陰キャだった俺が異世界転生した結果たまたま倒した雑魚モンスターがレアモンスで一気にlv9999になりましたので超絶楽勝なスローライフを送りまうわああああああ!?
やったぜ!!異世界転生して最強だ!!ヒャッハー!!
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俺の名前は日陰。自他共に認める陰キャだ。学校でのいじめを苦に屋上から投身自殺をしようとした直前に、突如横から飛び出してきたトラックに撥ねられてしまった。
「こ、ここは……!?はっ!?に、似ている!俺がやっていたゲームとそっくりだ!?」
意識を取り戻すと、視界いっぱいに広がる草原と、所々にある収集可能なアイテムたちが飛び込んできた。記憶が確かなら、ここは俺がやっていたゲーム"ドラゴンブレード物語"そのものだ。
「も、もしかして……ス、ステータス!……っ、まじか、本当に開けたよ!?」
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名前:ヒカゲ
LV:1
ジョブ:操剣士
HP:21
MP:6
力:18
賢さ:12
素早さ:8
魔力:5
運:4
スキル:剣装備lv1
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くそ!これはドラゴンブレード物語では一番外れ扱いされているジョブじゃないか!いろんな武器を装備できる代わりに全然ステータスが伸びなくて、最初は剣しか装備できないクソジョブだ!ふざけるな!!
「と、とにかく始まりの街に行こう!そこで装備を整えないと、雑魚モンスターにも殺される……!」
こうして俺の転生ライフが始まった。
だがこの時の俺は、この世界の真の恐ろしさに気付いていなかった。
いや、ゲームの恐ろしさにではない。そのほうがよっぽど良かった。
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なんとか始まりの街に辿り着いた俺は、転生者であることを周りに理解してもらおうと冒険者ギルドで訴えたものの、ただの頭おかしいやつ扱いされてしまった。
「くそっ!どうして皆わかってくれないんだ!し、仕方ない……せめてクエストで金を稼がないと……!」
「あ、あのー……」
ん?か、かわいい!二次元美少女が三次元になるとこうも可愛くなるのか!?
「すみません!もしかしてパーティーに入れなくて困ってますか?」
「え?は、はい!実はここに来たのは初めてだったんですが、何からすればいいのか分からなくて……」
嘘だ。まずクエストNo.3からこなして装備を無料でもらってから、それを使って他のクエストをこなしていけばいい。
「だったら、私と組みませんか?私も経験が浅くて、どこにも入れてらえなくて……」
だが、パーティーを組んでくれるというなら話は別だ!二人パーティーでも一人よりは全然マシだ!
「それはありがたい!よろしくおねがいします!俺、日陰って言います!」
「あっ……私はセリスです!よろしくおねがいしますね!」
セリスちゃんか!かわいいなぁー!よし、ここはゲームクリア経験者としてガッツリいいところを見せてやろう!
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支給されたルーキーソードは、攻撃力こそ最低だが、素手で殴るよりはずっとましな剣だ。よし、これならやれる!
「はあ!バッシュ!スラスト!」
「援護します!ファイアボール!」
ペアパーティーのいいところは、連携を取りやすいところだ。魔術師だった彼女には後衛に回ってもらい、操剣士の俺は前衛で敵を引きつける。
「やりましたね!日陰さん!」
「ああ!」
そうしてクエストを二人でこなしつつ道中のモンスターを狩っていると、それなりにレベルが上がってきた。
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名前:ヒカゲ
LV:5
ジョブ:操剣士
HP:53
MP:11
力:23
賢さ:13
素早さ:13
魔力:10
運:4
スキル:剣装備lv3、短剣装備lv2
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名前:セリス
LV:5
ジョブ:魔術師
HP:33
MP:57
力:15
賢さ:36
素早さ:10
魔力:49
運:21
スキル:炎魔法lv4
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しかも、このセリスちゃんはかなり魔術師の適正が高い。どれくらい高いかと言えば、その辺の雑魚モンスターなら魔法一撃で倒せるほどだ。おかげで俺も壁役に徹することが出来る。
だが、幸せな時間は長続きしなかった。彼女の活躍を聞いたB級パーティーが、彼女を引き抜いたからだ。
「ごめんなさい、日陰さん……でも、私も自分の力をもっと伸ばしたいんです」
「悪いね陰キャ君!さ、セリス。行こうか」
「は、はい……!」
恋するメスの顔だった。ちくしょう!いつの間に……!?ちょっと前からよそよそしい感じはしたけどさぁ!!
「くそ……また一人かよ!」
イライラした俺は、スライムの大群相手にやけになって斬りまくってた。毎日、毎月、毎年。ひたすらスライムだけを狩り続けた。そんなある日。
ガチン!!ズバ!!
「ん?」
なんか、硬質な手応えが……こ、これは、金属性粘液生物!!経験値の塊じゃないか!!こいつ相手にクリティカルを出したってことは!?
