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43 恐らく最後の誕生日

よろしくお願いします。



 ツーリングの翌日。


 行きつけの美容院へバイクで向かい、その後を彼女が車で付いてくる。

 店の扉を開けると既に一人客が居た。

 俺は軽く会釈をし、バイクのハンドルを握るジェスチャーをして外を親指で指し口パクで「待ってます」と伝え外に出る。


 そしてバイクを店の裏側にあるガレージに入れ、道の少し広くなったスペースに車を止めハザードを出して待機している彼女の所へ行き助手席へ乗り込み、このままマスターの出て来るのを待つ事にする。


 30分程すると先程の客が出て来て、マスターも一緒に出て来たので俺も車を降りマスターにお辞儀する。


「めちゃくちゃ乗りやすくて楽しいツーリングが出来ました」

 そう言ってお土産に買った日本酒を手渡した。

「おぉ~サンキュー、日本酒か?この酒造だとあそこか、朝霧高原』

「良くご存じで」

 しまった、簡単に決め過ぎたか。


「既に3回は行ってるからな、あそこの酒は富士の湧水使ってるから格別なんだ」

「日本酒に水は重要ですからね、今夜にでも飲んで下さいよ」

「あぁ、そうしよう。ところであちらさんが彼女かい?」

「そうなんです」

 と言って彼女を手招きする。

 彼女は車のハザードを付けたまま車を降りこちらにやって来た。


「この度は大事にしているバイクをお貸し頂き有難うございました」

 と丁寧にお辞儀した。

「そんなにかしこまらなくて良いんだぜ、なぁ」

「彼女は元銀座のOLなんで癖ですかねぇ、ハハハ。」

「気を抜くと男勝りな喋り方になってしまうので…」

 とちょっとはにかんで見せた。


 その後バイクを確認してもらいこの場を去った。



 車に乗り込み彼女が言った。

「このあとどうする?」

「どこかでメシ食うか」

「そうね、どこが良い?」

「じゃあ景色の良い所あるから、そこへ行こう」

「案内して」

 俺は西へ向かう様に指示した。



 市街地を離れ海沿いの道だが山道を行くとその店は有った。

 道路沿いに建つオレンジ色のカフェレストランだ。


 店の反対側に有る駐車場へ車を止めて道路を渡り、店に入る前にそこから見える海を2人で眺めた。


「良い所ね」

「だろ? 昔から来たかったんだ」

「初めてなの?」

「そうだな、目の前は良く通るのにな」


 暫くして店に入ると店内にはまだ客は居なかった。

 平日で、まだ昼前だったからだろう。


 海が見える窓側の席に陣取りメニューを開く。

 俺は店員に、と言っても恐らくマスターと思わしき人に軽く手を挙げる。

 2人はパスタとサラダのセットとコーヒーをそれぞれ頼み再び海を眺めた。

 窓の外はテラス席になっていたが流石に12月ともなると外に出る気にならないな。


 外を眺めながら雑談しているとマスターが料理をテーブルに置いて行った。

 まぁパスタとしては特に変わった所は無く、気になった俺はもう一度メニューを見た、するとココの推しはビーフシチューだった事に今更気づいた。

 これはもう一度来るしかないな、リベンジだ。

 1人でぶつぶつ言いながらパスタを食べていた俺を見て美成が首を傾げていた。


 料理を食べ終えてコーヒーを飲みながら再び雑談をする。

 そんな中で美成が言った。

「ねぇ、もう一度由貴に話してみない?」

「もういいって」

「病気の事話したらさ、気持ちも変わるかもよ」

「むしろ病気の事は知られたくない…」

「でもさぁ…」

「良いんだ、俺が居なくなったその後で色々伝えてくれればそれで良い」

「…」

「さぁて、行こうか」


 会計を済ませ、マスターに「今度はビーフシチュー食べに来ます」と告げると、マスターは軽く笑顔を見せてお辞儀した。

 こちらも会釈して店を出た。


 店の外では美成が写真を撮る準備をして待っていた。

 駐車場に置いた車のボンネットに俺のネオ一眼を置いてセルフタイマーをセットし、車の通らないタイミングを見計らってシャッターを押す。


