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39 思い出の場所を巡る③

よろしくお願いします。



「他にはどんな冒険したの?」

「冒険?冒険かぁ」

 冒険と言われるとちょっと恥ずかしいな。


「そういうのは無い?」

「あぁそう言えば昔、鉄腕プッシュって番組あったでしょ?あれで良く多摩川をボートで上ったり下ったりしてるの知ってる?」

「うん、見た見た」

「あんな感じのなら有ったな」

「この川を上ったの?」

「下ったの、体一つで!」

 そう人生初の川下りだ。


「浮き輪とかつけて?」

「無い無いそんなの、学校指定の海パンにTシャツ着てサンダル履いただけ」

「それでどうするの?」

「先ず5km位上流まで歩いて行って、その後は自然に任せて川を流れ落ちるだけ」

「あっぶなぁい、大丈夫なの?」

 2度目の「あっぶなぁい」だ、男女の会話の中で女子は良く言うのだが逆に男子はそれを言わせたい面も有ったりする。


「危ないと言えば途中、アユ釣りのおっさんの群れが居るからそこは歩いて下流に向かうのと、急流では浅くなるからケツが石に当たって痛いくらいかな」

 隠れたテトラポットに当たる事も有るのでその時は結構悶絶する。


「溺れたりはしないの?」

「この辺りは全体的に流れが速いから深い場所が有っても精々1.5m~2m位なんで全然大丈夫」

「え~だって2mじゃ息吸えないじゃん」

「息吸うだけなら手で水を掻いて水底まで沈んでからジャンプすれば水面に顔出るでしょ?そこで息吸えば良いじゃん、その後はピョンピョン連続して流れて行けばいずれ水深も浅くなるよ」

「そんな特殊な技一般人には使えないわよ」

 まぁ普通は思いついても実行しないかもな。


「そんなに難しいかなぁ?」

「あなたホントに野生児ね」

「近所では普通だったけどなぁ」

「付いていけないわ」

 将来子供が出来たら伝授したかったなぁ。


「その深い所にウナギが居るんだよ、捕まえるのに何度ピョンピョンした事か」

「ホントに?大きいの?捕まえられるの?」

「獲れたのは一回だけだったけど上手く網に入ってくれたから偶々だよ」

「食べたの?美味しかった?」

「俺ウナギ嫌いなんだ、だから親が食べた、美味しいって言ってたよ」

「嫌いなのに捕るの?なんか変」

「狩猟本能かな?大抵の男は持ってるはずだけどね」

 草食男子も増えてるからどうだろうな。


 そんな風に子供の頃の思い出を語ったが結局変人扱いされただけの様だ。

 そして思い出の地巡りは終わりにしてカフェに行く事にした。




 そこは駅から歩くにはちょっと遠く、しかも結構登って行く。

 まぁ車だから何の問題も無いが、初めてこのカフェに行ったのが徒歩で、時期が夏の午後だったので、上り坂を息を切らし歩き続けた記憶が蘇った。


「こんな所にカフェなんて有るの?」

「あれ?地元の女子には有名な店だけど?」

「あたし地元の店知らないもん!」

 そうでした…


 しばらく行くとお寺の塀が見えてきた。

「ココだよ、ちょうど1台分駐車スペース開いてた」

「へぇなんか古民家風?」

「なんかねぇお寺の敷地に有るカフェって事らしい」

「すぐ隣がお寺の門だもんね」

「これは裏門かな?さぁ行くよ」

 車を降りて店に入る。


 庭をL字型に囲む様にガラス張りになっており、庭は綺麗に手入れされ周辺は玉石が敷かれ雰囲気は京都のお寺の庭にも思えた。

 店内の奥にはちょっとしたギャラリースペースが有り陶器か何かが綺麗に並べられていた。


 庭が直ぐ目の前に見える席につき、メニューを見るとコーヒーが650円とちょっとお高めだが、それだけの価値が有ると思った。

 俺はコーヒーとシフォンケーキを彼女はコーヒーとアイスを注文した。


 注文と入れ代わりに置いていった水を一口飲んだ。

「あぁ、これは変わったんだぁ」

「何が?」

「この水の入ったしっかりした作りのグラスだけど、昔来た時は違ったんだよ」

「どんなのだったの?」

「形は忘れたけど、口を付けるエッジの部分のガラスの厚さが危ういぐらい薄かったんだ、それこそ握って割ってしまうんじゃって思うくらい」

「へぇ、そんなグラス有るんだぁ」

 別に握力自慢してる訳じゃない、俺はそんなに強くない。


「多分特注で、その辺の店じゃ手に入らないんじゃないかな?」

「ちょっと興味ある、それ」

 と言って美成はスマホを弄ると画面をこちらに向けた。


「ジャングル通販で売ってるみたい」

「え?マジ?結構一般的だったのか…」

「ねぇ、気になったんだけどさぁ、前に来たのってあの子?」

「そう、元カノ」

「じゃあここも思い出の場所なんだね」

「そうなるな」

 今日はそういう日なので勘弁。



 話が一段落し庭を眺めているとコーヒーとケーキが俺の前に置かれた。

 続いて向かいにコーヒーとアイスが置かれる。

「わぁ美味しそう、フフ」


 あまりお喋りで時間を潰すと言うより、静かな空間を堪能すると言った雰囲気なので2人とも無口になりコーヒーを飲んだ。

 しかし熱いのと冷たいの同時進行だけどお腹は大丈夫かな?


 アイスも食べ終わった彼女は奥のギャラリーを眺めていた。

 俺は彼女とは反対の庭の一点を眺めてボーっとしている様に見えて頭の中で過去の記憶を再生していた。

 その記憶の中では元カノが先程のグラスが欲しいと言う内容だったのを思い出したのだ。

 そんな俺の様子に気づいた彼女は、恐らく自分から席を外したのだろう。

 何とも出来た嫁だ、いやまだ嫁じゃないか。


 30分も滞在しただろうか、そろそろ出ようと思い彼女に声を掛けた。

「そろそろ行こうか」

「うん、もう良いの?」

「あぁ、もう大丈夫だ」

 何が大丈夫なのか…



 車に乗り込み自宅へ向かう。

 彼女の運転も大分安心して乗って居られる様になったな。

「今日は楽しかったわぁ」

「俺も懐かしい所ばっかりだったから楽しかったよ」

「でも、行きたい場所はもっと有るんじゃない?」

「思い出の場所って括りではもうお腹いっぱいです」

「って事はそれ以外では有るの?」

「そりゃあるよ、京都に行く前にリストアップした所も行きたいし、それよりまずバイクでツーリング行くんだろ?」

「あ、そうだ!忘れてた」


 こうして来週は富士山ツーリングへ行く事になった。




不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。

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