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名前:ヒカゲ
LV:9999
ジョブ:すべてをきわめしもの
HP:210000
MP:60000
力:180000
賢さ:120000
素早さ:80000
魔力:50000
運:4
スキル:全装備lv999、全魔法lv999、クリティカル必中、強制回避率+90%、全ステータス異常無効、HP自動回復(極大)、MP自動回復(極大)、なんたらかんたら………
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う………!?
「うおおおおおおおおお!!!」
俺は喜びのあまり吠えた。その吠えた声だけで周辺のスライムが砕け散り、微小な経験値が入ってくる。だが、もはや経験値など不要だ。なぜならすでに最強なのだから!!
「よーし!!この能力を活かして、余裕たっぷり超絶楽勝スローライフを送ってやるぜー!!」
もう恐れるものはなにもない!ゲームクリアなど最早どうでもいい!まずはモンスターをテイムして、lv99まで上げよう!そうすれば人間に变化して畑仕事をする時に役立ってくれる!ていうか美少女に変化する!やったああああ!!完全勝利だああああ!!
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俺は速攻で冒険者ギルドに最終ステータスを書き込んだ後、冒険者を引退した。当然色んなパーティーから誘われたが、俺には向いてなかっただけだと謙虚に固辞させてもらった。
その中に、かつて俺の相棒だったセリスがいた。俺は最後のお別れをすべく、ギルド内に併設された酒場で食事をすることにした。
「びっくりしました……まさか、日陰さんがそんなすぐに最強になるなんて……」
「俺も驚いてるよ。そういえば、セリスちゃんももうlv23なんだってね。おめでとう」
おや?随分と暗い顔をしているな。
「……本当なら、もっと強くなれてるはずなんです」
「どういうこと?」
「私、誘われた先であんまり経験値を分けてもらえないんです。酒場とか宿屋でお留守番させられることばっかりで……お、お尻とかいっぱい触られるし……」
「え?男女の関係じゃなかったの?」
「そんなわけないですよ!!あの人ったら色んな女の人を抱いて病気になってるくらいなのに!!」
だったらすぐ抜けりゃいいのに、なんで今さら俺にそれを話すのよ。……いや、違うか。多分、パーティーを転々とする女って噂が流れるよーとか、そんな感じの言葉で縛られてたんだろうな。ある意味、彼女も被害者だったのかもしれないな。
「でも、もう決めました。私、もう一度日陰さんと組みたいです!引退したことはお聞きしていますが、お願いします!日陰さんのスローライフに私も連れて行ってください!そこで日陰さんを見ながら修行し直します!」
「いいよ。君のことはずっと気がかりだったんだ。歓迎するよ」
ちょうどそこに、グラスが2つ届けられた。中身は上等なシャンパンだ。
「日陰さん……!」
「さあ、これからの僕らのスローライフに乾杯しよう」
「は、はい!」
俺はグラスを摘んで持ち上げようとしたが――
ぱぁん!!という音と共に手の中のグラスが爆散し、俺の手にグラスの破片が大量に突き刺さった。
「う、うおおおお!?なんだ!?グ、グラスが爆発したぞ!?」
「大丈夫ですか!?ヒ、ヒール!」
何が起こっている!?
「て、店員さん!グラスが爆発したんだけど!?」
「え!?い、いや、ただのグラスですよ!?爆発なんてするわけが!?」
「いいから新しいグラスを持ってきてください!今度はちゃんと新しいやつを!」
気を取り直し、慎重にグラスを持ち上げた。今度は爆発しないだろうとホッとした俺はセリスとグラスをぶつけ……たと同時に、やはりグラスが爆発四散した。
「どうなってるんでしょう……!?」
「わ、わからない……店員さん!もうグラスじゃなくていいから、金属製のやつに入れて!」
「は、はい!」
だが、金属製のコップを紙コップのように握り潰した時に、俺はすべてを理解した。なお、瞬時に握り潰したせいか、コップは赤熱化し、白煙を上げていた。
「10000倍だ……!!」
「え!?」
「一気に力が10000倍になったから、まだ制御できてないんだ!!え、てことは……コップを持つ時は、1/10000の力で持つってことか!?」
1/10000って、一体どんな力加減だよ!?1/1000だって難しいんじゃないのか!?そんな繊細な操作、俺にできるのかよ!?力18で握手しようとしたら力1800で握っちゃいました★手を物理的に圧縮してごめんなさい♪とか、そういうことも起こりうるんじゃないのか!?
「あ、あの!私が日陰さんの手の上にお酒を入れますから、それをすすってみては……?」
おお!それはナイスアイデアだ!!これで問題なく食事を開始できる!飯は……おお、コカトリスステーキ!手で持って食べられるものか!セリスちゃんグッジョブ!!
