29 仮想旅行計画再び
よろしくお願いします。
出来あがった料理がテーブルに並べられる。
ブリの刺身は俺のリクエストだ。
あとはレタスや玉ねぎをマヨネーズで和えたサラダにワカメの味噌汁だ、それとトコロテンが付いていた。
何時に無くヘルシーな感じがするなぁ。
「さぁ召し上がれ」
「ハイ、頂きまぁす」
「いただきま~す」
TVの旅番組を適当に見ながら2人で食事をする。
食事中彼女はTVに映し出される観光地に「良いなぁ」とか「綺麗だねぇ」などと言いながら、実はそれ程興味が無い様だった。
食事が終わりまったりしていると彼女が口を開いた。
「今日何してたの?」
「今日は病院行ってた、それだけ」
「それで何か変わった事あった?」
「いや、別にいつもと同じ」
「そうなんだ…」
何か感づいたのかな?
普段それ程疲れてる様子も見せて無いし、悪化してるのを感じるとしたら髪の毛が無くなりつつある事くらいか。
今部屋に居る時でもニット帽は被ったままだが傍から見て分かるものなのだろうか?
取りあえず今は癌の転移については黙って居よう。
「手術は受けないの?」
「うん、俺の信念って言うか自然に逆らわず、変に科学の力で延命するのは止めようって決めてたんだよね」
俺の両親はやはり病気で亡くなった。
二人ともあれこれ機械を付けられたり薬漬けになるのを嫌がっていたが、あの頃はほぼ医者の言うなりで大量の薬を飲むのも辛そうで、そんな姿を見て居たからなのか自分は出来るだけ何もせずに終わりを受け入れようと考えていたのだ。
「でもさ、今のままなら長くないって言われたんでしょ?」
「うん、まぁ」
「この世にあんまり未練ない感じ?」
「未練と言えば無くは無いよ」
「何に未練あるの?」
と聞かれたものの一瞬躊躇した。
「う~ん例えば、F1でホンダがチャンピオンになる所見たいとか、spaceXの火星飛行の行方が見たいとか、動画配信サイトの推しの歌い手がデビューするのを見たいとか」
「なにそれ、あたしからすればどうだって良い話ばかりだし」
まぁそうなんだが、聞かれて即答出来たのがこれだけだった。
「そう言うなって、割かし本気で気になってるんだよ」
いや、そうでも無い。
「へぇ、でもさ、それなら手術した方が良いんじゃない?」
「そうだろうねぇ、でもさ決めたんだ」
「それでも…それでも、もう一度考え直す事は出来ないの?」
仕方ない、言うしかないか。
「考え直すつもりは更々無かったけど、実は今日の検査で周辺のリンパにも転移が見つかって、もう手術でどうこう出来る所では無いんだよ」
「そんなぁ、なんでもっと早く…」
「癌が分かったのが4月で、もうその時点で大きすぎて無理だったんだ」
「…」
「…」
まぁこんな反応になるわな。
「じゃあ…あと…どれ位生きて居られるの?」
「行きたい所に行けるのは2~3か月大丈夫そうだけど、その後はどうなるか分からないって担当医が言ってた」
「行きたい所って、このあいだの長野行ったのもそれ?」
「ああ、そうだよ、以前一度行ったんだけどまた行きたくてね」
「そうなんだ…」
「まぁ暗くなるなよ自分で決めた事だしさ」
「うん…」
そう、もう決めた事なんだ、今更元に戻す事も出来ないんだ。
「じゃあさ、まだ行きたい所は有るからさ一緒に行くか?」
「え?うん、行く、どこ?」
「う~ん、そうだな、じゃあ幾つか候補挙げるからそこから選んで」
「うん、わかった」
PCを起動し、いつかの【仮想旅行計画】のファイルを開いて候補地を選び出す。
「じゃあ、まず北海道、そして京都、あと阿蘇の方、それに飛騨高山、東北はSL銀河に乗りたかったけど今は走ってないから諦めるか」
「結構幅広いのね」
「まぁね、近場は粗方周ったからちょっと遠いとこばかり残ってる」
「そうねぇ、日帰りは無理っぽいね」
首都圏でも興味のある場所はわんさか有るが、優先順位的に今回は諦めた。
「ねぇ、行先あたしが選んでいいの?」
「良いよ、今の中から選ぶの?」
「うん、行先も行程も宿の手配もあたしがするから楽しみにしててね!」
「分かった」
「来週は空いてる?」
「通院が1回有るけど、それ以外は大丈夫」
「じゃあ楽しみにしててね」
「らじゃ」
そう行ってスマホに行先をメモして帰って行った。
そして翌日になってちょっと心配になった。
彼女は旅慣れていそうも無かったので参考にと行先別に更に細かく行きたい場所をリスト化しメールで送っておいた。
これで的外れな場所へは行かなくて済むだろう。
不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。




