26 借り
よろしくお願いします。
鉄ヲタとしての一つの夢を果たしてから数日後の土曜日。
昼の12時を回った頃、まだ夢と現実との狭間を行き来している俺の耳にハードロックな着信音が突き刺さる。
「もしも~し」
「は、い…」
目をこすりながら返事をする。
「もしかして寝てた?」
「うん…今起こされました、ハイ」
「なんか夜中に電話した時みたいな会話になってない?」
「そう?で、どうした?」
面倒なので適当にあしらう。
「そうそう、旅行どうだった?」
「あぁ、もう疲れたよ、パトラッシュ」
「何言ってんのよ」
軽いボケなのに怒られた…
「いや本当に疲れる旅だったんだって」
「そんな事して体は大丈夫なの?」
「まぁ動く内にやっておきたい事も有るんでさぁ、姉御」
「ちょいちょい言葉が変になるわね?」
「あ~薬の副作用かな、ハハ」
彼女にはボケは通じ無い様だ。
「それより、今夜空けておいてくれない?」
「今夜?でも夏川の説得は本当にもう良いよ?吹っ切れてるから」
「そうじゃなくって、この前言ってたでしょ?借りは返すよって」
「え~そんなこと言ったっけ?」
「言った言った」
とまだ眠い頭で思い出してみる。
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「さて、打ち上げはどこ行こうか?」
「え?どこって、今度はそっちが店探すって言ってたよね」
「あっ!」
「ん~、もう、じゃあまたカラオケで良いわよ」
「そう?悪い悪い、また何かで返せたら借りは返すよ」
「忘れないでね!」
「あぁ」
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あぁ言ったな、俺。
「そっか、じゃあその借りを返すのが今夜って事で良いのかな?」
「そうそう」
「わかった、いつもの場所で良い?」
「いいわよ、それじゃ宜しくね」
「あいよ」
「ツー」
まぁやる事も無いし、旅行の話を誰かにしたかったのも有るから丁度いいや。
ただ、もうちょっと横になって居たい気分だったので15時にアラームをセットし再び夢の世界へ旅立つ。
いつもの待ち合わせの場所に19時、俺の方が先に着いた様だ。
15分後、井口が手を振りながらやって来た。
「ごめんごめん、1本乗り遅れてさ」
「待てと言われれば良しと言われるまでずっと待ちますぜご主人」
「一体何のキャラなの?」
「俺にもわからん」
「じゃ、いつもの【にゃん!】で良いよね?」
「OKです」
もう自分の中では常連だと思い始めてる店へと向かう。
店に入るといつもの店員さんがこちらから言うのを待たず「お2人様ですね、こちらへどうぞ」とそのまま2人用個室へ通される。
やっぱり常連で良いのかも。
いつもの様に、とりあえずの日本酒をオーダー。
そして刺身に串もの、だけど今回は揚げ物が無いな、ダイエットか?
「「カンパーイ」」
その後は旅行の話を聞かれ、あれやこれやと答えるが、どれをとっても「良いなぁ」と返ってくる。
「お前も旅行すればいいのに」
「でもねぇ一人旅ってなんか寂しくてねぇ、あたしには無理かも」
意外と寂しがり屋なのか、てっきり一人でガンガン行くタイプだと思っていたんだが。
「友達とか会社の仲間とは?」
「う~ん、前に行った事あるけど、なんかねぇ…」
「なんか有ったの?」
「うん、みんなの意見が合わなくて揉めちゃったのよ」
「あぁ、それはありそうだわ」
「でね、ひとりはホテル直行して寝てるし、ひとりは勝手に街ブラ始めるし、あたしはどうして良いのか分からなくて結局ホテルに行ってあたしも寝てた」
「うわぁ、もったいねぇ」
「まぁ、それがトラウマなのかなぁ」
人に合わせるのも大変なんだよねぇ。
「俺もそう言う面倒臭さが嫌で一人旅してる所は有るかな」
「1人で行ける人は良いなぁ」
「そんなの簡単だよ、スタートしちゃえば仕方なしに動けるようになるって」
「そんなもん?」
「そうそう」
少しの沈黙の後、彼女が言った。
「あのね?聞いて欲しい事があるんだけど…」
不定期投稿ですが基本的に土曜日の20時を定期更新として1週間に1話以上を考えてます。




