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51 奇跡

今年もよろしくお願いします。



 入院から数日が経ち、既に年が明け病院は2日を過ぎると正月気分も消え去って通常運転になっていた。

 1月4日の今日は午前中から検査が続く予定なので美成は午後から来る事になっている。

 基本的に午前中は外来が中心だが、その合間を縫って入院患者の検査も行われる。


 自分はまだ歩行出来るので、歩いて指定されたCT室へ向かう事にした。

 持ち物は何もない、手首に付けた入院患者の識別用バーコードの付いたブレスレットの様な物が有るので行けばピッとするだけで良い、便利な世の中になったものだ。


 【CT MRI】と書かれた部屋の向かいに有るベンチで名前を呼ばれるまでウトウトしながら待つ。

 しばらくして名前を呼ばれた。

「ヤマシロさ~ん、ヤマシロ コウスケさ~ん」

 俺は立ち上がりCT室へ歩き出した、すると検査が終わった患者が扉を開け、後ろ向きに出ながら中に向けお辞儀していた。

 ショートカットの女性だったがお辞儀をしてからすっと直立に戻った。

 この瞬間に今までの人生で最大級の鳥肌が立った。


(こ、この首筋は、ま、まさか…いや、間違いない…元カノだ!)

 まさにデジャブ。

 今までに何度も有った接近遭遇がここに来て再び起こったのだ。


 その患者はこちらをチラッと見て二人の目が合った、合った筈なのだが特に何の反応も無くスッと廊下を歩き始めた。

 やはり無反応、俺の事が分からない可能性も有るが美成から聞いた話だと以前の遭遇の時には分かっていたと話していたし、だとしたら気づいたはずだ。

 それでもやはり反応しないのは余程俺に会いたくないのか…


 一瞬、肩に手を伸ばしかけたがその手が届く前に動きを止めた。

 嫌がる彼女に追い打ちを掛けるべきでは無いだろう、このまま行かせた方がお互いの為。

 そんな想いも頭の片隅でグルグルしてる。


 結局あの時と同じか…、伸ばした手をCT室の扉に向け入ろうとした…が、これが最後かもしれない…

 過去の遭遇劇はおよそ1~2年間隔、次の遭遇まで俺が生きているなんて奇跡は無いだろう。


 そして決めた。

 扉を開ける手を止め彼女に向かって言った。

「由貴、30分後にロビーに行くから」

 それだけ絞り出したが彼女はそのまま歩いて行ってしまった。

 振り向く事さえ無い彼女をしばらく見届け、俺はやれる事はやったと自分を褒めながらCT室へ入った。



 検査が終了したのは20分後だった。

 彼女はパジャマを着ていたのでもしかしたら入院中かも知れない、手首にバーコードのブレスレットをしていたら間違いない。

 しかしCT検査って事は何か重病かと心配になったが、今はそれどころじゃなかった。

 ロビーへ行くと言ったが彼女が待って居てくれる保証はないのだ。


 伏し目がちに廊下を歩きロビーへ向かう。

 ロビーに着き、恐る恐る顔を上げ数列に並んだ席の左端から少しづつ右へと彼女を探していくが、やはり見当たらない。


「やっぱり来ないか…」

 ボソッと呟いてから一番手前の席に座って頭を抱え込んだ。

 そもそも元カノでは無い可能性も有るし、本当に避けられてる可能性もかなり有る。

 来ない理由なんてそれだけでも十分だった。


 頭を抱えたまま20分程待ってみたがやはり彼女の気配は無かった。



 諦めた俺は自分の病室へ戻ると同室の患者家族が見舞いに来た様で何時もより数段賑やかになっていたので、部屋には入らず少し先の階段へ向かった。

 普段患者も職員もエレベーターを使うので階段を使う人は滅多に居ない、なので1人落ち込むならココだろうと階段を1段降りてから腰を下ろした。


 しかし、気になるのは元カノが何の病気で検査に来たのかだ。

 まさか妊娠とか?いややっぱり内臓の病気か?いや単なる定期健診かも知れない。

 そんなこんなを考えても俺にはどうしようもない、考えても仕方ないのだ、それでもこの時は元カノの事を考えずには居られなかった。


 暫くして階段に向かってくる足音がしたので少し右側にお尻を浮かせて移動した。


「居た!」

 俺の左側で1段降りて立つ足が視界の端に入った。

 再びデジャブだ。


「由貴…」

「30分後って言われたけど、わたしも次の検査が有って…」

 10年ぶりに聞く由貴の声が、忘れかけていた記憶の中の声をサルベージしていった。


「そ、そうなんだ、俺はてっきり…」

「てっきり?」

「いや、帰ったんだろうと思って…」

「ホント言うと会わずに帰ろうかとも思ったけど…」

 由貴は言葉に詰まったまま何かを言おうとしてる様だった。

 やはりこうしている事が辛いのか…


「やっぱり、会いたくは無かった?」

「う…ん、って言うか、会わせる顔がない…って言うか…」

 会わせる顔が無いのはこっちの方だ、自分が情けなくて目を逸らしてしまった。


「で、でもココに居るって事は話をしても良いんだろ?」

「まぁ、今まで色々有ったからねぇ、少しはお互い何かしらの解消が出来るのかもって…」

 由貴は体を左右にねじるように揺らしながら10年ぶりの遭遇を受け入れてくれた。


「そか、取り合えず探してくれてありがとう」

「ホント探したよぅ、ロビー行っても居なんだから」

 昔のままの喋り方だ、声を張らずにそれでも聞き取れない程の小声でも無い、なんて言おうか、そう、呼吸に声を乗せてるだけの力の無い喋り方、変わってないな。


「ゴメンゴメン、俺諦め癖着いちゃったみたいでさ」

「わたしのせい?」

「いや、俺の人生の縮図だよ、ショボい人生だったからなぁ」

 しまった!何か気づいてしまうかもしれない。

「でも良かった、見つかって」

「俺も良かった、お前に会えて」


 その後、俺は検査入院してると嘘を言ったが、彼女も一泊の検査入院と言って次の検査が有るからと慌てて行ってしまった。

 ただ午後3時に再びココで会う事を約束してくれたのが死ぬ程嬉しかった。

 そして自分の病室へ戻る際、手前の病室入り口に「夏川 由貴」の名が書かれているのを見つけてしまった。

 この階の病棟は2週間以上の長期入院患者専用なので検査入院ではココに入る筈が無かった。

「まさか…」


 午後の診察を終え、俺は担当医に聞いてみた。

「この病棟に検査入院される人って入って来ますか?」

「いいえ、ここは長期入院患者専用なのでそれは無いですね」

 やはり由貴は検査入院では無い様だ。


「単刀直入に聞きます、隣に新たに入院される人が居るみたいですが、その人の病気って何ですか?」

「身内ではない限り入院患者の素性などは個人情報に当たりますのでお答えできません、しかも隣は女性専用部屋ですから猶更です」

「すいません…」

 そりゃそうだ。


 程無くして美成がやって来た。

 ただ、元カノに遭遇した話をするべきか、黙って隠して墓場まで持って行くべきか、大いに悩んだ。


不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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