……だったんだが。
「おい、見たかあいつ……!?」
「金属製のコップを握り潰した挙げ句、手酌で酒を飲むだと……?ど、どういうプレイだ?」
「ていうか顎の筋肉もおかしくね?なんでコカトリスステーキを骨ごと食えてるんだよ……あいつ気付いてないのか……?」
「お、おい、よく見ろ……!持ち手だった部分が指の力だけでペラッペラだぞ……!?」
「げっ!?あの骨って鈍器転用されるレベルの硬度だったはずだよな!?」
やべえ……これ、普通に日常生活に支障出てるよ……。案の定、会計金額を払おうとしたら硬貨が粘土のように柔らかくねじられ、紙幣は和紙のようにあっさり破け、その財布すらカステラのように崩壊してしまった。財布は、セリスちゃんに預かってもらおうかな……。
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「さあ、じゃあ、もう山奥に土地は買ってあるし、野菜の種も買った。木材は山で手に入るし、まずは家を建てに行こう」
「はい!」
「きゃー!!」
出発しようとしたその時、目の前で女性が暴漢に絡まれていた。転生する前の俺なら見て見ぬ振りをするところだが……今の俺は最強だ。よし、助けよう!俺は暴漢に向けて走り出そうとして――
「待て!そこのうわああああああああ!?」
「日陰さん!?」
「な、なんだ!?うおおおおお!?なんだこの炎は!?」
「きゃあああ!!ふ、服が燃える!?」
「なに!?おい女!おとなしくしてろ!今消してやる!」
そう、俺の全身がいきなり発火した。踏み込んだ地面が泥のように溶けたせいで転倒した俺は、その勢いそのままに暴漢の横を飛び抜け、地面を転がって全身の火を消した。よく見ると最初に踏み出した地面が溶岩のように溶解している。
何が起こって……はっ!?そ、そうか!俺の動きが速すぎて空気との摩擦熱だけで発火したのか!!ていうか地面が溶けるほどの踏み込みってなんだよ!?俺よくさっきまで普通に歩けてたな!?
なんとか火を消した俺は、咳払いしつつも火傷一つないまま、暴漢たちへ指を向けた!ちなみにHPは2100減っていたので、初期状態の俺なら軽く100回ほど死んでたダメージではあるようだ。
「その手を離せ!さもないと許さないぞ!」
「てめーはこれを見てなんとも思わねぇのか!?今こいつの火を消してるんだ!かっこつけてねぇで水もってこい!」
「何!?それはいけない!待ってろ、今初級水魔法で鎮火をうわあああああ!」
「日陰さん!?待って!!駄目です!!」
「くそっ、こいつ何する気だ!?あぶねえ!!女、俺に捕まれ!!」
「きゃあああ!?」
俺は無詠唱で、ごく弱いウォーターショットを彼女の頭上に向けて放った……はずだった。だが相当手加減したはずのウォーターショットは、女性の頭があった空間を切断、一瞬発生した真空状態によって、ここを中心とした暴風が発生した。
そしてウォーターショット(超手加減)はその先の雲さえも裂き、一瞬で気圧が下がったためかゴロゴロと巨大な雷雲が発生。結果的に豪雨が降ってきたので、発火した地面も女性の服も鎮火できたのだが。
「大丈夫ですか!?もう安心で……」
「近寄らないでください!!」
「はい!?」
あろうことか、彼女は暴漢に身を寄せており、暴漢もまた彼女を守ろうとしている。その目はまるでラスボスを見るかのようだ。
「た、確かにさっきはこの人に襲われましたけど!その後火が付いたのも今水浸しなのも、全部あなたが原因です!ていうか死にかけた時は全部この人が命懸けで助けてくれたんですよ!?暴漢に何度も命を助けられた私の気持ちわかります!?お願いだから何もしないでください!」
「お、おめーは一体何なんだ!?流石に俺だって、そこまで全力で女を殺そうとは思わねえよ!?おい、女!とりあえずその格好じゃあれだから家まで送ってやる。料金は財布の有り金でいいな?」
「は、はい!……是非、お願いします。あの、お名前をお聞きしても……」
「は?い、いや、名乗るほどのもんじゃねえけどよ……お、俺の名前は――」
なんだか微妙に良い雰囲気で、男女は歩き去っていった。後に残されたのは燃えカスを着た俺と、セリスちゃんだけだった。
「あ、あの……日陰さんのステータスを見せてもらえますか?」
「え?あ、ああ……ステータスオープン」
「こ、これは……!?全部初期ステータスの10000倍なのに、運だけが初期値!?こんなの見たことありませんよ!?」
「何ぃ!?」
そ、そんなはず……あったわ!まじか!?学校の屋上でトラックに撥ねられて、異世界に転生する程度の運の悪さのまま、体の強さだけ10000倍になってるってのか!?
マジモンのハズレジョブじゃねえか!!おいいいいどうなってんだよおおおお!?
「と、とにかく日陰さん、このままでは禍を振りまくばかりで、王国からも危険視されかねません!私が服を買ってきますから、それを着たら早く山奥に潜りましょう!!」
「あ……ありがとう……!」
これではスローライフではなく、隠匿生活だな……。
だが、やはり服を着ようとしてもティッシュのようにすぐ破いてしまうため、更衣までセリスちゃんに手伝ってもらうことになってしまった。
lv9999でありながら、lv23の少女に介護されないと生活できないスローライフは、こうして始まったのである。
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いや、続かない。ていうか賢さが10000倍になってこれとか、これの1/10000だった頃はどんだけミニマム脳みそだったのだろうってなるぞ。