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第四話 織田家のオーダーと異世界の人



「えー、あの、今週末は、隣国との試合が、そのぉ、あるのですが」

「何だ? 言いたいことがあるならはっきりと申せ」

「……できれば、長可(ながよし)殿をマウンドに上げるのは、控えていただけると」


 王国の担当官が信長の威圧感に怯えながら言うが。信長と長可を除く全員が、それは妥当な判断だと判断した。


 球技が神聖なものとして扱われる世界なので、あんなイカレトンチキを先発に出した日には外交問題に発展するだろう。

 そもそも、その外交が球技なのだから、あとはもう全面戦争しか道はなくなる。


「うぬらは、この鬼武蔵(おにむさし)――長可の、真の力を知らぬ」

「と、おっしゃいますと?」

「……今はまだ、語る時ではない」


 意味深なことを言う信長だが、家臣団は全員知っている。

 信長は長可の起こす事件を面白がっているし、そもそも長可の弟である蘭丸(らんまる)は、信長とベッドを共にする仲だ。


 もちろん蘭丸本人は、兄の蛮行を止めてほしいと思っているとしても。

 しかし信長は、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの逆バージョン。

 蘭丸愛おしければ長可まで愛おしいという状態にハマっている。


「え、あの、それで、次回のメンバーは……」

「ふん、まあ貴様の顔を立てて、次のスタメンは変えてやろう」


 さりとて流石の信長も、前回の試合内容についてはとても擁護できない。

 紙にさらさらと配置を書き込み。信長から発表された織田軍のオーダーとは。



一番センター前田利家(としいえ)

二番キャッチャー丹羽(にわ)長秀(ながひで)

三番ファースト柴田勝家(かついえ)

四番セカンド織田信長

五番ピッチャー前田慶次(けいじ)

六番レフト森可成(よしなり)

七番サード明智光秀

八番ショート羽柴秀吉

九番ライト森蘭丸(らんまる)