 慎重ながらも素早く道路を渡り俺の隣に来るとクルリと回りカメラに向けピースした。

「もうちょっと流行りのポーズとかないの?」

「良いの!どうせ自分しか見ないんだから」

 このあと3回、同じ様にアングルを変えつつ撮影してやっと納得した様だ。



 昼食の後は絶景を探しつつ山道をドライブし、海バック、山バック、車バックで写真を撮りまくって夕方帰宅した。


 美成は俺を下ろすとそのまま買い物に行くと言って再び車で出かけた。

 俺は少し疲れたのも有って直ぐに部屋に入りベッドで横になった。


 微かな物音で目を覚ますと彼女がキッチンで何やら準備していた。

「おかえり」

「あっ起きた? 大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「そう、それじゃ」

 といってエプロンのポケットからクラッカーを出した。


「31歳おめでとー」

「あ、ありがとう…」

「暗いなぁ」

「いやぁ、もう誕生日とか良いって」

「お祝いしたいの!」

 と言いながら腕を引かれてテーブルに着く


「わかったって」

 続いて奥からケーキを持ってきた、しかもホールでだ。

「オイオイ、これ食い切れるか?」

「大丈夫。残ったらあたしが食べるから」

「女子すげぇ」


 もう一つ出して来たのが酒だ。

「誕生日だから」と言って銘柄を隠しながら少しづつ露わにしていく。

「シャンパン?いや、ワイン?」

「ノンノン、うちで酒と言えばコレしか無いでしょ」

 と720mlの日本酒を持っていた。


「おー、それニュースに出たりする有名なヤツじゃん」

「そうそう、こっそりネットで注文してたの」

「とは言え俺は天邪鬼だから有名なのはあまり好きじゃ無いんだけどなぁ」

「今見た瞬間の笑顔はなんだったの?」

「え?俺そんなに喜んでた?」

「めっちゃ笑顔」

 見られたか…


「そっか、俺の深層心理はダダ洩れだったか」

「ハハッ、呑も呑も」

 日本酒とケーキ、なんか合ってない様な気もするが・・・



 ケーキは4等分し2切れづつ食べ、腹をさすりながらソファーに横たわった。

「牛になるわよ」

「あ~、それ生まれ変わりしちゃうかな?」

「牛だったら付き合わないわよ」

「まぁ、そうなるわな」


 美成は片づけをしながら適当に返事をしていた。

 片づけ終わった美成は2人分のコーヒーを淹れ、ソファーに寝転がる俺に向けて顎でスペースを空ける様にゼスチャーした。

 起き上がりコーヒーを受け取ると美成もソファーに座った。


「プレゼント欲しかった?」

「いや、今こうしてるだけで満足だよ、幸せの一杯」

「悩んだんだけど思いつかなくて…」

「有るとすれば最後を看取って欲しいかな」

「本当に身内はもう誰も居ないの?」

「居ないねぇ」


 親戚との付き合いも無かった為、遠縁を探る事も無く寧ろその方が良かった。


「ねぇ、籍入れて良い?」

「なんで急に?」

「今思いついただけなんだけどね」

「じゃあ、別に入れなくて良いんじゃない」

 嫌なわけじゃ無いんだが必要とも思わないだけなんだ。


「いや、でも、例えば死に際にね、面会謝絶とかなっちゃったら身内以外は入れないって聞いたけど」

「俺の場合、癌だから面会謝絶にする必要も無いだろうから大丈夫だよ」

「でもさぁ」

「俺の両親の場合もそんな事無かったよ」

「そう…」

「一応担当医には言っておくよ」

「なんて?」

「来生の妻ですって」

「んもう」


 俺にとってはどちらでも良い事だったが彼女からすれば大問題なのだろう。

 しかし、籍を入れてしまえばいずれ悪い影響があるだろう。

 そこを考えるとあまり気乗りがしないのが本音だった。




不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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