表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/71

44 拉致堪忍

よろしくお願いします。



 今日もいつもと同じ検査を受け、担当医からの診断を待つ。


 暫くして名前が呼ばれ診察室へ入ると担当医は一言こう言った。

「そろそろ痛みが強くなるはずなんだけど痛みはどう?」

「倦怠感は凄いけど、激痛と言うほどの痛みはまだ無いですね」

「そうですか、しかし癌は確実に大きくなってますしリンパ節への転移も増えたので一応痛みが出る事を覚悟していて下さい」

「はい」


 サクッと終わったが、言われた事は結構大変な事なのだろうと思いつつ、軽い痛みしか無い現状で安心しきっていた。



病院を出ると門の所に美成が居た。


「よぉ、どうした?こんなところで」

「お迎えよ~」

 親指で駐車場を指さし車で来た事を示した。


 俺は素直に助手席に乗り込み続いて美成が運転席に座り走り出す。


「診察で何か言われた?」

「あぁ、そろそろ痛みが出る筈だってさ」

 彼女にはもう隠す必要も無いのでそのまま伝えた。


「そかぁ、でもまだ入院の勧告みたいのは無いかんじ?」

「それは無かったけど何時でも入院出来る様にはしてくれてるって前言ってた」

「そうなんだぁ…」

 俺は出来る限り入院は避けたいが流石に痛みが激しくなればそうも言ってられないだろう。


「ところでどこに向かってるんだ?家こっちじゃないぞ?」

「今日はあなたを拉致しました、ハハハ~」

 何事だ?俺は楽園に連れて行かれるのか?


 しばらくすると住宅街の隅の空き地に車を止めた。

「さぁ行くわよ!シャンとして!」

 何をするつもりだろうか?


 一軒の家の前で一度立ち止まり一言だけ言った。

「ココ」

 そこには【井口】と書かれた表札が有った。


「え?何?忘れ物取りに来たとか?」

「まぁまぁ」

 と言って手を引かれて家へと入って行く。


「ただいま~」

 え?誰かいるの?

 すると奥からパタパタとスリッパの音をさせて母親と思わしき女性が出て来た。

「あ~来た来た、いらっしゃ~い」

 この瞬間に悟った、これは御両親への挨拶と言う人生最大のイベント発生だ、勘弁してよぉ。


「は、初めまして、山城康介と申します」

「ハイハイ伺ってますよ、さぁさ、こちらへ」

 美成をチラ見すると首を軽く傾げ小さなテヘペロをしていた。

 嵌められたな。


 居間へ案内されソファーに腰かけると直ぐに美成の母親は、お茶菓子のセットをテーブルに置いて行った。

「ちょっと待ってね」

 そう言って奥の方に向かい声を掛けていた。

「おとうさ~ん、来たわよ」

 恐らく怖い顔した父親が登場する、いわばボスモンスターの登場シーンだ。


 俺は下を向きつつ、隣に座った美成の顔を見ると、ニコッと笑い背中を軽くたたいた。

「怖くないから大丈夫だよ」

 いや、緊張感で何か別の症状を発症しそうだぞ。


 御両親が揃って向かい座ると、美成が改まって俺の代わりに自己紹介をする。

「この人が今お付き合いしてる山城康介さんです」

「改めて山城康介と申します」

 と一度立ち上がりお辞儀をすると、慌てて母親が両手で座ってのジェスチャーをする。


「そんなに改まらなくて良いわよ、大体話は聞いてるから」

 と、若干緊張をほぐして貰えた。

 つまりは、俺の癌の事も知っていると言う事だろう。


 この後の話は現在の同棲している事や、病気の事、その後の後始末の話なども隠さずに話して納得して頂いた。


 美成がトイレに行くと言って席を立つと母親が空いた隣の席に移り小声で言った。

「籍を入れるつもりは無いんでしょ?」

「はい、その事は彼女にも話しましたが、彼女は籍を入れたい様でした」

「それだけは絶対やめて欲しいの、分かるでしょ?」

「十分分かります、僕も同意見ですから」

 そう言った所で母親は安堵し元の席へ戻った。

 因みにここまでで父親は一言もしゃべってはいない、腕を組んで話を聞くのみだ。

 席に戻った美成は父親に向かって言った。

「どう?それ程カッコよくは無いけど良い感じでしょ?」

 ちょっと美成さん?密かにディスって無いですか?


「うむ、まぁ、悪くは無いな」

 父親は一言だけ呟くように言った、役者並みの結構な低音の良い声だった。

 事後報告ではあったが、一通りの説明も出来てお互い安心出来たと思う。


 帰り支度をしてると美成が車を家の前に横づけすると行って先に出て行った。

 その時に父親がこそっと俺に言った。

「今だけだからな」

 これはこれで許可と受け取る事にした。


「じゃ~行くね、バイバ~イ」

「また二人で来なさいよ、じゃあね」

 そう言って女同士は手を振り合い、男同氏は軽い会釈で挨拶して車を出した。

大通りに出ると美成が大きく息を吐いた。

「はぁ~~~」

 俺はまだどこか緊張して居る。


「どうだったウチの親」

「まぁ良い感じの家族だなって」

「お父さんも気に入ってくれたみたいだし、フフフ」

「そうなのか?」

「うん、一応男親の威厳を見せないとなって言ってたけどカッコ付けたいだけだから」

「そっか」

 男親なら殴りかかって来るとかドラマ的な展開も有るかと覚悟はしたが無用な心配だったみたいだ。




不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