 このような配置となった。


 しかし、ここで黙っている長可ではない。

 彼は揺り椅子をしながら、全身で不服をアピールしていた。


「俺が控ぇぇえ? ちょっと信長様ァ。俺は野手でだって、パカスカホームランを打って見せますぜ?」


 そう言われて。甘やかし癖のついた信長は、蘭丸と入れ替えようか検討した。

 しかし「流石にやめてくれよ」という無数の視線を浴びて、長可を説得する方向に動いたようだ。


「よく考えろ。隣国などただの通過点だ。そんなザコを相手に、我らの最終兵器を見せてやることはあるまい」

「そりゃまぁそうか。流石は信長様、話が分かるぜ」


 調子のいいことを言われてあっさりと引き下がった長可を前に、全員がほっとした表情を浮かべて。

 誰よりも安心した担当官は、信長の方を向いて言う。


「で、では。エルフの国との交流戦を組ませていただきます。これは公式戦ですので、負けると――」

「分かっておるわ。鉱山の採掘権か何かが取られるのだろう」

「……国庫の財宝も、ほとんど賭けております」


 各国が年に数回ずつ戦い。交流戦という名のリーグ戦が行われる。

 一回ごとの勝負にも何かを賭けており、今回王国が負ければ虎の子の銀山を取られてしまう。


 王国は既にボロボロで、領土が猫の額ほどしかないのだ。国王としてはもう召喚勇者たちの戦闘力に全賭け(オールイン)の、大博打をするしかないと思ったらしい。


 これで負ければ次はもう、植民地化の権利――滅亡――を賭けて戦うしかない。


 不安がいっぱいな担当官だが。戦闘能力。もとい、身体能力で言えば王国の人間など足元にも及ばない集団なのだ。

 少しばかり問題児が多いとしても、特殊能力や超人的な身体能力を持つ国々に対抗するにはこのじゃじゃ馬たちを乗りこなさなくてはならない。


「使者の方も大変ですね」

「少し、今後の相談をしておきましょうか」

「そうですな。酒でも飲みながら……彼らの扱い方を教えましょうぞ」

「あ、有難い」


 そして、アメとムチを上手に使い分けるのが織田軍だ。


 信長たち問題児サイドが精神を削ったあとに、光秀、半兵衛、秀吉の三名はさり気なく担当官に近づき。味方であるはずの王国に対して調略(・・)を始めた。


 ゆくゆくは王国よりも織田軍に忠誠を誓わせようという悪だくみなのだが。幸か不幸か、担当官の青年は全く気付いていなかった。







    ◇







「本日は初めての交流戦だ。これが我らの初陣となる。者共、かかれぇ!!」


「「「「「応!!」」」」」



 選手会長柴田勝家(かついえ)の号令で、なで斬り尾張軍は(とき)の声を上げた。


 今日の相手は魔法を駆使した四次元野球をすると噂のエルフ軍だが、この世界の敵がどういった攻撃をしてくるか。それを見定める試金石にもなる試合だ。


 負ければ王国が滅びるかもしれないので、王国側は全力で応援している。

 王国にしては珍しく。スタジアムには王国民が、超満員になるほど駆け付けていた。


「一回表、なで斬り尾張軍の攻撃です」


 拡声器の魔道具――魔法使いでなくとも動かせる便利な道具――から、ウグイスの声が響いた。

 鳥が喋っているが、それは置いておき。


 それを開戦の合図として、まずは利家(いぬ)が打席に向かう。


「フェアプレーで頼む」

「……異世界からの勇者たち、か。精々楽しませてもらおう」


 キャッチャーに声を掛けてから。

 利家は数回、バットをフルスイングした。


 剣圧――と、呼んでいいのかは分からないが。

 風切り音が遥か彼方にまで響くようなスイングスピードで、利家の素振りが投手を威圧する。


(……ふっ、戦を知らんな)


 普通はパワーがある選手を四番の前後に固めて、クリーンナップを作る。それが定石(セオリー)だ。

 出塁率が重視される一番打者にパワー型を据えるような蛮族が相手なら、本気を出すまでもない。


(内角高めの釣り球で軽くビビらせてやろう)


 エルフのキャッチャーはそんなサインを送り、ピッチャーが振りかぶる。


「貴様ら相手に、魔球を使うまでもない!」

「ウォォオオオオ!!! ……らぁ」

「なっ!?」


 力に任せてフルスイングするかと思いきや、利家は初手でバントを選ぶ。

 大柄な男が繊細なバットコントロールで、爪楊枝を扱うかのように優しく、内角高めの球を三塁側へ転がした。


「か、カバーだ!」

「ぬわっはっはっはー!!」


 利家は大柄なパワータイプと見せかけて、短距離走は織田軍ナンバーツー。

 出塁率も高い、妥当な一番バッターだった。


 最初のフルスイングも引っ掛け(ブラフ)であり、初手はバントでの奇襲を狙っていたのだ。

 まんまと作戦が当たった利家は、爆笑しながら一塁のベースを踏む。


「セーフ!」

「っしゃオラ!」


 悠々と一塁に辿り着き、ノーアウトで打順が回った。

 続く丹羽(にわ)長秀(ながひで)は、ベンチの方を向いてからバントの構えを見せていた。

 が、しかし。


「バント――は、やめよう」

「バスター!?」


 続く長秀はバントをするかと思いきや、途中で持ち手を動かし。

 バットを短く持ってのバッティングに切り替えた。


 不意を打った一撃は前進していたショートの頭を超え、レフト前ヒットになる。


「兵は詭道(きどう)なり。戦いとは、やはり騙し討ちでございますな」


 ベンチからサインを送るは、天才軍師と呼ばれた男。竹中半兵衛だ。

 数千人が攻め寄せても落ちなかった、難攻不落の稲葉山城。それを十数名の部下だけで陥落させた智謀は伊達ではない。


 相手の嫌がること。思ってもいないこと。

 つまり有効な戦術を冷静に分析している。


「ノーアウト一、二塁の陣です。勝家(かついえ)殿は正面突破を」


 なで斬り尾張軍は、絶好の得点機会を迎えた。満を持して登場したのは織田軍最強の男。

 鬼の二つ名を持つ、柴田勝家(かついえ)その人である。


「三番、ファースト。柴田勝家」


 ノーアウト一、二塁。この好機でクリーンアップの三番に回ったとあり、王国民は(のど)が枯れんばかりに叫んだ。

 頼むから打ってくれ。先制点を入れてくれと。


「むんッ! はぁッ!」


 絶好のチャンスを前に、勝家もやる気十分だ。

 彼が打席で素振りをすれば。バットで切り裂いた風が、ベンチまで届くほどの凄まじいパワーを見せつけた。

 パワーだけで言えば織田軍ナンバーツーであり、当然、利家よりも威圧感がある。


 そして、その様を見たエルフ軍のバッテリーにも、動きが見られた。


「くっ、こんな蛮人どもに先制されるなど、プライドが許さん! これ(・・)でいくぞ!」

「……まさか、アレを? こんな序盤で!?」


 冷や汗を流したエルフ軍のピッチャーは、ここで奥の手を切ることにしたようだ。




 助っ人外国人枠の松永久秀と森長可を組ませて、焼き討ち大炎上バッテリーとか作りたかったのですが。


 これ以上問題児が増えると収拾がつかないので、彼は氏郷くんたちと一緒にお留守番です。


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