38 思い出の場所を巡る②
よろしくお願いします。
背もたれの無いベンチに座る彼女を見て居ると、こみ上げる感情を抑える様に唇を噛みしめ、それを悟られまいと振り返り海を眺める。
恐らく誰にでも有る様な初めてが俺の場合、ここに集約されていた。
それだけに思い出す事も多いのだ
ある時はこのベンチに座り元カノの肩を抱いていた。
元カノは眠くなったと言い目をつむり静かになる。
こんな無防備な穏やかな顔を見て居るとつい肩を抱く手に力が入る。恐らくこれは彼女がくれたチャンスなのだろう。
しかし俺は不意打ちの様なキスは本意では無かったので、この時は目を覚ますまで待ってその日は別かれた。
その2週間後に俺は決意し、やはり同じこのベンチでキスをした。
このベンチは元カノとの色々な初めての場所だったのだ。
初めて手を繋いだ…
初めてキスをした…
初めて抱きしめた…
初めて一夜を共にするきっかけを作った…
そんな思いも有るが今は新たな彼女が居るのだ。
その彼女を蔑ろにするのは頂けない。
俺は再び振り返り彼女を見て言う。
「もう大丈夫、次行こうか」
「うん」
元カノとの思い出の場所はこれだけで十分だった。
この後は今の彼女の為に俺の過去に纏わる場所を案内した。
昔住んでいた川沿いの住宅街に着き車を止める。
「ここに二十歳頃まで住んでたんだ」
「へぇ静かな場所ねぇ」
「今は静かだねぇ、昔は子供も多かったから結構うるさかったよ」
今では子供の姿は一人も見当たらない。
「そうなんだ、じゃあこの辺で遊んでたの?」
「そうそう、この土手を走り回って鬼ごっこしたりね」
「土手の下、用水路じゃん危なくない?」
「ガキには関係ないからね、ハハハ」
子供なんてそんなものだ。
「結構無茶したんでしょ」
と言うので道路と用水路の境に有る金網を指さして言った。
「ココから土手に飛んで移動してたよ」
場所により幅は変わるが1.5m~3m程の川幅が有った。
「え?無理でしょ、ココ飛ぶの?」
「まぁ助走無しで飛ぶから走り幅跳び程の距離は無理だけど高低差も有るから小学生でも2m位は飛んでたよ」
「もう野生児じゃん」
「落ちるヤツも居たけど、マジでそんな感じ」
「「ハハハ」」
今で言うところのパルクール的な遊びを子供のレベルで散々やっていたのだ。
自分が住んでいたのは集合住宅の2Fで、両親が共働きだったので所謂鍵っ子で、たまに鍵を忘れてしまい帰宅すると当然ドアは開かない。
そんな時どうするのかと言うと、一つはベランダをよじ登り家に入る。
基本的に窓のカギは閉めて居なかったので出来た事だ。
ベランダの窓が閉まって居たら逆に北側の窓を横の雨どいやら何かの配管を使いよじ登る。
今で言う所のボルダリングの様な物だ、違うか。
「小学生でそんな事してたの?あっぶなぁい」
「俺の友達は平気でやってたよ」
「親は何も言わないの?」
「基本的に親の居ない所でやってるからね」
多分居たとしてもそれ程きつく言われる事も無かっただろうな、それくらいの放任主義だった。
「近所の大人たちは?」
「それこそ何も言わないねぇ、後で親にチクってたらしいけど」
「それって無法地帯?」
「そんな事は無いよ、ちゃんと子供なりに危険予知はしてたから」
身の安全は自分で得る物と自然と考えていたのだ。
「どんな事したの?」
「ちょっと来て」
彼女を土手の上に誘う。
「向こう岸まで行こうとしたら上流か下流の橋を渡らなきゃダメでしょ?」
「うん」
「でも俺たちはここから川を歩いて渡ってたんだ」
「えぇ小学生で?」
「そう、でもよく見て、川の流れが速い所と緩い所、川幅の広い所、狭い所色々あるでしょ?」
「うん」
「どこをどうやったら流されずに向こう岸に渡れるか、個人個人で考えてそれぞれでルートを決めて向こう岸に渡るんだよ」
服汚したりずぶ濡れになるとそれなりに怒られるので、何事も無かったかの様に帰れるのが条件だった。
「結構深いんじゃない?」
「深い場所も有る、逆に浅い場所も有る、そういうのを自分で判断して渡るんだ」
「へぇ子供なのに考えてるんだねぇ」
水深は股下ギリギリまでが限界だ。
「それでも途中リタイヤする事も有るけどね、思ったより深かったり、コケで滑りやすいとかね」
「それが危険予知なんだ?」
「そうそう、そんな言葉は知らなかったけどね」
まぁ子供の世界なのでこれでも結構な危険地帯だった。
「でも向こう岸には何しに言ってたの?」
「廃工場とかあってちょっとした探検かな」
「やっぱりそう言うの好きなんだねぇ男の子は」
「女子でも居たぞ少なかったけど」
「へぇあたしは無理だわぁ」
まぁ男の遊びは結構アホな要素が多いものなのだ。
不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。




