02 一枚のハガキ
よろしくお願いします。
02 一枚のハガキ
病院の待合室でさっきすれ違った元カノの事を思い出していた。
やっぱり声は掛けられないなぁと改めて思う。
それは別れた原因に寄るものが有る。
「もう会えない」
「嫌いなのか?」
「嫌いじゃないけど…」
「じゃあなんで?」
「・・・」
と、これ以上の理由は結局語られず自分が振られた形だったが、自分が好きな相手を困らせる事はしたくないとも思い、それ以上聞くのは止めて別れを受け入れる事にしたのだった。
まぁお互い初めての相手と言う事も有って、言いたい事も言えずに内に抱えたままで、色んな葛藤が有ったのだろう。
別れてからそろそろ10年…
「しかし、見た目はそんな風には見えなかったなぁ」
あの頃の元カノと違和感無いくらいの美人だと思う、いや美少女?それ程に若く見えた。
そんな経緯も有ったのでこちらから声を掛ける事は相手からすると嫌な事だと思っていた。
ある意味「向こうから声かけて来るなら受け入れよう」等と言う変なプライドも有ったかもしれない。
それに数年に1度程度、かなりの接近遭遇を何度かしていて既にこちらから声を掛けるタイミングを逸していただけだった。
ただ、ヨリを戻す事が出来ればどんな条件でも飲んで良い、と思うくらいには今でも好きなのは間違いないのだが…。
すれ違い様に見た彼女は制服の様だったので仕事中だったのか、恐らく銀行への入出金などで外出していたんだろうと思い至る。
そうするともしかして帰り道でも遭遇するかも!?と思い、どうするか思案する。
再び遭遇したら声を掛けるか、それとも道を変えて遭遇を避けるか、どっちにするか!
診察だけのこの日は早々に病院を後にすると先程の思案に結論を出す。
【遭遇回避】それが元カノに対しては良い事だろうと判断し、来た道の一本奥の閑散とした通りを駅へ向かう。
アーケードと並行した通りは歩道に屋根は無く、夏の青い空がくっきり見えていて当然日差しも厳しい。
日差しを避ける物と言えば電信柱が有る程度で肉付が良くなった俺にはちょっとしんどい…
道の両脇は、駅と道の境界に有る高い塀と反対には駅前駐車場で金網が続いている。
そんな状況なので人通りが少なく遠くまで見通せる。
その遠くからこの通りを歩いて来たのが元カノだった。
寄りによってどうやら同じ様な事を考えたのか、はたまた裏を読んだのか分からないが彼女はもう20m先をこちらに向かって歩いてくる。
俺の思考はフル回転するが如何せん空回りしている、どう反応すればいいのか分からない。
どうやら俺は緊急時にはまるで役に立たない木偶の坊だと言う事が分かってしまった。
元カノの方は既にこちらに気づいて居る様でじっとこちらを見てる。
(睨んでるのか?)
彼女は両眼0.1とかなりの近眼だった。
眼鏡を掛けるのを嫌って居たので、駅の時刻表を見たり、行先案内板を見る時などでも目を細めて見ていた。
なので普段から何かを凝視すると睨んでる様に見られるとこぼしていた事が有る。
しかし仕事に支障も有るだろうし今ではコンタクトしてるのでは?と思うとやはり睨まれているんだろうなぁ。
流石にこれ程、行く先々に現れるとストーカーと疑われてもおかしくない。
ちらちらと元カノの方を見ながらも歩を進めると距離2m、俺は無言を通す事を決めた。
(駄目だな俺…)
さっきと同じ様に目が合いながらそのまま素通りする。
(やっぱり睨んでる…かなぁ?)
通り過ぎた直後に振り返って「ちょっと待って」…
と声を掛ける事も無く、そして振り返る事も無く俺は歩き続けた。
接近遭遇から数日後、一枚のハガキが届いた。
ハガキには「同窓会の御案内」と書かれていた。
不定期投稿で基本的に1週間に1話以上を考えてます。