あれはわたしもビックリしたわよ、なんで?」

「だって睨んでたし同じ道行ったらまた睨まれそうだし嫌がるだろうと思って変えたんだよ」

「ぷくくっ、同じ事考えてたのね、わたしもスルーされたから嫌なのかなぁ?って思って道変えたんだよ」

 お互いそんな風に相手に気を使い過ぎるくらい気を使っていたから、付き合った2年ちょっとで一回も喧嘩した事が無かったのかもしれない。


「同じ事って、俺がお前を嫌うはず無いだろ?」

「そうかも知れないけど、もう10年だよ?何かが変わっててもおかしくないし…」

「そうだなぁ、あれから10年経ったんだな…」

「うん、あっと言う間だったね」



 ココでどうしても聞きたかった事を思い切って聞く事にした。


「もう一つだけ聞かせてくれないか?」

「なに?」

「別れようって決めた理由って結局何だったんだ?」

「あぁ、やっぱりそこよねぇ」

 そう、その理由が聞きたくて、そしてそれが分からない内は死んでも死に切れない。


「嫌いなら嫌いだって言われた方がスッキリするし諦めが付くんだけど、そうじゃ無かったからこんな未練たらしい状態になっちまって…」

「ん~ん、悪いのはわたしなの…」

 由貴は一旦言葉を切って話し始めた。


「あの頃、二人でいた所を短大の友達に見られたのね、そして友達から言われたのが私とじゃ釣り合わないって言うの」

「あぁ、そう言う事言われたのかぁ、どう見たって俺イケメンじゃないからな」

「わたしはそんな風に思ってなかったけど…、みんなしてもっとイケメンでお金持ちとか探した方が良いって、わたしも何度も同じ様に言われる内に何となくそっちの方が将来的に良いのかもって思っちゃって…」

 仮にそのまま付き合って結婚してたとしたら30過ぎて未亡人になる訳だから結果的には正解だった訳だ。


「確かに女の幸せはお金とステータスが重要なんだろうな」

「わたしはそんな事思ってなかったのよ?本当に!でも何度も言われててわたしも言い返せなくて…」

「そうだよな、俺もまさかお前が付き合ってくれるとは思ってなかったんだから、俺にはお前を繋ぎ留めておく色んな物が足りなかったんだと思う」

「ん~ん、コウスケの所為じゃないの、わたしが悪いの、だって別れてからもずっと好きだったんだもの…」

 ここまで聞いて俺の中のモヤモヤは吹っ切れていた。


「あのまま付き合って居たらどうなってたのかな?」

 素朴な疑問を由貴は投げかけた。

「そうだなぁ、今頃子供の一人も居たのかなぁ」

「ゴメンね、もうそれも叶わないし…」

 あぁ、俺の体の事か、流石に今からじゃ無理な話だ。


「それじゃあ、お前ってその後付き合った男はイケメンで金持ちだったんだろうな?」

「え~、付き合ってないよぉ、誰も、言い寄って来た人は居たけど、何か下心を隠してるつもりでバレバレな感じが嫌で全部断っちゃった」

「じゃぁ、付き合った人数って?」

「1人よ」

 何故かホッとしたが、いや、待てよアイツがカウントされてない?同級生のMの事だ。


「え?2人じゃなくて?」

「え?1人よ、あなただけ、え?まさか…、何か知ってるの?」

「ああ、Mの事は本人から聞いたんだけど」

「やっぱりあれかぁ、あれはね高校生だったし付き合うって良く分からなかったからお友達からって事で、付き合ったわけじゃ無いわよ」

「そうなのか?それはそれでアイツ何か可愛そうだな」

「でも部屋に女連れ込んでるんだからもう無理って言って友達も辞めちゃった、ハハ」



 そんな感じで2人の間に有ったモヤモヤを解消する時間は過ぎて行った。


不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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