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50 緊急入院

年内はこれが最後になります。

年明けは1/1の予定ですのでよろしくお願いします。



 12月27日、所謂、年の瀬。


 この年末になって入院生活になるとはな…。

 長期入院者なら年末年始くらいは自宅で過ごす為、俺とは逆に一時帰宅するのが一般的だ。

 しかし、俺はあの痛みを実感してしまったが故に覚悟と言うか諦めが有った。


「もう家には帰れないのかなぁ…」

 ベッドの上で独り言を言っても反応は無い。

 これでも大部屋、5人部屋だが今は2人しかおらず面識も無いので話をする事も無い。


 今日で入院二日目。


 朝から美成が世話を焼いてくれている。

 そこへ担当看護士が来て、朝の体調チェックをしていく。

「おはようございます、早いですねぇ」

「お世話になります」

 ありきたりな挨拶を終えると看護師は次の部屋へ向かった。


「お前、来るの早すぎないか?面会時間前だろ」

「だって家に居ても気になっちゃって、それに注意されなかったし」

 まぁ、良いか、俺も暇だし話し相手が居る方が気がまぎれるか。


 すると廊下をガチャガチャと音を立てて朝食の配膳台が到着する。

 俺の名前を呼び、確認するとベッドのテーブルを出して朝食を置いて行く。


「なんか美味しそうね?」

「あ、俺も思った、病院食ってもっとマズそうなイメージだったけど見た目は美味そうだな」

「早く食べてみてよ」

「ああ」


 メニューはごはんに味噌汁、鯖の切り身、揚げ豆腐の煮物、ひじき、レタスのサラダ、それとヨーグルトだ。

「魚は塩気は少ないけど結構美味いな、揚げ豆腐も出汁が浸みてて美味い」

「え~おいしそ~、あたしも食べたいぃ」


 病院食は味が薄くて食べられたもんじゃないと死んだ親父は言っていたけれど、今やそんな事は無く十分堪能出来る物だった。


 食後は特にする事も無く俺は寝る事にした。

 その間、美成は入院手続きや入院生活についての話を相談室でしていた様だ。


 午後になると担当医の回診が有った。

 痛みは今の所なく他の患者からすれば元気な方だが、担当医はこれからが大変だと釘を刺して部屋を出て行った。

 確かに、あの痛みをこれから何度も味わうと思うと恐怖を感じた。

 強力な痛み止めも有るそうなのでそれに期待しよう。


 診察の後は美成と雑談タイムだ。

 恐らくこれからはこんな感じのタイムスケジュールで日々を過ごすのだろう。


「昨日は良く眠れた?」

「あぁ、正直寝付けなかったなぁ」

「昼間寝すぎた?」

「いや、そういうのじゃなく…」

 ここで自分が極力入院したくなかった理由を自ら悟った。


「実は昨夜さ」

「うん」

「救急車の音がして目が覚めたんだ」

「うん」

 救急指定病院なので急病や事故などの救急搬送は頻繁にあるのだ。


「あぁ、急患が来たんだな~って思っただけで、またしばらくして寝たんだ」

「うん」

「で、どれくらい経ったかは分からないけど目が覚めたんだ」

「なんで?」

「かなり遠くから微かに聞こえる感じで、「お母さ~ん」って言う絶叫が聞えて来たんだ」

「え?絶叫?」

「恐らくさっきの急患がICUとか何処かの処置室に運ばれた後、亡くなったんだと思う」

 救急病院なので死を感じる瞬間は他にも有るが、この絶叫は出来れば聞きたく無い物だった。


「入院するとさ、【死】って物がより近く感じてしまうのは両親の時に既に知ってたから、そのせいで俺も入院を先延ばしにしてたんだなぁって」

「そんな、まだ大丈夫だって」

「でも、昨夜はそれから眠れなくなっちゃってさ、へへ…」

「そんな事、言わないでよぉ…」

 自分でも死への恐怖心が確かに有るんだと確信してしまったのだ。


 美成は俺の腕を掴んで涙ながらに言った。

「まだ俺は大丈夫だって、痛みなんかクソ食らえだって言ってよぉ、今まであっけらかんと生活してたんだから、そのままのあなたで居て欲しいの…」

「そうだな」

「あなたが決めたんだからね手術しないって、だったら意地でも生きてやるって…言ってよぉ…」

「そか、悪かったな、俺もちょっと急な入院でへこんでたみたいだな」

「そうだよぉ、今までだって本当は何度か痛い事有ったんでしょ?それでも痛い素振り見せないで居たのってあたしに心配掛けない様にしてたんじゃないの?」

「まぁ、多少は、それも有る…」

 美成は顔を上げず顔を伏せたまま涙声で、自分の気持ちを吐露する事に躊躇しなかった。

 思い返せば確かに痛みは有った、ただそれが癌の痛みだとは受け入れがたかった為に自分自身を誤魔化していたのかもしれない。


「じゃ約束して!今後は痛みを我慢しないで、そして泣き言は言わないで!だってそれがあなたの生き方なんでしょ?」

「ああ、約束する」

「そしてあたしはあなたの決めた人生に乗るから、あなたもあたしの人生の後押しをして欲しいの…」

「わかった、俺が出来る事なら惜しまず協力するよ」

「うん、それなら良い、あたしはそれで頑張れるから、貴方も生き切ってみせて!」

 泣いた顔のまま笑ってそう言った。


「よし!今から気分を入れ替えて残りの人生精一杯生きてやろう!」

「うん…これ、からも、一緒に居るん、だからね」

「ああ、一緒だ」

 美成は最後には俺にしがみ付いて声を殺して泣いていた。


 そうだ、俺の残りの人生を美成にあげると決めたんだ、美成が泣く様な事を俺は言ってはダメなんだ。

 そう言い聞かせて自分を鼓舞した、が、死の恐怖は直面した者にしか分からないのも事実、内心ではより恐怖感が大きくなっていた。


不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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